第100章 炎の海
しばらくの間、投稿をお休みします。できれば数か月後には、また章の投稿を再開できたらと思います。
燐牙不知火は、十三歳の少年だった。くしゃっとした灰色がかった髪と、薄い茶色の瞳を持ち、家族とともに何年も世界を旅してきた。
彼らは裕福で、働く必要もなく、行ったことのない場所のほうが少ないほどだった。
燐牙には「故郷」と呼べる場所はなかったが、それを気にしたことはない。両親と、姉の鈴希がいれば、それで十分だった。
鈴希は長くて巻き毛の紫色の髪をしており、弟と同じ薄茶色の瞳を持っていた。
彼らが南米近海を航行していた頃、地平線の向こうで雲が暗く立ち込め始めた。
燐牙は船首に立ち、海を眺めていた。数え切れないほどクルーズを経験してきた彼は、船の隅々まで知り尽くしていた。ボウリング場、豪華なビュッフェ、ゲームセンター、プール——何十回も楽しんできた。
それでも、海だけは飽きることがなかった。
ほんのわずかな違いでも、いつも表情が違う。ほかより高く立つ波。頭上を飛ぶ鳥。時間帯によって変わる海の色。時には、クジラやイルカを見かけることさえあった。
そして何より、海の匂いが好きだった。乾燥して汚れた街の空気より、はるかに澄んでいる。海にいるとき、燐牙は一番「生きている」と感じられた。一番、自由だった。
突然、背後から鈴希が抱きついてきて、遊び半分に彼を持ち上げた。
「捕まえた! ほら、ママとパパが言ってたでしょ。今夜はあの高級レストランでディナーよ。あなたの誕生日のお祝いなんだから!」
燐牙は驚いて声を上げたが、相手に気づくと力を抜いた。
「わかった、わかった! だから離してって!」
鈴希は彼を下ろし、優しく髪をくしゃっと撫でる。
「行こ、弟くん。ディナーが待ってるわよ」
しばらくして、燐牙は鏡の前に立ち、スーツを整え、ネクタイを直していた。窓の方へ視線を向けたそのとき、ドアをノックする音が彼を現実に引き戻した。
母親だった。三十代後半の女性で、燐牙は彼女譲りの瞳を持っている。髪は鈴希に似ていたが、そこまで強くは巻いていなかった。
「ほら、貸して。」
彼女はネクタイを直してやる。
燐牙はうめいた。
「もう、自分でできるよ。俺、もうティーンだし。」
母は楽しそうに目を回す。
「そうかもしれないけど、あなたはずっと私の赤ちゃんよ。ほら、じっとして。」
燐牙はため息をついたが、それ以上は反論しなかった。
そこへ父親が姿を現した。髪は燐牙と同じ色で、瞳は深い青。背が高く細身で、無精ひげとトレードマークの笑顔が印象的な人だった。
彼は膝を曲げ、燐牙と目線を合わせる。
「さあ行こう、坊主。誕生日ディナーだ。腹は減ってるか?」
燐牙は勢いよく頷いた。
「うん、めちゃくちゃ!」
父の後ろから、鈴希が小さな箱を持って顔を出した。
「誕生日おめでとう、弟くん!」
彼女は満面の笑みで箱を差し出した。
燐牙はそれを開け、中に入っていた星型のネックレスを見て目を見開いた。中央には黒い宝石が埋め込まれている。
「うわ……すごい! ありがとう!」
彼はすぐにそれを首にかけた。
鈴希は得意げに腰に手を当てる。
「最後に寄った港で選んだの。似合うと思って」
家族は船内の通路を進んでいった。遠くでは、嵐の雷鳴が低く響いていた。
ディナーは最高だった。笑い合い、軽口を叩き合い、デザートにはケーキを食べた。
その夜、燐牙はベッドの上で、新しいネックレスを指でいじりながら横になっていた。嵐はすでに船に到達していたが、不安はなかった。海での嵐は何度も経験している。
せいぜい、眠りづらくなる程度だろう。
——その考えが、間違いだと知ることになる。
凄まじい轟音が彼を叩き起こした。稲妻が甲板に落ちる。数秒後、父が部屋に飛び込み、燐牙を抱え上げて走り出した。
燐牙は父にしがみつき、怯えた声を上げる。
「パパ、俺たち……大丈夫だよね?」
父はいつもの笑顔を浮かべて答えた。
「もちろんだ。救命ボートに行くだけだ。」
だが、その笑顔は、どこか目に届いていなかった。
甲板に出た瞬間、燐牙は理由を悟った。
激しい雨。そして、それ以上に、船全体に広がる炎。落雷が電気パネルを直撃し、火災を引き起こしていたのだ。
母と鈴希が救命ボートの近くにいるのが見えた。しかし、乗り込もうとしたその瞬間、彼女たちの前の床が崩落した。瓦礫が落ち、後方も塞がれ、逃げ道が断たれる。
父は燐牙を地面に下ろし、肩を強く掴んだ。
「燐牙、よく聞け。俺がママと鈴希を助けに行く。その間に、お前はあの救命ボートに行け。いいな?」
彼は、十数メートル先のボートを指差した。
涙を浮かべながらも、燐牙は頷いた。
父は短く抱きしめると、走り去った。燐牙も救命ボートへ向かって走り出す。
それは屋根と壁、そして小さな窓のある完全密閉型のボートだった。数人の不安そうな乗客とともに乗り込み、ボートは海へと降ろされた。
その直後——爆発が船を揺るがした。衝撃が救命ボートを直撃し、横倒しになる。
小柄だった燐牙は、窓から外へ投げ出され、海へと叩き落とされた。
他の乗客たちはそうはいかなかった。壁に叩きつけられ、意識を失い、救命ボートは転覆してすぐに沈んでいった。
燐牙は激しく水面に叩きつけられた。朦朧とし、恐怖で頭が真っ白になる。上下の感覚もわからない。
——考えろ。
彼は息を一気に吐き、泡を見た。泡が流れていく方向。
あっちが上だ。
必死に泳ぎ、海面を突き破って息を吸い込んだ。
数十メートル先で、船は完全に炎に包まれていた。爆発が連鎖し、火がすべてを飲み込んでいく。
「ママ! パパ! 鈴希!」
叫び声は嵐にかき消された。浮いているだけでも、体力を奪われていく。
燐牙は無理やり冷静さを取り戻そうとした。幼い頃から両親に叩き込まれた、パニックを抑える方法。
「十……九……八……」
そのとき、緑色の光が空を裂き、彼に直撃した。一瞬、水中へ引きずり込まれる。浮かび上がり、恐怖に駆られながらも、数を数え続けた。
「七……六……五……」
荒れ狂う海が彼を翻弄する。掴めるものは何もない。
「四……三……二……」
霞む視界の中、瓦礫がこちらへ飛んでくるのが見えた。
彼は目を閉じ、衝撃に備える。
「一。」
すべてが、闇に沈んだ。




