85-魔女の家の前で
そして歩きながら街を眺めていると気づくことがあった。ドラゴニアの街は思っていたより規模は大きく、道はよく整備されている。ところどころ竜人兵は立っているが、数はあまりいない。竜人に協力的な人間が多いから、兵の数は少なくても良いのだろう。それより驚いたのは上水道はもちろん下水道まであるようだった。
「(魔法のある世界だから、元いた世界とは仕組みは違うかもしれないけど、それでもかなりの発展度だな……そしてこのインフラを整備、維持できるのが竜人か……)」
これは、人類が力を合わせても勝てないかも知れない。
思わず心の中でそう呟き嘆息するイチ。
そしてそのまま更に歩くと、ドラゴニア特有の黄色い家々の連なりが減ってきて家がまばらになってきた。そして、遠目でもわかる大きな白い家が見えてきた。
「フォレスタ、あそこじゃないかな?」
「たぶんそうだね……ん⁈」
フォレスタの顔つきが変わる。何かに気づいたらしい。
「フォレスタ⁈どうしたの⁈」
「誰かが家の中から出てきた……え……あれ……?」
フォレスタの反応を見てイチも白い家の方を凝視する。扉が開いて中から竜人と人間の二人組が出て来るのが見えた。
「(竜人の方は貴族みたいな恰好をしており身分が高そうだな。人間の方も身分が高そうな格好をしているがどこかで見た記憶があるような……いや、違う⁈二人とも見覚えがあるぞ⁈)」
その瞬間気づいた。
「よく見たら人間の方はエリトじゃないか!隣にいる竜人もどこかで……って、思い出した!ドラゴニア中心部の大通りで銅貨を地面に落として、老人に拾わせていた奴だ!」
名前は……たしか、ザーレとか言われていたっけ。
そんな事を考えていたら、エリトとザーレは停めてあった豪華な作りのスーホ車に乗り込み、こちらに向かってきた。
「(ゲッ⁈こっちに来た⁈)」
「(急に隠れる方が怪しまれるよ!何食わぬ顔ですれ違おう!)」
そのままゆっくりと歩き、エリトたちのスーホ車とすれ違う。
エリトはスーホ車の窓からこちらを軽く一瞥したが、すぐに興味をなくしたかのようにスッと視線を外した。
そしてそのまま街の中心部に向かってエリトたちのスーホ車は走り去って行った。
二人を乗せたスーホ車の姿が見えなくなった後に、皆で一斉に息を吐く。
「はー……ハラハラしたでゲス……」
「こちらは竜人の姿をしていたとは言え、生きた心地がしなかったな。でも……どうする⁈」
皆で顔を見合わせた後、イチが皆に問う。
「たぶん、ここが魔女カルラの家だと思うのだけど、このまま魔女カルラに会いに行ってよいものか?今までの状況を見てみると、流れてくる悪い噂に、街の人からの異様な嫌われ方。そして、カルコス屋の主人が言っていた『また竜人たちの仕事を請け負おうとしている』の文言、そして……」
イチは少し黙った。そして一呼吸置いてまた喋り出す。
「極めつけは……エリトと竜人が魔女カルラの家から出てきたという事実だ。これは話をする以前の問題だぞ⁈会ってみようと思っていたけど、これは……」
イチの発言に皆はもう一度顔を見合わせる。
重い空気が流れた。
しばらくしてフォレスタが口火を切った。
「みんな、一旦、街に戻ろう!ボクは父さんからこの街にいる森の民の協力者の家は教えてもらっているから今日はそこに泊まる事にしようよ。そして明日から街でもう少し情報を集めてそれから……」
「そうでゲス、なにより食事にしたいでゲス!もうお腹がペコペコで死にそうでゲス!」
フォレスタの発言にかぶせてくるゲス郎。こいつは~!
まあ……でも気持ちはわかるけどさ。
そう思いながら見ると、ゲス郎だけじゃなくて皆も疲労困憊の表情をしていた。無理もない、色々あったからなあ。
イチは少し考え込んだ後に、
「そうだな、家は大体わかった事だし、一旦引こう。情報を集めて後日また……」
そう言いかけた時だった。
目の前を緑色の鳥が横切り、イチたちの周囲を2周りしたかと思うと、イチの顔面の前でハチドリの様に羽ばたきながらホバリングし始めた。
「リーチリリ……リーチリリ……」
この鳴き声はメズメか……可愛いな。でもなんか妙に人に懐いているな⁈
そう思っていた時だった。
「待ってたぞ勇者イチ」
目の前のメズメが人語を喋った!
「え⁈メズメが喋った⁈……」
イチたちが動揺していると、メズメは続けた。
「事情はシリウスから聞いている。カルラ様がお待ちだ。全員さっさと中に入れ」
偉そうな口調でメズメが告げてきた!




