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私はおさがりではございません。

緑の森と大きな湖がアリシトリア王国。

そして春の陽光が降り注ぐ王都。

建国後、八百年になる、この国は隣国に比べて随分と平和であった。

それは王家が庶民を中心とした政治を行っているためである。


この平和な国のレゼリア伯爵令嬢であるエリカ・ルウ・レゼリア。

彼女は名門レゼリア伯爵家の長女として生まれ、その美貌と聡明さで社交界の注目を集めていた。

そしてエリカはこの国の王家へと嫁ぐことになっている。


ある日、エリカは、婚約者である第二王子エドワードに会うため、王宮へと向かっていた。


彼女の婚約者は、心優しく穏やかな第二王子エドワード。

その優しさは国民曰く「国を包むというほどに大きい」と評判なのであった。


そんな誰もが羨む良縁のはずだったが、エリカの心は複雑だった。


王城に入り応接にてエドワードを待つエリカ。

そこへエドワード王子の妹エリーナ姫が入って来た。


呼ばれてもいない彼女が入ってきてエリカに緊張感が走る。

エリーな姫の目線がエリカを敵対視していることが分かるからだ。


「この間までレオン兄さまの婚約者であったエリカ様。

 また、いらっしゃったのですね。

 そうか、今はエドワード兄さまの婚約者になっていらっしゃるんですものね。

 お盛んでなによりですわ。王家に嫁ぎたいというお気持ちは分かりますわよ。

 でもあまりガツガツなさらなくてもよろしいですわよ、ほっ、ほほほっ。

 ほんと、エドワード兄さまがおさがりを渡されたようで可哀そうですわ。」


そう嫌味だけを言って応接室を出て行った。


大きくため息を吐くエリカ。

(おさがり扱いでございますか・・・)

