第68章 凍りついた
ゲンキは氷の鳥と視線を交わした。
互いに、沈黙の中で相手の力量を測る。
これを解き放つのは危険だとわかっていた——それでも、他に手はなかった。
カイトが再び立ち上がり、剣を構えて突進する。
レイカが障壁を張るが、その前に鳥が飛び立った。
触手が襲いかかる——だが、鳥の放つ冷気に触れた瞬間、すべてが凍りつく。
鳥は翼を激しく打ち、急降下した。
その一振りで、下の水面が一瞬にして凍りつく。
セイジの触手が固まり、動きを封じられ、氷の下に閉じ込められた。
初めて——セイジが戦場から消えた。
ゲンキは両手で剣を握りしめる。
カイト相手には、わずかな油断も死を招く。
刃と刃がぶつかり、火花が散った。
ゲンキが左に斬り抜け、カイトが突きを放つ。
レイカの障壁がそれを受け止め、ゲンキに首を狙う隙を与える。
——一瞬、勝機が見えた。
だが、彼は止めた。
「カイト……お願いだ。もう、戦う必要なんてない。」
カイトは答えない。
ただ無機質な目で、容赦なく斬りかかる。
ゲンキは押し込まれ、桟橋の端まで追い詰められ——そのとき、気づいた。
セイジが倒れている。
彼は凍りついた触手を踏み越え、地面へと跳躍した。
カイトも迷わず後を追う。
氷の鳥は街灯にとまり、審判のような鋭い眼差しで二人を見下ろしていた。
再び、刃が交差する。
ゲンキは力で押し込み、カイトの剣を軸に体を翻して背後へ回る。
カイトは即座に倒立し、蹴りを放つ。
ゲンキは反撃しかけたが、寸前で腕を交差させて防御。
衝撃が全身を走り、よろめいた。
カイトが旋回し、足払いを狙う。
ゲンキは跳び上がり、空中で体をひねり、重い蹴りを背中に叩き込む。
カイトが地面に叩きつけられた。
その一瞬の隙を逃さず、ゲンキは掌を背中に当てる。
瞬間、氷の膜が広がり、カイトの身体を包み込んだ。
「……あぶなかった……」
ゲンキは荒い息を吐き、疲労の痛みに顔をしかめる。
「動かないで。」
レイカが駆け寄り、手のひらを輝かせながら治療を始める。
「さっき応急処置はしたけど、エイの毒がまだ残ってる。ちゃんと治すから。」
ゲンキは頷く。反論する気力もない。
「もう少し自分を大事にしなさいよ、バカ。」
レイカの声は優しくも厳しかった。
「本気で死ぬところだったのよ。」
ゲンキは重く息を吐いた。
「わかってる……すまない。まさかセイジがカイトを使うとは思わなかった。」
彼の視線が街灯へ向かう。
そこには、まだ鳥がとまり、静かに彼を見つめていた。
「そしてお前も……助かった。だが——街中を自由に飛ばせるわけにはいかない。」
ゲンキはもう一つの封印を取り出す。
鳥は抵抗せず、静かにその中へ戻っていった。
レイカの治療が終わりかけたとき——
足元の氷が軋んだ。
蜘蛛の巣のようにひびが広がり——
轟音とともに、下から炎が噴き上がった。
氷の海が砕け散る。
セイジが氷を突き破って姿を現した。
荒い息、燃えるような怒りの瞳。
その憤怒は、すべてゲンキへと向けられていた。




