第74章: 後戻りできない地点
ゲンキは荒く息をついていた。
カイトとの戦いは――レイカの支援があっても――あまりにも過酷だった。
手の中で印を結ぼうとしたが、動きが鈍く、リョウのような鋭さも速さもなかった。
カイトの次の一撃を避けざるを得ず、集中が完全に途切れる。
ゲンキは素早くレイカへ振り向いた。
「どうする? このままじゃ持たない。でもカイトを傷つけずに勝つ方法を見つけなきゃ。」
レイカは障壁を張ったが、カイトを止められたのはほんの一歩分だけ。
彼はそのまま回り込み、障壁を突き破って突進してくる。
ゲンキは精霊剣を出す余力もなく、代わりに短剣を呼び出して受け止めた。
レイカの目がその武器に向く。
「彼のスピリットエネルギーを吸い取って、少しでも動きを鈍らせられない? もしまだ戦う気なら、その分あなたが強化されるでしょ。」
ゲンキは後退しながら足を滑らせ、片膝をついた。
「……それなら、やれるかも。」
短剣を投げ放つ。
カイトは刀でそれを弾く――だがレイカが即座に障壁を展開。
運命を操る彼女の力が働き、刃は偶然の角度で跳ね返り、カイトの脚を切り裂いた。
ゲンキはその隙を逃さず、エネルギーを吸い取る。
ほんの一瞬――それだけでも十分だった。
カイトが短剣を引き抜くより早く、ゲンキは力を取り戻す。
再び剣を呼び出し、電光のように突進。
押し返されていたはずの戦いが、今度は逆転する。
全身に漲る闘気。研ぎ澄まされた直感。斬撃のたびに、カイトが後退する。
ゲンキが剣を振り下ろす。カイトが受け止める――が、ゲンキの体がスピリットエネルギーに包まれ、膝でカイトの腹を打ち抜いた。
カイトが息を詰まらせる。だが、下段から足元を狙う。
ゲンキは足から氷の槍を放ち、その刀を押さえ込み、回転してカイトの脇腹を蹴り飛ばす。
カイトは地面を転がり、刀を手放した。
それでも、立ち上がろうとしている。
――それが、問題だった。まだ立てる。
ゲンキは足で刀を遠くへ蹴り飛ばす。だが、動けなくなった。
どうすればいいのか分からない。
氷でカイトを縛るが、魔力は弱まり、すぐに亀裂が走る。
胸が締めつけられる。
友を傷つけたくない――だが、このまま放っておくこともできない。
何かによって感情を奪われ、ただの殺戮兵器と化したカイト。
ゲンキの心は渦を巻いた。
責任の重みと、友情の痛み。
そして恐怖。もし自分が恐れに飲まれ、友を殺してしまったら――
その瞬間、彼は自分という存在を失ってしまうのではないか。
混乱の中で、師たちの声が脳裏に響いた。
――ダイゴの静かな声。かつて力に怯えていた頃の言葉。
「力が人を堕とすのは、求めた理由を忘れたときだけだ。」
――そしてリョウの声。ハルトを残してテテパレへ旅立った日の別れ際。
「世界のすべてを、お前たち二人で背負う必要はない。」
その二つの教えが、心の中でぶつかり合う。
氷が砕けた。
カイトが解き放たれ、刀へと手を伸ばす。
ゲンキは息を呑み、握り拳に力を込めた。
「……カイト、ごめん。」
剣が振り下ろされる。
カイトの指先が刀に触れる寸前――
赤い飛沫が、通りを染めた。




