7-~ワーミ領にて~
都を離れて10日、ついにワーミ領に着いた。
「ここが、ワーミ領です!ようこそ我が領へ!イチ様!」
「うわー…」
リコの紹介に、思わず声が出てしまう。
第一印象は『確かにお金の無さそうな領だな』だった。
建物は少なく、畑は荒れていて、市場、耕作地に人も少ないし活気がない。
都会に人を吸い取られて過疎化した農村みたいな雰囲気だった。
なるほど、弱小領なのは間違いないなと思った。
「人が…いないね。自分のいた世界でもそうだったんだけど、農村から民がより良い生活を求めて農作地を捨てて別の土地に行っちゃってるの?それとも、一時的に出稼ぎ労働者にでもなってるとか…」
そう尋ねると、リコとゲス郎は顔を曇らせて
「いえ…竜人に…」
「毎年、竜人に税を納める事で、統治が許されているんでゲスが…税金が払えないと、代わりに民を差し出さないといけないんでゲス…」
「えええええええ⁈」
なんてこった、想像以上にヤバい状況だった。
「差し出された民はどうなるの?」
「分かりません…竜人達に連れていかれているのは分かるんですが、帰ってきた者はいないので…」
「税金が払えないと民が連れていかれて、農地を耕していた民がいなくなって税収が下がって…そうしたら今度は働き手不足で税収が上げられなくて、その次の年も税金が払えなくて…また民が連れていかれて…これの繰り返しで、どんどん人がいなくなっていくのでゲス…この領の民の数は全盛期の半分以下になってるでゲス…」
完全に負のループに入ってるやんけ!これは何か手を打たないと!…と思ったが何かが引っかかった。
「竜人は…一応統治者なんだろ?そんな事をしたらどんどん税収が下がって行くのは分かり切ってるじゃないのか?一時的に税を免除するとか、してくれないの?」
そう言うと、リコたちの顔がさらに暗くなった。
「竜人達は…回収出来るなら税金でも民でも、どっちでも構わないみたいなんです…。何の対策もしません…税金が払えなくて、民が一人もいなくなって、消えてしまった領もあります…かつて、この世界には100以上の領がありましたが今は47領しかありません…」
「民のいなくなった土地には、竜人が乗り込んできて、奴らの家畜とかを放し飼いにするでゲス…竜人どもは、最終的に民が一人もいなくなっても構わない感じがするでゲス…」
うわー!完全にゆっくりと滅亡に向かってる世界だ!
これは一刻も早く手を打たないと、取り返しがつかなくなるぞ!
「この世界の人間は竜人の100倍いるんでしょ⁈人数がいるうちに、みんなで力を合わせて戦わないと、ゆっくりとすり潰されるよ!」
「それが…」
「100年前に…まだこの世界に人間が今の3倍くらいいた時に、大戦争を仕掛けたでゲス…かなりの竜人を倒しやしたが…結果は敗北、その後は圧政を敷かれて、もう戦っても勝ち目がないでゲス…」
もう植民地支配完成しとるやんけ!あ、それで!
「それで勇者を異世界召喚した訳か!外部から戦力を連れて来て対抗しようって訳なんだな!…ってヤバい!」
思わず真っ青になった。
「都で竜人達の前でエリトと大立ち回りしてしまった!あの戦いを見れば、俺達が召喚された勇者ってバレバレだ!討伐軍が来る!」
そう慌てて言うと、リコは悲しそうに目を伏せながら
「討伐軍は…あのくらいでは来ません、勇者召喚は…竜人達も黙認してるんです…」
「ええええええええ?」
「あのくらいの勇者を召喚しても簡単にすり潰せるぞ⁈と言う竜人共の余裕でゲス…。むしろ外部の勇者の知識で技術が発展したり、適度に我々に反抗する権利を与える事でガス抜きしてるでやんす…噂では、立ち向かって来た勇者を返り討ちにするのが、アイツらの娯楽になっていると言う話まであるでゲス」
うわあああああああ…想像以上に詰んでる!
って事は、今回の勇者召喚は…
「一応聞くけど、勇者召喚ドラフトって何回目?」
「年一回の開催で…今回で80回目です…大戦争後、勇者召喚は禁止されたのですが、戦後20年目に『もう統治は完成した』と言って、各領から一人だけ勇者召喚が許されました…今回で80回目ですが…竜人皇を倒す事は出来ていません…」
「各領一人だけと言うのがいやらしいんでゲスよ。税収を多く上げるとか、技術の発展に貢献した領は、竜人達から色々な特権を得られるんで、領によっては『使える』勇者の技術を出し惜しみさせる場合があるでゲス」
「勇者様たちの連帯を防ぐためなんでしょうね…でも最近では、このままじゃ人間は終わりだと言う事が分かってるので、各領は、こっそりと勇者の連帯が取れるように皆で協力してます」
勇者たち皆で協力する事は出来る訳か!それは助かった。
しかし、想像以上に詰んでるな!
…そして、一番確認しなければいけない事を、リコに聞いてみた。
「竜人皇は倒せていないみたいだけど…これまでに、宝物を持って元の世界に帰れた人はいるの?」
おそるおそる尋ねると、リコが本当に申し訳なさそうな顔をしてこう言った。
「帰れた人がいる…と言う噂は聞いた事があります…でも私の知ってる範囲では…いません…」
「ぎゃあああああああああああああ!」
「ついでに…今年は凶作で…人手不足もあって…作物もあまり採れていなくて…結構な民が連れて行かれそうでゲス…」
草ぼうぼうの畑を見ながら、ゲス郎が呟き、そして自分に縋りついた。
「そこで勇者様でゲスよ!何か!何か!スゲエチートは無いでゲスか?作物がたくさん採れる技術とか!竜人共を上手く丸め込むコミュ力とか!竜人たちを小指でヤレる強さとか!我々を助けて下さいでゲスウウウウウゥ!」
「お願いです!助けて下さい!イチ様ー!」
「そんなこと言ったって…!俺!一介の高校生だよ?そんなチート持っていないよ!」
なんてこった!元の世界の俺も大ピンチだったけど、こちらも想像以上に詰んでる!
元の世界に宝を持って帰る以前の問題だ!
「詰んだああああああああああ!」
思わずそう叫ぶと、林道の奥から人が何人か歩いてくるのが見えた。
その先頭に立つ男は…極楽鳥みたいなド派手な服とマントを羽織っていて、変身ヒーローみたいなポーズをキメながら、どのポーズが一番格好良いか模索しながら歩いて来る。
あっけに取られて見ていると、気に入ったポーズが決まったらしく…こちらにバク転しながら近づいて来て、俺たちの目の前でヒーローポーズを取りながら宣言した。
「シリウスさんに言われて来たぜ!ミーはドラフト8位でバッチ領から指名された、カセーツ様だ!君たちの危機を救いに来た!」
唖然としながら見ていると、投げキッスをしながらこう続けてきた。
「ミーは…超役に立つぜ⁈」
また濃い勇者もいるものだ。
「…竜人に勝てないのって…こういう勇者ばかり召喚しているからじゃないよね?」
「結構…個性的な人は来ます…」
別の意味で詰んでないか、この世界⁈
なんとなくそう思った。