第五話
ここ数日間で何度も試したおかげか、何となく法則性が掴めてきた。箇条書きされていることを守ればこんなにも便利なものは無いと言うのが結論だ。しかし、大体こういうときに欲をかくから痛い目を見ると理解していたので大それた使い方はしなかった。「足るを知る者は富む」だ。
基本的な使い道としては朝に四万円の現金が欲しいと願いながら吸う。これだけにしている。残りの二本は適宜必要なことがあれば使用することにしている。これは実に賢い。
三が日も終わり特にやることもないので、桜史郎と実験がてら昼飯を食べに行くことにした。
彼は飄々としているが義理堅い奴ではある。レポートはなかなか自分ではやってこないが。小学生からの付き合いではあるからなかなか長い事になる。
今回の実験の目的としては、プリンや石鹸といった物は願えばすぐに現れると言うことは分かっているが、その対象が人間であった場合どうなるかだ。
キキョウと書かれた箱から煙草を一本取り出す。願いながら火を付ける。するとインターホンが鳴った。
「やあ、あけましておめでとう。連絡も無しにいきなり悪いね。この前言ってた飯を奢ろうかと思って来たんだ」
「これはすごい」と思わず口から漏れ出てしまった。
「何がすごいんだい?」
「こっちの話だ気にしないでくれ」
「いつものとこ行くか」と準備をしながら聞く。
「そうだね」
いつも通りのやりとりをしてファミリーレストランに向かった。平日の昼間にも関わらず、店内は家族連れで賑わっていた。注文を済ますと彼がドリンクバーで珈琲を取ってきた。
「一日三回まで簡単に願いが叶うとしたら何に使う?」と聞く。
「僕は手に入ったとしても何にも使わないかな。まあ強いて言うなら料理が好きだから、それ系に使うよ」と彼は珈琲を啜りながら言った。
昔のあいつなら、もっとしょうもない事に使ってただろうなと想像する。どうしようもない凡俗も歳をとると幾分かはマシになるのかもしれない。
彼との食事を終えて帰宅後、まだ試していない事を試す事にした。それは彼女の事だ。姿は鮮明に覚えているが名前がわからない。人間相手でも効果があることがわかったが、名前がわからない場合どうなるかは賭けであった。
緊張しているからか手が震える。箱から煙草を出す。深呼吸しながら煙草を咥え、目を瞑って願う。そしてライターのフリントに手をかけて着火する。煙草の葉が燃える音が室内に鮮明に響き渡った。
目を開けるとそこにあったのは一箱のセブンスターだけだった。