四十二話 少しずつ前進
「晴政くんは…どうなの…?」
「えっ?」
俺の気持ちを知りたいのだろう彼女が絞り出した言葉。俺の気持ちということだろうか?それとも…。
「私に、どうして欲しいの?」
涙で潤んだ瞳が俺を貫く。
どこか疑うような、でも信じたいような気持ちが入り乱れた複雑な感情があるんだと思う。
「一緒にいてほしい」
「っ…」
俺の思いを真っ直ぐに伝えると彼女の瞳が揺らぐ。
「花澄さんが好きなのは変わらないから」
「……私も、晴政くんが好き…」
花澄さんはそう言って俺の胸に飛び込んできた。それを受け止めて、そっと頭を撫でる。
そうしてしばらく経って、彼女は顔を上げた。
「…あの子、晴政くんを危ない目に遭わせたんだよね…?」
「まぁ、あいつがクソ親父に協力したせいで散々な目にあったから」
明らかに害意をもってたからね、厄介極まりないから不愉快なヤツではあったけど、アレは流石に論外だ。
あれだけのことをしたのだから、しばらく外に出れないだろうし前科もつくだろうが、俺の知ったことではない。
「それなら、しかたないのかな…?うーん」
「ごめんね花澄さん、いろいろと悩ませちゃって」
未だ頭を抱える彼女を抱き締めて撫でる、やはり色々と思うところはあるようだ。
だからこそ俺は寄り添わなきゃいけない、望むところだけど。
「……晴政くんが私のことを好きでいてくれてるのなら…今はそれでいっか…」
彼女なりに納得できないものの、俺を信じようとしてくれている。
それがとても嬉しい。
あれから数日経ち、仕事が終わった俺たちは一緒に帰っているところだ。
同じところで仕事をして同じ家に帰る…中々幸せなんだなぁこれが。
結局あのチャラ男は少年刑務所に入ったらしい。
いつまで入るのかは分からないけどね。
花澄さんはそれを聞いて落ち込んでいたが、今では少しずつ立ち直っている。
弟が罪を犯してしまったのは姉である自分のせいだと考えてしまっていたらしい。
そもそも彼女は色々と背負い込んでしまう性格であるのかもしれない。繊細なんだろう。
そうでなければ人付き合いで悩み、バイトや学校に行きづらいなんてならなかったはずだからな。
まぁそこに関してはそれだけじゃないけどね。
まだ俺では力不足かもしれないが、できるだけ彼女を支えたい。もちろん希もね。
まぁ彼女はどちらかと言うと支えてくれる側だが。
「ねぇ晴政くん、明日は休みだし勉強しよっか」
「うっ…」
そう、俺は花澄さんと同じ大学に通うために勉強を教えて貰っている。正直レベルが高すぎる。
俺はそこまで勉強が好きではないのでちょっと尻込みしてしまう。
「…ちゃんとやらないとウチの学校来れないかも」
「それはまぁ…」
それはたしかに困る。
俺は花澄さんと同じ学校に通いたいのだ。
「頑張ったらご褒美あげるから…ね?」
そういって微笑んでくる彼女を見て断れるほど勉強嫌いを極めてはいない。
「よっしゃ頑張る」
ちなみに希も同じ大学に行くつもりらしい。
曰く''二人だけだと私が知らないうちに進展するから''とのこと。
まぁ彼女が来てくれるなら楽しくなりそうなので良いけどね。
「あれ、お兄ちゃん」
「ん?あぁ美智」
花澄さんとのデート中、美智に声をかけられた。
「えっとその人って…お兄ちゃんの彼女だったよね?」
「そうだぞ」
「はい」
恐る尋ねてくる美智に、揃って肯定する。
すると彼女は花澄さんと向き合った。
「っ…あたし、お兄ちゃんの妹の美智です」
彼女はそう言って花澄さんに自己紹介をした。
ちなみに花澄さんに話したのはあのチャラ男に関わる話だけだ。
つまり彼女が俺に何を言ったのか、花澄さんは知らないし、知らなくていいことだ。
別に晒し上げがしたい訳でも集団リンチをしたい訳でもないからね。別に集団とかでは無いけれど。
「そうなんですね。よろしくね、美智ちゃん」
「はい!」
俺の妹と聞いてにこやかに挨拶をする花澄さん。
少しでも仲良くなってくれたら良いな。
いい加減に俺も前に進みたいのだ、いつまでもクソ親父のやった事が後を引くのも気持ちが悪い。
まぁ来江さんに関してはもう少し頭を抱えていて欲しい。母親の自覚がない人は反省してくれ。まぁ俺と血が繋がってないから正式な親子でなないけどね。
そこはケジメだと思って欲しい…なんてね。
俺が偉そうに言えることではないか。




