84-噂の魔女
「(とんでもない場所だな……こんな所に長居は無用だ、さっさと魂の魔女カルラの所へ行こう)」
イチは心の中で吐き捨てるように呟き、気を取り直して何食わぬ表情を作る。そして、カルコス屋の主人に聞いた。
「そうか、すまないな。ところで一つ聞きたいのだが、魔女カルラを探しているんだが、何処に住んでいるのか、教えてもらえないかな?」
その瞬間、冷たい空気が流れた。
「え……魔女……カルラ……ですかい⁈」
見るとカルコス屋の主人は明らかにイヤそうな顔をしている。
「(あれ⁈なんだ、この反応⁈)」
ふと周りを見る。すると、他の人間たちも同様に、魔女カルラの名前が出た瞬間に嫌悪感を丸出しにした顔をしている。イチたちが戸惑っていると、
「あ!そうか!また魔女カルラが竜人様たちの仕事を請け負おうとしているのですね!さすが竜人様!あの魔女に仕事を発注するとはお目が高い!カルラなら町外れの大きな白い建物に住んでますよ!この大通りを真っ直ぐ行くと見えて来るはずですぜ!へへへ」
イチたちの表情を見て何かを察したカルコス屋の主人が、慌てて笑顔を作りながら揉み手で教えてくれた。それを見た周りの人間たちも取ってつけたような作り笑いを浮かべている。
その作り笑顔を見た瞬間に思った。
「(なんか……イラっとするな⁈)」
思わず顔を曇らせるイチ。
「(なんというか、イヤな笑顔だ……そうだ、試してやるか⁈)」
イチは少し昏い目をした後に、財布から銅貨を出した。そして、カルコス屋の主人や周りの人間に向けて言い放つ。
「素晴らしい!人間くん!ありがとう!できれば案内も頼みたいな!報酬も払おうじゃないか!」
あえて、先ほど見た貴族みたいな竜人の口ぶりを真似て提案をするイチ。
それを見た瞬間、周りの人間たちは、
「そ、それはご勘弁を!仕事が忙しいので!」
「お……俺もちょっと!」
「竜人様!すみません、ここで失礼します」
真っ青になって蜘蛛の子を散らすように去ってしまった。気まずそうな顔をしたカルコス屋の主人だけを残して。その光景を見て、苦笑いをするイチ。
「(しまった、やり過ぎた。ま、でも少しスッキリしたけど)」
イチはスッと呼吸を整え、頭を冷やし、何食わぬ顔をした。そして、
「すまない、仕事の邪魔をしてはマズかったね。ありがとう、自分で探すよ」
カルコス屋の主人に丁寧に礼を言った。そしてリコたちに目配せをすると、そのまま皆を引き連れて街外れに向かって歩いて行く。
そして、カルコス屋の主人の姿が見えなくなったところで、近くにあった植え込みの下に先ほど貰ったカルコスの袋をそっと置き去った。
「勿体ないでゲスねえ……」
よだれを垂らさんばかりの表情で、置き去ったカルコスを見つめるゲス郎。心底名残惜しそうだ。
「こちらが竜人の姿をしているとは言え、あんな奴が作った食べ物には何が入っているか信用できたもんじゃないよ⁈後で手持ちの携帯食でご飯にしよう。この街にも森の民に協力的な人間の店はあるはずだから、後々そこでちゃんとした食事はとれるさ」
そう言いながらゲス郎を諫めるフォレスタ。それを聞いてしょんぼりしながらトボトボ歩くゲス郎。
そしてそのまま皆でしばらく無言で歩いた。
どのくらい歩いただろうか……考え事をしていたイチがポツリと呟いた。
「それにしても……魔女カルラはかなり街の人に嫌われているようだね……」
「そうですね……以前から色々流れていた悪い噂は知っていましたけど、なんというか……想像以上の嫌われ方でした。人間の敵の竜人にはこんなにも協力的な街なのに、魔女カルラに関してはもう……どうにもならない生理的嫌悪感を持っているというか……一体何があったのでしょう?」
リコも同調する。それを聞いたイチは、
「いや……あの反応は……」
そう言いかけて口ごもった。続きは心の中で呟く。
「(なんか集団イジメがバレそうになった時の人間みたいな反応なんだよな、主犯ではなく受動的に加担していた側の発するイヤな顔。イジメの対象が好きとか嫌いとかじゃなくて、この件に巻き込まれたくないから必死で繕う弱い人間の顔と言うか……)」
元の世界の学校で生前のエリトと水面下でバチバチやっていた時、遠巻きに見ていた周りの人間の顔を思い出し、昏い目をするイチ。
「(あの時は苦労したな……正直周りにいた連中の事は立場上仕方ないから怒りは無いけど、好きではなかった)」
最近、色々な事がありすぎて半分忘れかけていた元の世界の嫌な記憶を回想するイチ。そして、
「(魔女カルラのこの街での立ち位置はわからないけど、複雑な立場なんじゃないかな……)」
イチの中で、まだ会った事もない、魔女カルラの印象が変わり始めていた。
そんな事を考えていたら、
「ほらほら!考え込むより、まず会ってみよう⁈さあ行こう!」
複雑な顔をしていたイチを見て何かを察したフォレスタが、イチの肩に手を回し明るい声でそう言った。そのフォレスタの声でハッとした顔をするイチ。
「そうだな、ここまで来たんだ!まずは行ってみるとするか!」
イチがそう言うと、皆、笑顔になった。想像以上に周りに心配されていたらしい。
「(あぶないあぶない、少し嫌な気持ちになって足が止まろうとしていた。そうだよな、意識が飛んでる場合じゃない。時間が無いんだ、まずは動こう。ありがとう、フォレスタ。)」
イチは心の中でそう呟き、そのまま大通りを先頭を切って歩き始めた。




