第71章 範囲内
レイジ、リカ、サナエ、そしてリョウは倉庫の近くでそれぞれの位置につき、決戦の時を待っていた。
シズメとシンラが軍の部隊を蹂躙していく音が夜空に響く。兵士たちの悲鳴が、彼らの耳に重くのしかかる。
夜明けまで、まだ二時間。兵士たちがそこまで持ちこたえられるとは思えなかった。
魔導士たちは散開し、敵を包囲する機をうかがっていたが――夜の闇で最強となるシンラと戦うのは、あまりにも無謀な作戦だった。
その時、リョウは急に冷たい感覚に襲われた。まばたきした瞬間、彼はもう隠れてはいなかった。戦場のど真ん中に立っていた。
シンラの術――影を介して他者を転移させる能力だ。
リョウは即座に通信機に叫んだ。
「バレた! 奴ら、こっちの位置を把握してる!」
同時に、倉庫から無数の信徒たちが溢れ出した。銃を構える者、強化肉体で素手のまま襲いかかる者。
軍の兵士たちは苦戦していたが、リョウの援護を得てようやく形勢を立て直し始める。
轟音が夜を裂く。闇の魔導士の部下たちが戦車を爆破したのだ。火柱が空へと舞い上がった。
一方その頃、サナエとリカもまた隠れ場所から引きずり出されていた。
彼女たちを引き寄せたのは――クロザネ本人だった。
リョウとは違い、彼女たちは人里離れた場所に転移され、完全に孤立させられていた。
クロザネは不敵に笑う。
「わざわざ来てくれるとは親切だな。次に隠れる時は覚えておけ――俺の射程は一キロある。お前たちの居場所なんて最初からわかってたんだよ。」
サナエは背後に瞬間移動し、空間を歪めながら再出現する。
同時にリカが両手を突き出し、耳をつんざく衝撃音をクロザネの頭上に叩き込んだ。
彼がわずかに怯んだ隙を突き、サナエは背後から蹴りを放ち、さらに圧縮した空間球を作り出して彼を閉じ込める。
リカは勝ち誇ったように笑った。
「二人同時に相手して勝てると思った? 無謀ね、クロザネ。」
だが、その声の背後から別の声が響いた。
「忘れっぽいな。」
振り向くと、クロザネが闇から歩み出ていた。周囲に無数の触手が爆ぜるように伸び広がる。
「俺は闇がある限り、どこへでも行ける。」
リカは地面を踏み鳴らし、巨大な衝撃波で触手を吹き飛ばす。
サナエが瞬間移動で彼女をシンラの上空へ送り、リカは両手を合わせ、圧縮音波を叩きつけた。
しかしシンラは笑みを浮かべたまま、その衝撃波を片手で受け止める。
音が歪み、崩壊し、やがて爆裂音となって四方に弾け飛んだ。
夜を切り裂く咆哮のような轟音が響く。
リカとサナエは耳を押さえながらも、息を整え、長期戦の覚悟を決めた。
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その頃、シズメはレイジを見つけ出していた。
血魔術で彼の体を拘束しようと進み出るシズメ。
レイジは両手をコートのポケットに突っ込んだまま、苛立ちと怒りを混ぜた視線で彼女を見据えた。
風が二人の髪を揺らす。
レイジは槍を召喚し、一直線に投げ放つ。狙いは彼女の胸元。
だが――その身体は不自然にねじれ、外部からの力で引き寄せられたように回避した。
レイジはため息をついた。
「自分の血まで操る気か? ほんと、正気じゃねぇな…」
シズメは狂気じみた笑みを浮かべ、乱れた髪をかき上げる。
「どうしたの? 本気を出してよ、ミズハラ。あなたの“特別な力”、見せてほしいの。」
レイジは槍を手元に呼び戻した。
背中に霊力の翼が現れ、暗闇の中で淡く光る。
「……わかった。手短に済ませる。」
言い終えるより早く、彼の姿は風のように掻き消えた。