セリーナ姫の言葉は、エリカの心を深く傷つける。

彼女は、涙をこらえた。


 ーー ーー ーー ーー ーー ーー 


実はエリカは第一王子レオンの元婚約者だった。

もちろんまだエリカが幼いときに親が決めた婚約だった。


エリカは婚約者ということで王家では優しく受け入れてくれていた。


ここ数年はレオン王子は、王位継承者として多忙な日々を送っており、エリカとの時間を作ることは難しかった。

それでもエリカが王宮にレオンに会いに来るとレオンは忙しい最中でもエリカに満面の笑みを浮かべた。


「エリカ、よく来てくれた。君に会えるのを心待ちにしていたよ。」


忙しい最中でも自分に優しさを向けてくれるレオンに、エリカは申し訳なさそうに微笑みを返した。

どんな時でもエリカのことを考えてくれるレオン、エリカにとってもレオンがとても大切な人だった。

レオンは彼女に対していつも優しさと愛情を持って付き合ってくれ、エリカもレオン王子を愛していた。


王家や多くの国民はレオン第一王子は優秀な王子であり将来は良い国王になると皆が思っていた。


そしてレオン王子の弟であるのエドワード第二王子と妹君であるエリーナ姫は、まだ婚約者のエリカを本当の姉であるかのように慕っていた。

それは実はエドワード第二王子はほのかな恋心をエリカに抱いていたようではあった。

だが、成長と共にエドワード第二王子もやがて婚約を発表し、エドワード第二王子も彼の婚約者を愛するのだった。


だがそんな幸せな時間は一年前に終わりを告げる。


小国であったザイジグルが周りの幾つかの小国の併合を行い巨大な独裁国家を目指して進行を始めた。

小国からの支援要請を受けたアリシトリア王国とその他の国々は連合し、連合軍としてこの戦争に参加した。

これが記録に残る「西方大戦」である。


アリシトリア王国ではレオン王子が王国軍とともに参加した。


戦争は拡大を続けながら終わることが無いかとも思われた。

終戦の数カ月前から急にレオン王子の指揮する部隊が優勢になり始め戦争は終結に向かう。

そして迎えた最終戦闘。

最終戦闘が行われたアッセル城の戦いにおいてレオン王子は勝利する。

しかし、レオン王子は相手国のザイジグル王との対峙で大怪我を負ってしまったらしい・・・

しまったらしい・・・つまりエリカもそのことを人伝えに聞いた話だった。


レオン王子は瀕死の重傷ということで王城の特別な部屋に隔離され誰も会うことが許されていなかった。

たった一人の例外が王のみであり、王のみがレオン王子と会うことが出来るのだった。


エリカはレオン王子は明日をもしれない自分の運命を受け入れと知らされた。


レオンが心配なエリカへ王からの説明のための謁見が行われると知らせが来た。


しかしその謁見の場で辛い話を言い渡された。

「エリカの幸せを望むレオン王子の思いから婚約は破棄すると言っておった、儂もそう思う。

 レオンのことは忘れ、新しい幸せを見つけ、幸せになっておくれ。

 それは我王家全員の願いじゃ」


その話を聞いたとき、エリカは泣きながら訴えた。

「レオン様、そんな優しさはふようでございます。レオン様が生きているなら私はレオン様の婚約者でございます」


もちろん、そんな言い分は誰も聞いてはくれなかった。

それほどエリカを王家のみんなは思ってくれていたのだ。


結局王家から通達は翌日には発表されてしまった。

レオンの病気が重篤だと発表され、それとともにエリカとの婚約は白紙となった。


だが、レゼリア伯爵家では大変な騒ぎになった。

レゼリア伯爵家内ではそんなことは許されるはずは無い。


父のレゼリア伯爵は激怒し「儂の王の祖父になるという野望が・・・」などと酒を飲み愚痴を言い始めた。


その後、王家との婚姻を前に白紙撤回が認められないレゼリア伯爵家は強く抗議した。

エリカやレオン王子のことを気にかけた王家も強く言い張れなかった。

そのため、父のレゼリア伯爵の言い分を認めエリカは第二王子であるエドワードと婚約することになった。

その結果エドワード第二王子の現在の婚約者は、伯爵家の力関係による強制力が働き婚約破棄となった。


だが王子を取り替えるという婚約はレゼリア伯爵家に多くの侯爵や伯爵家から妬まれる原因となった。

また、うつり気な女とでもみえたのか、あんなに慕ってくれていたエリーナ姫から敵視され始めた。


それは再度の婚約後エドワード第二王子に会いに行った時のことだ。

エリカとエドワード第二王子、エリーナ姫の三人でいるときは違和感が無かった。

だが二人きりになるといきなり豹変したかのように言葉を浴びせかけてきた。


「エリカ様は、本当に愚かな方ですわね。

 第一王子の婚約者だったのに、

 第二王子の婚約者になるなんて。

 エドワード兄さまがおさがりを渡されたようで可哀そうですわ。」


セリーナの言葉を聞きエリカは耳を疑った。

まるで姉妹かのように付き合ってきた二人だったのに・・・


彼女は、感情を表に出すことはなかったが何も言えなかった。


セリーナ姫は何か気に入らないことでもあるかのように続けた。


「だって、本当のことですもの。

 エリカ様は、第一王子との婚約は破棄だったはずなのではないですか?

