第26章 サイコ
彼の本名は遠い記憶となり、手が届かないものになっていた――家族など、最初から存在しなかったかのようだった。彼は自分が嫌悪する街で迷子になった少年に過ぎず、決して優しさを見せてこなかった通りをさまよっていた。
食べ物を乞うても、追い払われるか、あえて近づいたことで殴られた。誰も彼が生きようが死のうが気にしなかった。誰も……彼自身を除いては。
だから、彼は生き延びた。彼はスリになり、食いつなぐのに十分なだけ盗んだ。彼は巧妙だった――捕まるにはあまりにも優秀だった。何年も過ぎた。彼は人知れず、望まれず、かろうじて生活を維持していた。
そして、彼が十四歳の時、彼らは現れた。アメリカ人観光客だ。楽しそうなカップル。笑い合い、無警戒だ。二人とも分厚い財布を持っており、それは彼を数週間養えるだけのものだった。
彼は二人を路地裏に尾行した。音もなく。素早く。片手が女性のポケットに忍び寄る。
カラン。
蹴飛ばした缶が、彼の存在を裏切った。
カップルは振り向いた。男はナイフを引き抜き、彼には理解できない怒鳴り声を上げた――だが、その意図は明らかだった。
**サイコ**は考えるよりも早く行動した。
彼は飛び出し、男にタックルして地面に倒し、血が出るほど強く手首に噛みついた。男は悲鳴を上げ、ナイフを落とした。サイコはそれを掴んだ。
彼は凍りついた。ほんの一瞬だけ。男の顔に浮かんだ何か――恐怖、痛み、信じられないという思い――が彼の肌をゾクゾクさせた。
そして、彼は刃を突き立てた。
自己防衛が勝った。
女性は金切り声を上げた。彼女は壁にもたれかかり、パニックに陥った英語で懇願した。一つの言葉が、まるでそれ自体の刃のように混沌を切り裂いた。
“Psycho!” (サイコ)
サイコは首を傾げた。好奇心に満ちた表情だ。
彼はナイフを滴らせたまま、彼女に向かって歩いた。彼女は再び叫んだ。
「Psycho、か?」彼はつぶやいた。「サ、イ、コ?」
彼はナイフを突き出した。
「名前がないよりはマシだ。」
カップルの苦痛に凍り付いた顔を見て、彼の顔に満面の笑みが広がり始めた。彼は、財布には手をつけることなく、スキップしながら立ち去った。
その日、彼はなぜ一瞬立ち止まったのかを理解した。男の苦しみ――その目、その苦悶――それが彼を興奮させたのだ。最高の形で、肌が粟立つのを感じた。
純粋な恍惚感。
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現在。
サイコは跳ね起きるように目を覚ました。
「うっ……どうした?」
シズメは彼の隣に立ち、冷静にバイタルを監視していた。
「良かった。目が覚めたわね」彼女は言った。「処置は部分的な成功に終わったわ。あなたの体は今、魔法と高い互換性を持っている……でも、魔法のエネルギーを注入することはできなかった。」
サイコは首を動かし、鏡に映る自分をちらりと見た。頭は厚い包帯で巻かれている。
「あのガキ……必ず仕返ししてやる」彼は唸った。「すぐにだ。」
シンラが腕を背中に組んで近づいてきた。
「心配するな、サイコ。お前には大きな計画がある」彼はフードの下で微笑んだ。「だが、それには時間がかかる。そして、忍耐がお前の強みではないことは分かっている。」
サイコは顔をしかめた。「じゃあ、どうするんだ?」
「お前は再び眠りにつく」シンラは言った。「時が来たら……俺がお前を起こす。そして、お前は復讐を果たすだろう。」
サイコは鼻を鳴らしたが、頷いた。「分かった。俺を眠らせろ。だが、目が覚めた瞬間――」
「――あのガキに報いを受けさせる、んでしょう?」シズメは退屈そうな調子で言い終え、すでに麻酔薬を準備していた。
サイコはベッドに沈み込んだ。世界がぼやけていく中、一つの思考が彼の心に焼き付いた。
復讐。
彼はゲンキを苦しめるだろう。
そして、その一秒一秒を楽しむだろう。




