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第5章:目を開けろ

夢だったのか、それとも記憶だったのか。

ゲンキにはもう、区別がつかなかった。


彼に残されていたのは、もやの中をささやく雑音のような声だけだった。歪んでいて、途切れ途切れで、意味を成さない――ただ、一つの言葉だけが、そのノイズを突き抜けていつもはっきりと響いていた。


「自由だ。」


それが何を意味するのか、彼には分からなかった。いつだって分からなかった。しかし、拒めない誘いのように頭の中でこだまするたびに、背筋に冷たい震えが走った。その声は、子供の頃からずっと彼の眠りの淵に寄り添っていた。いつも手の届かない場所にあり、言葉が形になる直前で彼は目を覚ます。その繰り返しだった。


今回も例外ではなかった。


ゲンキはゆっくりと目を開け、病室の無菌的な白い光にまぶしさを感じて瞬きした。かすかな唸り声を上げながら体を起こすと、胸に鈍い痛みが走る。これは痛みだ――夢ではない。間違いなく現実だ。

病院だった。


ベッドの脇の椅子には叔父のレイジが深く腰掛けていた。腕を組み、口にはいつものように爪楊枝をくわえ、目は穏やかだった。ゲンキが身じろぎするのを見て、彼は顔を上げた。


「やっと目を覚ましたか」レイジは言った。「そんなに焦るな。彼女は大丈夫だ。内出血がないか検査のためにここにいるだけで、命に別状はない。」


ゲンキは知らず知らずのうちに息を止めていたことに気づき、肩から力が抜けていくのを感じた。


戦いの情景が一気に脳裏に蘇る。弾丸。アドレナリンの奔流。そして全てが――砕けた瞬間。

眉をひそめて、ゲンキは言った。「なあ、レイジ叔父さん……戦っている最中に変なことがあったんだ。うまく説明できないんだけど、世界が砕けたみたいだった。弾丸が俺に向かってきたんだ。その瞬間……何もなくなって、弾は俺の後ろの地面に落ちたんだ。」


レイジの目が一瞬きらめき、すぐに落ち着きを取り戻した。「ふむ。結局お前が継承者だったか。驚きはしないな。うちの家系じゃ、一番若いのがそうなることがほとんどだからな。」


ゲンキは自分の手を見つめた。「そうかもしれない。叔父さんがそんな力を使うところは見たことないけど……じいちゃんは叔父さんとは違う力だと言ってたから。それと同じなのかも。」


普通なら、ショックで呆然とするところだろう。だがゲンキは違った。彼の人生は、ずっとその可能性に備えるためのものだったのだ。レイジには子供がおらず、遠くに住む両親は愛情深くも、彼を「奇跡の子」だと囁くばかりだった。彼には、バトンを渡すべき年下のきょうだいがいなかったのだ。


「彼女に会いに行ってもいいか?」疲れていたが、確かな声で尋ねた。


レイジは少し考えた後、ため息をついた。「一、二日したらな、坊主。電話番号は知ってるんだろう?そんなに会いたいなら、電話してやれよ、お前のガールフレンドにさ。」


ゲンキは呆れたように目を丸めた。「ガールフレンドじゃないって分かってるだろ?」


それでも彼は、近くの机にあった携帯電話に手を伸ばし、慣れた手つきで番号をダイヤルした。電話はつながり、そして――


「やっとかけてきたわね、眠り姫。」かすれながらも、いつもの鋭い口調でレイカの声が聞こえた。「もう二度と起きないんじゃないかと思ったわ。」


ゲンキはかすかに笑った。「はいはい。お前のドジを助けに行って、こんな目にあったんだ。別に、そのまま学食に直行してもよかったんだけどな。」


レイジは腕時計に目をやり、静かに立ち上がって、二人の会話を邪魔しないように部屋を出て行った。その後の数日間、二人は何時間も話し続けた。レイカの家族もできる限り見舞いに来た。レイジもしばしば顔を出した。しかし、二人はほとんどの時間を二人きりで過ごし、電話や冗談、半分本気のふざけ合いで時を過ごした。


そしてついに、ゲンキは外出許可をもらった。


レイカの病室へ向かう途中、彼は奇妙な男とすれ違った。手袋をはめ、フェドラ帽をかぶり、高価そうなスーツを着ていた。すれ違った瞬間、なぜか背筋にぞっとするような寒気が走った。


目的の部屋に着き、そっとドアをノックして中に入った。レイカはベッドに身をもたせかけ、包帯に巻かれ、打撲傷だらけだった――だが、いつものあの笑みは変わらずそこにあった。


「やっと来たわね」彼女はにやりと笑った。「もう二度と来てくれないのかと思った。」


「俺が来てやっただけでも感謝しろよ」ゲンキはベッドの縁にどさりと座った。「そのまま学食に直行してもよかったんだぜ。」


二人はいつものように、からかい合い、笑い合った。しばらくの間、世界は元の姿に戻ったかのように感じられた。


やがて、太陽が地平線の下に沈み始める頃、ゲンキは立ち上がり、帰ろうとした。ドアにたどり着いたところで、彼女が彼を呼び止めた。


「ちょっと……ゲンキ。」


彼が振り返ると、彼女の瞳が彼の目と合った。彼女は視線をそらし、急に恥ずかしそうな様子を見せた。


「ただ、言いたかっただけなの。助けてくれて、ありがとうって。」彼女の声は柔らかく、冗談めいた響きはなかった。頬にはかすかな赤みが差している。「それと、言いたいことがあって――」


**ドーン――**


またしても、一瞬の閃光とともに、世界は闇へと崩れ落ちた。


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