8-勇者様たち
「カセーツ君、そんな登場をしたら、ビックリしてしまうよ!」
極楽鳥勇者と一緒に来た初老の男性が笑いながら、自己紹介をして来た。
「シリウスさんに話は聞いているよ!イチ君だね⁈君も日本人なんだね。私はドラフト41位でワカシ―領から指名された、社口 長介と申す者だよ。覚えにくい名前だから、略して『社長』とでも呼んでくれれば良いよ。ちなみに…名前負けはしてないんだ!なにせ本当に小さな会社を経営していたからね!ははは」
「あ!あなたも日本人なんですか!」
同郷の人が他にもいた!良かった!しかも、落ち着いた感じの良い人みたいだ!
いや…まあ、そもそもあんなに濃ゆい勇者が何人もいるわけないよね。
そして残りの二人は…
「ドラフト44位でメーヘ領から指名された、エルマ=ドラよー!ラブぽよエンジェル教の教祖やってまーす!エルマって呼んでねー!好きなものはお酒!酒クズ1号です!イエ―!」
「ドラフト46位でナワキ領から指名された、ドブ=ロックさあ!『どぶろく』ってよんで欲しいさあ!お酒大好きでいつも飲んでるよ!酒クズ2号さあ!イエ―!」
真昼間からお酒を飲んでケタケタ笑ってる酒クズ男女の二人組でした…。
なんということでしょう、救援に来てくれた勇者4人のうち3人がアレな人です。
リコの方を見ると、ダメ大人を見て困惑する子供の目になっています。
ゲス郎は目を合わせないように、どこか宙を見ています。
なんなのこの人たち。
いや…ドラフト上位組は8位が一人いるだけとは言え、ドラフト順位は全員自分より上だ。
本当はこの人たち、物凄く強い可能性もあるのでは?
そんな事を考えていたら、この間ずっとヒーローポーズをとっていた極楽鳥ヒーローがこう言った。
「先に断っておくが、ミーたちは戦闘タイプ勇者ではないのでね!戦闘は、からっきしなんだ!いざと言う時は守ってくれよ!イエ―!」
サムズアップとウィンクをしながら大いばりで弱者宣言する極楽鳥ヒーローこと、カセーツさん。
シリウスさーん!なんでこんな人寄越したのおおおおおお!
頭を抱えていたら、やってきたトンチキ勇者隊の皆さんは、既に作物の収穫が済んでいる荒れ果てた畑を眺めながら何かを話していた。
そして、気付いた事があるらしく、カセーツさんがリコに話しかけた。
「ミーにはわかる!この畑…呪われてたね…!お嬢ちゃん…いや姫様だっけ。とりあえずリコさんと呼ばせてもらうよ!ぶっちゃけ、この畑、収穫量少なかったでしょ?」
「え…!あ、はい…人手不足と肥料が足りないのもあって…収穫量は散々でしたけど…この畑、呪われていたのですか⁈」
リコが驚いて、思わずそう尋ねる。
格好良いポーズを模索しながら、カセーツさんは芝居がかった返事をした。
「竜人の魔道具に、土地をおかしくさせる呪いの瘴気を撒き散らすのがあるんだ!おのれ竜人!姫様が留守の間にこんな真似を!許さん!…ってなわけで、エルマちゃん、プリーズ!」
カセーツさんに促されて、酒クズ1号…じゃなかった、エルマさんが前に出る。
「ほいきた!アタシのラブぽよエンジェル教の神様、スイートラブリー神の加護のたっぷり詰まったダンスの出番ね!」
そう言うと、レオタードとスカートを組み合わせたような、昔流行った美少女戦士みたいな服装に着替えるエルマさん。美人だけど、なんですかその恰好?しかもお腹に少し肉がついている。
ゲス郎は興味を持ったみたいだけど、無視する。
そして、着替え終わったあとは…白目を剥いて一心不乱にドタドタ踊り始めた!
「ホイヤー!セイヤー!アタタタタ!ホイヤー!セイヤー!アタタタタ!ホイヤー!セイヤー!アタタタタ!ラブリー!」
オタ芸と盆踊りをミックスさせたような意味不明なダンスが始まった…しかも運動不足らしく、全身の関節がポキポキ鳴っている…ちなみに、最後の『ラブリー!』はM字開脚でキメていた。
リコは切ない顔をしている。
ゲス郎はM字開脚を見てる。
自分は「(俺は…こんな人よりドラフト順位が低いのか…)」と言う顔をしていたと思う。
しかし、そう思っていた瞬間に…畑がキラキラと輝きだした!
