81-追跡
イチ、リコ、フォレスタ、ゲス郎の4人が竜人に変化してドラゴニアへ向かう事になった。
恐る恐る検問に向かうと、
「どうぞお通り下さい」
体格の良い竜人兵が驚くほど丁寧な扱いで検問所を通してくれた。
これでドラゴニアへ向かう街道に入れる!
やはりギラードの魔道具を使って竜人に変化しておいた効果はあった。普段は横柄な竜人や、荒くれもの揃いの人間の傭兵達もあっさりと通してくれた。驚いた事に荷物を調べられる事も無く、ほぼフリーパスだった。この世界の竜人は本当に上位存在なんだなと実感する。
「(あるいは、変化したこの竜人兵の姿、身分が高い姿だったりするのかな⁈)」
そう思いながら手持ちの大きな袋に目をやるイチ。
袋の中にはモモさんが土人形の形ではなく、捏ねられた粘土みたいな状態で入っている。荷物検査されたら取引先に届ける材料とか言い張るつもりだったけど、荷物検査免除で正直助かった。ちなみにジーンさんは我々の護衛をしたいと言ってくれたが、森の民の集落に戻ってもらった。治療はしたとはいえやはり先ほどの戦闘で大けがをしたのもあったのと、ここまでにあった事の報告を集落の皆に伝えて欲しかったし、いざと言う時の伝令係が欲しい、という話をしたらようやく引いてくれた。
いや本当はかなり抵抗していたけど、
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「ジーン⁈次期長であるボクの言う事が聞けないの⁈」
「あ、はい、戻ります……」
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フォレスタがガチ目で圧をかけたら渋々引いてくれた。
「(フォレスタは顔面偏差値の高さでごり押しするイメージだったけど、目力も凄くて、あの目で睨まれたら引くしかないんだよな。やはりリーダー気質の人間なんだな)」
心の中で呟くイチ。
リコは皆に慕われて、その一生懸命さに周りが動いてくれるタイプのリーダーだけど、フォレスタは、その美貌とカリスマで周りを統べてしまうタイプなんだなと再確認するイチ。
「もうそろそろ変身を解いて良いでゲスかねえ?この姿は動き辛いでゲスよ」
「ダメだ、ゲス郎、もう少し離れてからだ」
窮屈そうな歩き方に苦労しているゲス郎、それを諫めるイチ。
実は全員変化してみたあとに試しに歩いてみた。するとどこか違和感がある事に気づいた。なんだろうと皆で話し合ったところ、人間と竜人は歩き方が少し違うらしいという結論に至った。ジーンさんが気付いたのだけど、特に背の低い竜人は人間より少し前傾姿勢になっている事が多いらしい。となると背の低いゲス郎の変身は不審がられる可能性があるため、付け焼刃だけどやや猫背で歩いてもらっているのだ。
ゲス郎を小声で叱咤激励しながらそのまま少し歩く。
丘を越えてだだっ広い平野に出た。
検問所はもう完全に見えなくなっている。
「辺りにはもう人影がなくなったかな。みんなもう変身を解いて良いよ」
イチがそう言うと、皆、待ちかねたかのように変身を解いた。
「はー!緊張した!」
「私もです!竜人になる日がくるなんて思いませんでした!」
フォレスタとリコが笑いながら水筒の水を飲む。無理もない、緊張するよね。
そのまま街道の先を見るイチ。ドラゴニアの街まではまだ結構遠そうだ。
そしてイチの視線の先を見て察したフォレスタが教えてくれた。
「このまま道沿いに行けば7日後にはドラゴニアに着くと思う」
腕を組み顔を歪めるイチ。
「時間がかかりすぎるな……」
「この先に道の駅があるよ、そこでスーホ車に乗ろう。それを使えば2、3日くらいで着くよ」
スーホとはこの世界の中の家畜で元の世界の馬みたいなものだ。大きな髭と鼻先に角があるのが特徴で、見た目はヤギとサイをミックスしたような生き物だ。体格は馬よりもかなり大きく、力も速度もある。移動にも、運搬にも使われ、幌車を引いたスーホ車は軽トラくらいの運搬能力があるのだ。
「それはありがたいけど、検問は大丈夫⁈」
イチが聞くと、ゲス郎が、
「さっきの検問所で人間の傭兵たちが喋っているのを聞いたでゲス!次の次の橋までは検問はないみたいでゲスよ⁈検問所がある橋の近くに来たらスーホ車を降りて歩いて、検問所は変化で乗り切れば大丈夫でゲス!その先には検問はもう無いって話も聞こえたので、その検問所を越えたらその近くの道の駅で別のスーホ車に乗ってドラゴニアに向かえば大丈夫でゲス!」
ドヤ顔で一気にまくしたてる。見るとゲス郎はかなり猫背になっている。演技はもう良いよと言おうと思って気付いた。ゲス郎は疲れていて歩きたくないのだな、この野郎。
と、同時にフォレスタとリコを見る。森の民のフォレスタはともかく、華奢なリコは辛いだろう。一見平気な顔をしているが、だいぶ疲れているはずだ。
「(移動時間と疲れを考えると乗った方が良いか。幌のついたスーホ車なら遠目には我々だと気づかれにくいだろうし)」
イチはそう考えると、
「そうだな、急ぎたいし、スーホ車で行こうか!」
そう告げる。皆がワッと声を上げて、特にリコはホッとした顔をしながらはにかむ。良かった、やっぱりリコは疲れていたんだ、ごめんな。
そのまましばらく歩き、宿と小さな雑貨屋がある道の駅に着いた。
そこで休息中のスーホ車の御者を見つけ、交渉。無事にスーホ車に乗り込めた。
そのままドラゴニア方面の街道を進む。
2時間後、一つ目の橋を越えた。
その間、竜人、旅人、商隊等、何人かとすれ違ったが特に怪しまれることもなく軽快に進んでゆく。幌車にしたのは正解だったかも。
イチがスーホ車の幌の隙間から外を見ながら呟く。
「ここまでは順調っと。もう少ししたら降りようか」
「ま……まだ大丈夫でゲスよ!ギリギリまでスーホ車で行くでゲス!」
ゲス郎が幌車の中で『歩きたくないオーラ』を出しながら脚を伸ばしている。この怠け者め!まあ気持ちはわかるけど……。
そう思った瞬間だった。
今まで来た街道の方から凄いスピードでこちらに向かっているスーホ車が見えた。
「(なんだ⁈)」
よく目を凝らしてみるイチ。あっちのスーホ車には幌は無い。大きなリヤカーみたいな感じで、その荷台には何人もの人間の傭兵と一人の竜人が乗っているのが見える。
「(あの傭兵達……どこかで見たような顔ぶれが混じっているな⁈いや、あれは!)」
さっきの検問所にいた人間の傭兵たちがいる!そして同乗している竜人の顔を見て息を飲む。
「チョビの野郎じゃないか!」
チョビはスーホ車から飛び降りると凄い速さで街道を駆け、イチたちのスーホ車の前に回り込み、御者に向かって言い放った。
「止まれ。ちょっと調べたい事があってな……その幌車の中を確認させて貰う」
静かだが、有無を言わさないチョビの声が響く。
その眼球は紅がかった金色に輝いていた。




