75-アンチョビコンビ
だだだだだだだだだだ!
木立をかき分けて二人の竜人が襲い掛かってきた。
巨漢のアンと背は低いが足の速いチョビ。
双方頭を低くして高速で突っ込んで来る!
ズババババ!
それを見てモモさんが砂利を広範囲に連続で投げる!
木立に穴が開き地面が爆ぜる!
その砂利攻撃に気圧されながらも、器用に避けつつ、今度はジグザグの動きをして前進してくるアンチョビコンビ。
「(連携が上手い!しかもこんなに障害物が多くて足場が悪いのに!速い!)」
思わず心の中で毒づくイチ。
一応人の形をしているとは言え二足歩行でこの速さ!
ハリウッドの有名な恐竜パニック映画で観た肉食恐竜の動きだ!
「(これが竜人か!)」
この前の戦いで竜人との戦い方は理解したつもりだった。だがあんなのは一面でしかなかった。
人間の知性を持ちながら野生動物の動きが出来るのが竜人の本当の怖さだったのだ。
森の中を縦横無尽に走り回り、岩や木立、太い木の幹を壁にしつつ確実に包囲しながら近づいてくる。
平地での戦いでは見られない地形適性を見せて戦場を支配するアンとチョビ。
「(手強い!鬱陶しいし動きが全然違う!もし魚竜の竜人とかがいて、水辺での戦いとかになったら勝ち目はないぞ!戦う時には相手を見て、戦場を選ぶ事をもっと考えないといけないのか!)」
そう思っていたらチョビが更に頭を低くして弾丸の様に突っ込んできた!
慌てて風切りのナイフを構え強めに握り込むイチ。
そのまま抉りこむように必殺の一撃をチョビの方に向かって撃とうとする!
「へっ!またそれか⁈芸の無い奴だな⁈乱戦で大振りとは余裕あるじゃねえか」
チョビがそう嗤いながらイチのナイフを軽く躱し、素早くのその刃の下に潜りこんだ!
懐に入られる!
赤銅色の輝きがイチの顔を照らす。
チョビの魔道具だ!来る!
「(ダメだ!出し惜しみできる相手じゃない!)」
『アクセル255』発動!
イチの心拍数が跳ね上がる!
視界がエメラルド色に変わる!
脚が2本、4本、8本…16本にと増えていくような超感覚!
これでスピードなら負けない!
…ハズだが、
「うわあああああ⁈走りにくい!」
スピードが出せない。
木々や背の低い木立、それと足下には岩がゴロゴロしている。視界も足元も悪くて、上手く地面が蹴れないのだ。
「(それでもチョビの高速の動きにはこれで対応できる。距離を取って……)」
ぬるっ、グラッ
足下が良く見えないのが災いした。土がぬかるんでいてイチの脚がもつれる。
「(体勢が崩れる!ヤバい!やられる!)」
その隙を見逃さずチョビの小刀がイチの脇腹を狙う!
……かと思いきやチョビはイチを無視してその脇を通過し、そのまま走り抜けた。
え⁈と思い振り返ると、チョビがゲス郎に向かって真っすぐ突撃していくのが見えた!
「そうだった!ギラードの腕が狙いだった!ジーンさん!」
その声を聞いたジーンさんがチョビの物凄い速さの突撃に驚き、構えていた弓矢を慌てて手放し、大きな鉈に持ち替えてチョビの前に飛び出した!そしてその動きに連携するかの様にモモさんがチョビに向かって牽制の為の砂利を投げる!
ばばばばばば
散弾銃みたいなモモさんの砂利攻撃を察して、突撃を諦めて横っ飛びするチョビ。
よし、突撃を止めた!