「アタシの貰った祝福は『解呪』なのよ。ありとあらゆる呪いを解けるわ!もうこの畑は大丈夫よ!次から本来の力を発揮出来るから安心して!なんと連作も出来るのよ!さあ!種を撒いて良いわよ~!」
「す…凄いです!エルマさん!…でも」
ドヤ顔のエルマさんと、先ほどと打って変わって目をキラキラさせるリコ。
…だがまだ何か心配事があるらしい。
気になって尋ねてみた。
「どうしたの⁈リコ?」
「実は…今年の税金が足りなくて…種用の豆も持っていかれてしまっていて…種まきが出来ないんです…」
「ええええええ⁈もう駄目じゃないか!詰んだー!」
リコの説明に絶望していたら、カセーツさんがニヤリと笑う。
「はっはっは!やはりここはミーの出番だね!真の勇者の力を見せてあげよう!」
そう言うと合掌して、そのまま手の形でお椀を作る。
すると…大量の豆が泉のように湧きだしてきた!
「ジャーズ豆!鹿豆!大地豆!…君たちも良く知ってる大豆に小豆にレンズ豆もあるぞ!ミーの貰った祝福は『豆使い』なのさ!ミーに出せない豆はない!さあ!早く畑に植えようじゃないか!」
おおおおお⁈と、どよめきが起こる!
すると社長がその豆を畑に植えて、その場所で何か祈り始めた。
すると…芽が出た!
「私が貰った祝福は『成長促進』なんだ。植物や家畜を早く育てたりする事が出来るんだよ。ちなみに応用すれば、身体の機能を高めてケガを早く治す事も出来るんだよ!ふむ…この豆なら3日くらいで収穫まで持っていけるかな?」
「すごいすごい!」
「これなら足りない税金が払えるでゲス!ありがとうございますでゲス!勇者様たち!アッシは最初から貴方たちは只物じゃないと思っていたでゲスよ!」
ぴょんぴょん跳ねて喜ぶリコと、掌クルクルで勇者達をヨイショするゲス郎。
一気に場が明るく良い雰囲気になった!
しかし、それを見て自分はショックを受けていた。
竜人皇を倒せば、この世界は救われると思っていた。
でも、すぐにラスボスと戦えるわけじゃないし、状況は人類が不利。
正直、今は目の前の税金の方が深刻な問題だ、何せ民が連れて行かれてしまう。
だが、税金さえ払えれば、少なくとも民が連れていかれる事はない。
しかも竜人皇を倒せたとしても、その戦乱の後に食糧問題とかが発生するかも知れない。
そうしたら、誰が民のお腹を満たすのだ⁈
戦うだけが勇者じゃない。こういう形で、人を救う勇者もいるんだ…と思った。
「そりゃ…俺よりドラフト順位は高いよな、俺なんてヒヨッコだわ…戦闘しか出来ない…」
そう落ち込んでると、酒クズ2号こと、どぶろくさんが笑って話しかけてきた。
「気にすんなさあ!おいちゃんも大したこと出来ないけど、気にしてないさあ!」
この人は俺の一つ上のドラフト46位だっけ…でも…
「どぶろくさんは…どんな祝福を貰っているんですか?」
「はっはっは!おいちゃんは、本当に何も出来ないんさあ!出来るのは『ありとあらゆる物から酒を造れる』祝福でね!豆が出来たら、そこから旨い豆酒をたくさん造ってやるさあ!」
「そ…それは助かるでゲス!豆酒は高く売れるでゲス!税金も払えるし、財政に余裕が出来るかもでゲス!」
やっぱり凄いじゃないか!…俺は本当に最下位なんだなと思い知らされる。
そんな事を考えていたら、リコが民にお願いをして畑に種を植え始めていた。
落ち込みながら自分も、とりあえず畑に種を植える手伝いをする。
しばらくすると、畑周辺に鳥が増えて来た事に気付く。
植えた種を見る。まだ芽が生えていない。
この畑の広さだと、社長の『成長促進』を使っても、すぐには芽は出ないらしい。
このままじゃ鳥に、せっかく植えた種が食べられてしまう!
その時、バイト先の先輩達に教えて貰った知識を思い出した。
「ごめん!みんな!種を植えた所に枯草とかをかけておいて!種が鳥に食べられちゃうから!リコ!農作業者の皆さんにもそう伝えて!あと山に連なる道の周りに、美味しい草とかがあったら刈るように言っておいて!そうしないと、その草を伝って、山から動物が下りてきて作物が食べられちゃう!」
リコたちに伝えると、おお…⁈と言う反応。
「それもチートでゲスか?」
「いや…バイト先で教えて貰った知識で、チートとかじゃないよ…」
「いえ!助かります!すぐにみんなに伝えますね!ありがとうございます!イチ様!」
菜の花のように可憐で明るい顔をして駆けてゆくリコ。
いや…こんなの農業の初歩だよ…と思いながらも、この世界ではそう言った知識が無かったのか!と、今さら気付く。
「俺でも…役に立てる事はあるんだな…」
小さなことからコツコツやって行こう、それがこの世界を救う事になるのかも知れない。
自分はドラフト47位。圧倒的に格下。でも卑屈になる事はない。
そんな事を考えながら農作業を始めた。