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第78章:蛇

ゲンキは、暗黒の魔導師が変貌した姿を目にして思わず後ずさった。シンラの身体は巨大な影の大蛇へとねじれ上がり、戦場を見下ろしてそびえ立っていた。ゲンキの覚悟が一瞬揺らぐ。しかし、彼は自分の頬を強く叩き、無理やり意識を集中させる。武器が手の中に具現化した。霊力はほぼ底をついていた――リカとサナエが倒れる前に多少なりともシンラを削ってくれていたはずだ。そうでなければ、この戦いはもう終わっている。


数百もの触手が大蛇の体から放たれた。ゲンキは雷の速さでジグザグに駆け抜け、押し潰そうと迫る触手をすり抜けていく。手のひらから放った水刃が大蛇の体を切り裂くが、うねる触手の層に阻まれ、ほんの表面を削っただけだった。さらに触手が地面に叩きつけられ、大地が激しく揺れる中、ゲンキは身を翻し、眼光を鋭く研ぎ澄ませて動き続ける。


彼は巨大な氷壁を立ち上げ、わずかな時間を稼いだ。壁の裏で、両手が素早く封印術式の動作を描く。

三十秒――完成に必要な時間。


だが、与えられたのは十秒にも満たなかった。


氷壁にひびが走り、触手が這い上がり始める。次の瞬間、シンラがその巨大な胴体で突撃し、壁を粉砕した。ゲンキは跳び退き、半ば形成された術式は霧のように消える。近くの建物を蹴って反動で飛びかかる――だが、大蛇の尾が横薙ぎに襲い、彼を空中で捕らえた。締め付けられ、肺の空気が絞られるように抜けていく。


圧が強まる。ゲンキの肋骨が悲鳴を上げた。


その瞬間、大地が雷鳴のような破裂音とともに裂けた。強烈な衝撃波が地面を走り、シンラはゲンキを放り出す。ゲンキは空中で体勢を整えようとしたが、それより先に、超高速で飛び込んできた影が彼を捉えた。肩から生えた腕が振り上がり、拳がゲンキの胸に叩き込まれる。ゲンキはさらに高く吹き飛ばされた。


セイジだった。


彼はシンラへ鋭い視線を向ける。

「利用されるのは、好きじゃないんだよ…黒漆くろざね。」


大蛇が揺らめき、触手が再び編み直されていく。シンラの声は、変わらず滑らかで落ち着いていた。

「利用するつもりはなかった。カイトの指示は“相川を倒せ”だけだ。お前が失敗した時に助けろとは言われていない。」


セイジの身体が歪み、背中から巨大な触手が伸びる。それぞれに牙、爪、毒腺といった異形が付属し、一斉に暴れ狂った。彼の低い声は怒りに震えていた。

「ふざけんな…最初から全部お前の掌の上だったんだろ。なあ、一つだけ答えろ。相川が…本当に俺の父さんを殺したのか?」


シンラの触手がセイジの触手を切り裂きながら襲いかかる。その声色は一切揺れなかった。

「いいや。倒した後、命は奪わなかった。私が無理やり戦わせ続けた。そして、最後の一撃を入れたのは…炎上ダイゴだ。」


セイジの目が細められ、顎が固く噛みしめられる。痛みと怒りが入り混じった表情のまま、彼の触手は裂け、血を散らしていく。


その横を、ゲンキが疾風のように駆け抜ける。まっすぐシンラへ突進する。その一瞬だけ、二人の視線が交錯した。セイジは深く息を吐き、肩を落とす。

「…いいよ。協力してやるよ。今回だけだ。」


彼は空へ跳び上がり、最後の触手が巨大な爪へと変形する。パチン、と音を立て、戦場全体に轟く衝撃波を放った。同時に、ゲンキが氷を解き放ち、大蛇の身体を瞬間的に凍りつかせた。長くはもたない。それで十分だった。


衝撃波はシンラへ直撃し、巨大な身体を大地へ叩きつける。地面全体が揺れた。


ゲンキとセイジが並んで着地する。視線が再びぶつかる。セイジが先に口を開く。

「お前の…例のとんでもない剣技、聞いてる。」

自分の脚――再生中の足――を指差す。

「俺のエネルギーを使え。ただし…取りすぎるんじゃねえぞ。」


ゲンキは黙ってうなずいた。短剣がセイジの脚をかすめ、少量の霊力が吸い上げられる。次にゲンキ自身の脚へ突き立て、限界を踏み越える。集められた力が剣へと注ぎ込まれ、唸るような圧力を帯び始めた。


彼は剣を掲げる。周囲の大地が、力の濁流に耐えきれず液状化していく。そして、一閃。


巨大な衝撃波が戦場を駆け抜け、大地を溶かしながら、倒れたシンラへまっすぐ突き進んだ。

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