第79章: ビヨンド2
光の奔流は前方へと突き進んだ――静かで、焼きつくようで、破壊的だった。触手が迎撃しようと伸びるが、まばゆい青光に触れた途端、溶け落ちていく。大蛇の形は崩れ、影の嵐となって光を覆い尽くした。
シンラは平然と立ち上がり、服の埃を払いながら僅かに不快そうに眉を寄せた。
「お前たち二人――」
続く言葉は終わらない。
影に散った光の残滓が、なお勢いを失わずシンラへ迫ったのだ。彼は手を掲げ、そのエネルギーを腐蝕させる。掌に押しつけられるように光が歪んだが、突破は叶わず、逆に倍化して反射し、ゲンキとセイジへと跳ね返った。
ゲンキは右へ疾走し、セイジは上空へ跳ぶ――それでも間に合わない。
突風がセイジをさらに押し上げ、ゲンキの足元の地面は崩れ、彼を穴へと落とし込んだ。反射された破壊光は街路を引き裂きながら通過していく。
ゲンキは穴の奥へ滑り落ち――次の瞬間、見えない力に弾き飛ばされるように上へ押し上げられた。地面に叩きつけられ、横を見ると、そこにはハルトが立っていた。手に揺らめく炎、鋭い眼差し。
「どうせ無茶すると思ってたよ。」とハルト。
ゲンキは痛む身体を起こしながら言う。
「助かったよ、ハルト…」
「礼はいらない。アイツが…俺のオヤジにしたことの決着をつけるだけだ。」
ハルトは一歩踏み出し、炎を撃ち出すのではなく、影を押し返すように燃やし広げた。接近戦でシンラの影操作を封じるためだ。
その戦法にセイジがにやりと笑う。彼の全身が怪しく発光し、触手が広がって戦場に杭のように突き刺さる。生物発光の結界が周囲を照らし、遠距離の影を完全に奪い取った。
シンラは袖に隠していた触手で応戦するが、そこへゲンキが飛び込み、出現する端から切り落としていく。
初めて、シンラは深く息を吐いた。
「子ども同士の連携…思った以上に厄介だ。仕方ない。では“最終術式”を見せよう。」
ゲンキの刃が火花を散らす。
「させるかよ!」
セイジが突進し、収縮する光の檻をシンラへ閉じ込めようとし、同時にハルトが炎撃を放つ。
「遅い。」
シンラが手をかざした瞬間、純黒の奔流が炸裂し、戦場全体を飲み込んだ。
光が消えた。
炎も、霊力の輝きも――一瞬で奪われた。
三人は、シンラの“絶対暗黒”の中へ沈んだ。
ゲンキは闇を切り裂くように走り回り、見えない触手へ無闇に斬撃を振り下ろす。ハルトは自身を炎で包むが、炎は闇に汚染され、逆に彼の身体を焼く。風も、土も、闇の前に崩れ去る。シンラの拳が暗闇から飛び、ハルトを地上へ叩き落とし、彼は意識を失った。
セイジは触手で繭を作って耐えようとする。しかし圧力は増し続け、触手は裂け、押し潰され、彼の身体ごと沈んでいった。
それでもゲンキだけは立ち向かった。
剣は消え、電撃は身体の中へ逆流し、膝をついた。痙攣が走る。腹に衝撃が叩き込まれ、彼は弧を描いて吹き飛ばされた。
その時――闇が砕け散った。
シンラが顔を上げる。夜が終わり、地平線から朝日がこぼれ始めていた。
「運が悪い。最終術式はもう使えん。」
ゲンキは震えながら立ち上がった。怒りと疲労が混ざり、身体を支えていた。足元には倒れたセイジとハルト。影がゲンキを押し倒し、その身体を地面へ押しつける。
視界が揺らぐ。意識が遠のく。
――その時、聞こえた。
声だ。澄んだ、しかし天使とも悪魔ともつかない響きで、魂そのものへ直接語りかけてくる声。
「解き放て。我ら魔術師を。望みを叶えてやろう。」
空の上から、ノイズを帯びた手が降りてくる。触れられそうで、決して届かない幻の腕。
ゲンキはその手へ伸ばした。指先がかすめ――そして掴んだ。
影が殺到し、彼を呑み込む。
天へ突き抜ける眩い光柱が爆ぜ、触手を瞬時に蒸発させた。