「ジーンさん、モモさんナイス!このまま挟み撃ちにして……」
チョビに向かって駆けだしながらイチがそう言った瞬間、
ピッ
イチの右の眉毛の上辺りが切れて血が出た。
「(切られた⁈いや傷は……浅い⁈)」
その瞬間、思い出した。
「(……そうだった!チョビの魔道具はカッターナイフで斬りつけるくらいの威力の刃が飛んでくる程度だった!)」
先日の森の民の集落での夜戦を思い出した。
縦横無尽に戦場を掻きまわしたチョビ。
でもアイツの一番厄介だった攻撃は、あの飛んでくる刃で弓の弦が切られ、遠距離攻撃が無力化される事だった。
頭が冷えた。
「(最初から威力は恐れる事はなかったんだ。チョビはスピードはあるがパワーが無い。『アクセル255』発動中なら力押しで圧を駆ければ潰せるじゃないか!)」
静かな怒りがこみあげてくる。その影響で血圧が上がったのが原因だろうか。眉毛の辺りから血が流れ、右目に入りそうになる。危ない危ない、視界が奪われるところだった。
そう思いながら血を拭う。
そして気付いた。
眉毛の辺りの傷は普段の目の高さの所だ。そこを真横に斬られてる。
「(チョビ……俺の横を通過しながら、飛んでくる刃でキッチリ俺の眼球を狙っていたんだ!)」
脚がもつれたおかげで狙いが外れたんだ!
カッターナイフレベルの威力でも眼球をやられたら……!
思わず腰を低くして、風切りのナイフを顔の正面に構えるイチ。
それを見てチョビが舌打ちする。
「気付いたか……本当に運だけは良いなお前⁈元はと言えばあのチビの土人形……おい!アン!あのチビの土人形ちゃんと潰しておけよ!」
「そう思うなら弓兵の弓をちゃんと使えなくしておけよ、ボケチョビ!」
チョビの非難に毒づくアン。そうだ、アンは⁈と思い見るとフォレスタが雑木林の中を華麗に走り回りながら的確に弓矢を放ち、見事にアンを足止めしている。さすが森の民だ、この足場と視界の悪さをものともせずに巨漢のアンに仕事をさせていない。まさに水を得た魚だ。
「そうか、地形適性の恩恵はこちらにもあるんだ!ならば!」
風切りのナイフを構えチョビに向かって駆けるイチ!
スピードは最高速じゃなくて良い、獲物を追い込む豹のようなイメージで。
確実な足取りで、チョビを追い詰める!
「(手の内はわかった!相手の行動予測をしながら接近戦に持ち込んで力でねじ伏せてやる!)」
「……いかん!チョビ!下がれ!……痛ェ!」
イチの動きが変わったのを見て叫び声を上げるアン。だがその脛に、モモさんが強烈な飛び蹴りを入れる!思わず片膝をつくアン。
「この動き……そうか!お前、あの動けるデブ人形か!なんでそんなに縮んで……⁈いや、そうか、そのサイズなら」
言いながら何かを思いついたらしく、アンは残酷な笑みを浮かべると両腕で顔面をガードしながら……高速でモモさんにぶちかましを食らわせた!木の葉のように吹っ飛んで行くモモさん!
「重さが足りねえな、俺達みたいな動けるデブにとって体重は生命線だぜ⁈もうお前は怖くねえ」
そう言うとまた両腕で顔面をガードしながら、モモさんにトドメを刺そうと高速で突っ込むアン!
倒れながら砂利を投げるモモさん。だが、ガードを固めたアンには効果が薄い!
「(マズい!アンも力でねじ伏せる方向に切り替えたか!)」
慌てて風切りのナイフを握り込み、モモさんを助けるべくアンの方に駆けだすイチ。
「ジーンさん!アンとの接近戦はおれがやります!フォレスタと二人でチョビを近づけないように弓矢で援護を!」
そう叫んでイチは気付いた。
ジーンさんが倒れている事に。
そして、
ジーンさんの首から血がどくどくと流れている!
青ざめるイチ!
それを見てチョビが、
「おいおい、狙っていたのはお前の目だけだとでも思っていたのか⁈この小刀の魔道具の威力でも首の血管くらいは切れるとは考えなかったんだな。やれやれ、イチとやら。やはりお前はドラフト下位勇者だな、思考が単純だし予測が甘い」
呆れながら嗤うチョビ。
しかしすぐに真顔になる。
「だがイチ、お前は今日まで生き残っている。だから油断はしない、アン、トドメいくぞ」
「おう、チョビ、俺を盾にして斬りまくれ」
そう言うとアンを盾にしてチョビが重装歩兵の様な突撃をかましてきた!




