第2章:危機
レイジは装甲車の屋根の上に背筋を伸ばして立っていた。鋭い琥珀色の瞳が、通り過ぎる車一台一台を声を殺して警戒しながら見渡していた。車内では、ゲンキとレイカが落ち着かない沈黙の中に座っていた。その緊張感は濃密で、まるで空気そのものに重みがあるかのようだった。
上空から風が吹き抜け、木々がざわめいた。レイジが顔を上げると、青い瞳に黒い髪の大柄な男が見えた。風になびく濃い髭を生やしたその人物は、元素魔術師であり旧友でもある炎城大悟だった。彼は気流に乗って空中を飛んでいた。二人の目が一瞬合い、レイジはそっと頷いた。それに応じて大悟は高度を下げ、先陣を切って周囲の通りを警戒し始めた。
レイジは冷静な声で呼びかけた。「大丈夫だ。心配するな。ただの念のための安全対策さ。」その言葉で場の空気が少し和らぎ、レイカは安堵の息をついて背もたれにもたれかかった。ゲンキはかすかながらもどこか不安げな笑みを浮かべた。
突然、何の前触れもなく、何者かにレイジは屋根から引きずり落とされた。体は不自然な形に捻じ曲げられた。「なんだ――!」激しく歩道に叩きつけられたレイジは、転がりながら体を締め付ける見えない鋭い圧力がまるで万力のように自分を押さえつけるのを感じた。
闇の中から人影が現れた。漆黒のコートを羽織った女で、深紅の瞳が歪んだ歓喜に輝いている。「お前は……?」レイジは圧力に抗いながら呟いた。
黒沼静女、通称「血の魔術師」。三人の裏切り者の魔術師の一人で、生きている者、あるいはかつて生きていた者の血液を操る。肉体と生命に対する彼女の支配力はまさに悪夢のようだ。
潰される前に、大悟が近くに着地し、その衝撃で地面に亀裂が走った。彼はためらうことなく灼熱の炎を吹き出し、シズメめがけて放った。
「シズメ……随分大胆になったな」大悟は唸るような声で言った。
二対一でも、シズメは手強かった。彼女は不敵に笑い、指先には血が糸のように踊っていた。
「子供たちをここから離れさせろ!」レイジは運転手に怒鳴った。運転手はアクセルを踏み込み、タイヤをきしませながら車を猛スピードで走らせた。
車内でゲンキは目を見開き、後部の窓の外を見つめた。「今まで…本物の魔術師を送り込んできたことはなかったのに…」
レイカが答えようと口を開いた、その瞬間。
ドゴーン――
轟音とともに衝撃波が車を襲い、車体は激しく横転した。視界がぐるりと回転し、そのまま真っ暗になった。
数瞬後、音の魔術師・篠原リカ(褐色の肌に傷跡のある女性)が駆けつけた。しかし到着した時にはすでに遅く、彼女は転がった車体を見て目を見開いた。
「くそっ」リカは歯を食いしばって呟いた。
近くの路地から二人の男がバイクで飛び出した。どちらも大きな、うごめく袋を抱えており、反対方向へと走り去っていく。
リカは猛然と飛び出し、一台のバイクを追った。ねじれる路地を駆け抜け、足元では音の波動が連なっていく。リカはバイクの男に追いつくと飛びついて体当たりを仕掛けた。その衝撃で男の抱えていた袋が飛び出し、地面に落ちた――中身は偽物だった。
もう一方の袋の中にレイカが入っていたのだ。
リカは怒りに任せて拳を路面に叩きつけ、地面に亀裂を走らせた。
「レイカを逃した……」