 それなのに、まだ、王家に入ることに執着して、結果的に王家を脅してまで入り込もうとする。

 そんなこと王家に対して不敬ですわよ、本当に厚かましいことですわね」


セリーナ姫の言葉は、エリカの心を深く傷つけていた。

彼女は、涙をこらえ、セリーナ姫から背を向けた。


婚約破棄以降エドワード第二王子だけが変わらず優しくエリカと対峙してくれた。


ある日、王宮で盛大な舞踏会が開かれることになった。

エリカは、美しいドレスを身につけ、舞踏会に参加した。

会場は、華やかな音楽と人々の笑顔で溢れていた。


エリカはエドワード第二王子とダンスを踊った。

エドワードは、優しくリードし、エリカをエスコートした。


ダンスを踊りながら、エリカはエドワード第二王子の優しさに改めて気づいた。

エドワードは、常に彼女を気遣い、優しく接してくれた。


エドワードは「エリカ姉さん」と声を掛けた。

「あの・・エドワード、・・第二王子・・・、姉さんではおかしくありませんか?」


「ごめんなさい、つい癖で」


彼は、エリカの隣に立ち、月を見上げた。


「エリカ姉さん、あなたは、本当に美しい。

 昔からからそう思っていた」


エドワードの言葉に、エリカは、ドキッとした。

彼女は、エドワードの瞳を見つめ返した。


「また・・姉さんなんて、変でございますよ。

 でもエドワード様、ありがとうございます。

 私も王家のために立派な・・・・」


エリカは、ぎこちない笑顔で答えた。

「王家」という言葉を出すと無理難題を言った父親の顔が浮かんで来る。

そのことを思い出すとそれ以降、涙が優先されそうで、言葉は出てこなかった。


エドワードはエリカの手を取り優しく握った。


「エリカ・・さんの気持ちは、よく分かっている。

 早急に色々なことを整理するのは無理だと思う。

 無理せず、あなたは自分の心に正直であれば良いんだ」


エドワードの言葉に、エリカは涙を流した。

彼女は、エドワードの優しさに感謝した。


「エドワード様、ありがとうございます。」


エドワード自身もぎこちなさが見え隠れする。

「姉さん」と呼ぶその行動自体が、その表れなのだろう。


もしかすると彼もまた、悲しみを内に秘めているのかもしれなかった。


エリカは最も支えて欲しいレオン王子がいないことが本当に寂しかった。

そして考える余裕のないエリカでは、エリーナ姫が急に態度を変えた理由など分からなかった。


 ーー ーー ーー ーー ーー ーー 


今日、王城に来たのはエドワード王子に会う以外に目的があった。

侍女として王城に雇われているリミカに会うためだ。


エリカは、今から自分がすることを考え、事前に気持ちを整理しようとしていた。

もっとも、リミカに依頼したときからすでにエリカは覚悟を決めていたのかもしれない。


実はリミカは上級の冒険者である。

エリカはいけないことだと分かっていたが、王城内を調べることを依頼していた。

もちろんその行動がばれた場合、レゼリア伯爵家にどう影響するのかは知っている。


リミカからの報告では、調査結果が出たようだった。


エリカがリスクの大きなことをする理由なんて単純だ。


「なぜレオンに合わせてもらえないのございますか?

 もう一度、本当に一瞬だけでもいいレオンに会いたいのです」


そのためだけだ、それ以外の理由なんてない。


今までに王城関連の情報を集めた。

たとえば、出入りの医者、祈祷師、薬師、薬屋・・・

それこそ、王城に出入りした、ありとあらゆる病気や怪我・治療に関する情報を集めた。

だがレオンが治療や療養している情報は出てこなかった。


だからエリカは何となく感じていたことに確信を持っていた。

(たぶんレオンは病気でもないし重症でもない)


だから侍女としてリミカに潜入してもらったのだ。


多分こんなことをしたと分かれば、ただでは済まないだろう。

でも、どうしてもエリカはレオンに会いたかった。


リミカにあった時、目の前のリミカは自信満々で書類を手渡した。

「調査報告です、えりか様。

 あなたの勘は当たってましたよ」


その言葉はエリカを安心させた。

そう「勘は当たってました」とはレオンが無事な姿であるということだろう。


「ありがとう・・・」


急ぐ気持ちを抑えて報告の内容を書いた書類に目を通す。


「えっ!!なんでございますの?これは・・・」


その内容は驚くべきものだった。


「本当に・・・ここなのでしょうか?

 王城地下・・・

 地下牢!?

 どうして!!」


それはエリカが思いもしない内容だった。

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