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77-蛇の目

シャギャアアアアアアア!



咆哮をあげて肉食恐竜と化した二匹が突撃してきた!信じられないスピードだ!

アンは木々をなぎ倒しながら丸太の様な腕を振り回し、チョビは『走る』のではなく『跳ねる』ように駆けてきて上下左右から斬りつけつけてくる!


ザン!

バシバシ!

ブオン!

バクっ!


攻撃速度の上昇だけではない。蹴りや噛みつきも仕掛けてくる!


「(は、速い、手数が多い!避けるので精いっぱいだ!ダメだ、考える暇がない!)」


一旦距離を取ろうとバックステップするイチ。その時、横目に入ったものを見て血の気が引く。

先ほど矢を放って援護してくれたジーンさんがまた倒れているのだ。

リコが泣きそうになりながら必死で回復魔法をかけ続けている。


それに気づいたアンとチョビがジーンさんとリコの方を向く。

二匹はジーンさんとリコに狙いを定め、血の匂いを嗅ぎつけたピラニアの様に駆けだした!


「(ダメだ!退けない!)」


大慌てでイチがもう一度アンとチョビを追跡しようと前に出ると、


ブオン!


太い鞭のようなものが側面から飛んできて右手に掠った!


「痛ェ!」


その勢いで風切りのナイフを落としてしまう。


「(アンの攻撃か⁈振り向きもせずに⁈いや、でもなんであの体勢から腕が届くんだ……⁈)」


心の中で叫ぶイチ、そしてすぐにその攻撃の正体に気付いた。






……いつの間にかアンの尻の辺りから尻尾が生えている!






そしてその先端には大きな2対の棘が生えていた。


「(尻尾が生えた⁈鞭のようなものが飛んできたと思ったけど、あんなの鞭どころか棘付きのこん棒じゃないか!)」


まともに直撃したら腕が折られていた。

慌てて腰の翠亀剣を引き抜いて構えようと、二匹から目を離した瞬間、







チョビの顔が目の前にあった、あの一瞬でここまで詰めていたのだ。







「……オワリダ!」







赤銅色の輝きがイチの顔を照らす。

眼を爛々と輝かせたチョビがイチの首に向けて小刀を振り上げるのが見えた。





「(あ、死んだ)」





跳んでくるチョビの動きがスローモーションのように見える。

ゆっくりと捕食者に命を狩られる感覚、いや抵抗する気持ちも湧かない。

肉食動物に食われる草食動物どころか、農家に収穫される作物のような気分だ。

なんとなく今までの自分の人生のハイライトが次々と頭に浮かんだ。


「(ああ……走馬灯が見えるってこんな感じなんだな……)」


諦めの境地に入るイチ。

このまま命を狩り取られ……









やけにゆっくりだな?










いや、本当に遅くないか⁈









想定よりチョビが遅い。これなら回避が間に合う。

思考が回転する。アドレナリンを全力で分泌して脚を回す。身体が動く!

そのまま全力で横っ飛びする。

ギリギリでチョビの小刀を躱すと、今度はチョビが着地に失敗して倒れこみ地面を転がっていくのが見えた。


「え⁈」


よく見ると、チョビの脚に先ほどのフォレスタの矢がまだ刺さっていた。


「(そうか、あのケガで攻撃が遅れたのか!)」


安心したと同時に頭が冷えた。視界が開けていく。

いや、本当に視界が開けている⁈

よく戦場を見渡すと、アンが大暴れしたおかげで木々がなぎ倒されていて障害物が減っていた!






「この広さがあれば!」






翠亀剣を握りしめて剣を身体の中心に構える。

刃を顔に近づけ力を溜める。

大丈夫、チョビは倒れている。力を溜める時間は取れる!

そのまま全力で横に薙いだ!


ブン……ドオオオオオオオオン


『薙ぎ払い』が出せた!


その衝撃波で吹っ飛ぶチョビ!

アンは吹き飛ばせなかったが……アンの腹の脂肪に大きな傷がついたのが見えた!


シャギャアアアアアアア!


痛みはあったのだろう。怒りながら突撃してくるアン。


その瞬間、フォレスタの放った矢が飛んできて、突進してきたアンの眉間にカウンターの様に命中した!

硬い皮膚に弾かれて致命傷にはならなかったが、目を狙われた事に気付いて慌てて顔を押さえるアン!

脚が止まった!



「でかした!フォレスタ!」



そう言いながら右手の小指に魔力を込めだすイチ。紫色の宝石のついた指輪が淡く輝き出す!

すると、翠亀剣から紫色の液体が滴り始めた。

そしてそのまま翠亀剣を握りしめ……アンの腹の傷に思い切り突き立てるイチ!



シャギャアアアアアアア!



アンの悲鳴が上がる。

痛みと怒りのあまり、こん棒のような尻尾を無茶苦茶に振り回しイチを弾き飛ばそうとするアン。

慌てて攻撃を躱すが、勢いで翠亀剣は抜けてしまい、そのまま吹っ飛ばされて転がるイチ。

武器を失ったイチを見て、チャンスとばかりにアンが突撃してくる!


「イチ!」


フォレスタが次の矢をつがえて駆けてくる。それを手で制するイチ。


「来るな、フォレスタ!もう大丈夫だ!」


見るとアンは急に足がおぼつかなくなり、片膝をついて動けなくなってしまった。

そして身体から黒い煙の様なものが上がり始める。

それを見て援護に入ろうとしたチョビの顔面に、復活したモモさんが投げた散弾の様な砂利が襲い掛かる。たまらず小刀を落としてしまうチョビ。


「クソ!」


毒づきながら小刀を拾おうとしたチョビにフォレスタの次の矢が飛んできて太股を撃ち抜く。

悲鳴を上げ、もんどりうって倒れるチョビ。


「アン!立テ!ナンデソノクライデウゴケナクナッテ……ハッ!」


アンの腹の傷が変色している事に気付き顔色が変わるチョビ。

それを見てイチが言い放つ。


「さっき翠亀剣を突き立てた時にシャーリーさんの毒を流し込んだんだ。大型動物だって昏倒させるオオシビレキノコから抽出された薬だ。巨体のアンと言えども動けなくなるぞ」


「ク……くそ……」


「……コんな格下勇者に……」


恨み言を言いながらも動けなくなるアンとチョビ。


「先ほどのお前らの発言を聞いた感じ、何か竜人には弱みがありそうだからな……吐かせてやる」


冷たく言い放つイチ。

それを聞いて怨嗟の声を上げるアン。


「……お前ら……なんかに……喋ることは何も……ない……ぐふっ!」


口から血を吐き、息も絶え絶えになり、完全に動けなくなるアン、続けてチョビも動かなくなる。

『爬虫類』だった二匹は身体が縮み始めたかと思うと、竜『人』に戻り、そのままシワシワになっていく。

そして、アンとチョビの体中から黒い煙が更にモクモクと噴き出してきた。






勝った!





そう思った瞬間だった。


アンとチョビの二人の首から黒い煙とは違った、漆黒の紐のようなものがゆっくりと立ち上がってきた。

いや、違う、紐じゃない、蛇だ。

二匹の蛇が鎌首を上げてアンとチョビ、そしてイチたちを見回し、ため息をついた。


「頼りにならないでありんすねえ……仕方ないから逃がしてやるでありんす」


そう言うと二匹の蛇はアンとチョビから離れ、縄の様に捻じれて巻き付き一体化して……二首の大蛇になった!




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