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70-出発前夜

「何事だ⁈」


ただ事じゃない雰囲気を見て、長が強めの口調で聞いた。

それを受けて森の民の戦士たちが報告する。


「はい!偵察に出している連中から連絡が!森の入り口付近にベラーが複数集まっておかしな挙動をしているみたいです!」


「おかしな挙動とは⁈」


長が聞き返す。それを受けてもう一人の森の民の戦士が説明する。


「大きな音で威嚇しても、火を見せても逃げません。森の集落を囲むように集まってきていて、どのベラーも眼が真っ赤で興奮状態、隙を見せたら集落に雪崩込んで来そうです」




……!この手口は!




「竜人たちの仕業だな。増援の兵士の姿が見えないのが気になるが、並の竜人兵はこの集落に近づけない事に気付いているのかもしれない。代わりにまた動物たちをけしかけて嫌がらせしようという腹か。すぐに戦士たちを何人か連れていけ。こちらには小雪様がいるから大丈夫だとは思うが、油断はするな!」


長が苦虫を嚙みつぶしたような顔をして指示を出す。

竜人たちの行動も早い。もしかしたらもう街道近くまで増援の兵士たちが来ているかもしれない。

急いだ方が良いのだがこの先の行動はかなり危険そうだ。

ゲス郎の方に向き合い忠告するイチ。


「ゲス郎、悪い事は言わない、ここにいろ。これから向かう所は本当に危険なんだ。むしろここで皆を手伝ってくれた方が助かる」


「嫌でゲス!勇者様やリコ様について行かせてくだせえ!このゲス郎!必ずや役に立ってみせるでゲス!」


目に見える危険が分かっているのにゲス郎も引かない。どうしたんだゲス郎?お前にそんな勇気があったのか⁈

そんな事を考えていたら、身体の大きな方の森の民の戦士がまた声を上げた。


「それとは別にもう一つ報告が!」


「今度は何だ!」


長が返すと、身体の大きい兵士が今度は気まずそうに報告した。


「倉の中で管理していた白金貨の数が……どうも少し減っているらしいです。しっかり確認をしたいので蔵に近づいた人間がいないか調べたいのですが……」


「何⁈白金貨が⁈」


長がそう返すと同時にその場にいた皆の目がゲス郎に注がれる。

慌てふためくゲス郎。


「な……なんでゲスか⁈アッシは盗みなんて絶対にやらないでゲス!」


「ゲス郎、ジャンプしてみろ」


容赦なくツッコむイチ。


「ゆ……勇者様まで何を言い出すでゲス!アッシを疑うというなら出る所出るでゲスよ!」


ゲス郎がそうイキッた瞬間に、



ドガっ



エルマさんがゲス郎に蹴りを入れた。


「ぎゃあああああ!何するでゲス!」


叫びながら倒れこむゲス郎。そして倒れこむと同時に



チャリンチャリンチャリンチャリン♪



白金貨特有の透き通った金属音がする。

そしてゲス郎が床を転がると彼の懐に隠し持っていた革袋が複数飛び出し、白金貨がばらばらとこぼれ床を転がった。

その光景を見てジト目をする一同。


「こ……これは拾ったでゲス!盗んだわけでは無いでゲス!」


上半身を起こしながら蠅のように手を擦り妙にキラキラした目で苦しい言い訳をするゲス郎。

お……お前……。


「連れていけ。共に戦った仲間とは言え、この金額は大きすぎる。重罪だ。手助け無しで森の中で3日間放置する。生き残れるかは運を天に任せるんだな」


呆れた顔をしながら判決を下す長。それを聞いて森の民の戦士たちが、ゲス郎の両手をむんずと掴み引きずっていこうとする。


「イヤでゲスー!死んでしまうでゲスー!勇者様ー!助けて欲しいでゲスー!」


これでもかと手足をバタバタと動かし喚きながら連れて行かれるゲス郎。自業自得だ。

とは言ったものの少し気の毒な気もする。

ゲスだし足も引っ張るが、時々本人の意図していない形で貢献してくれることもあったような気もする。

ゲスだが。

コレだけ一緒に行動してると多少の情も沸く。

ゲスだが。


「(どうしたものかな)」


そんな事を考えていたら、ゲス郎が扉にしがみついて意外としぶとく抵抗していた。

意外と根性あるな。

そしてゲス郎と森の民の戦士たちのやりあう声が部屋に響く。


「いいから来い!大体どうやって、蔵に入ったんだ!」


「殴らないで欲しいでゲスー!鍵をちょこちょこと弄ったら開いて……い、いや!鍵は最初から空いていたでゲスー!」


「なんだと!あー、こいつ!鍵開け道具持ってやがるぞ!この野郎!」



「(え?ちょっと待って⁈)」


思わず声を上げるイチ。


「待て待て!ゲス郎⁈お前、鍵開けとかできたの⁈」


「へ……へえ、簡単な物なら大抵開けられるでゲス。もっとも得意なのは鍵を開けた後に開けられた証拠を残さずに逃げるのが上手い事でゲス!リコ様のへそくりをちょろまかすのも得意だったでゲス!あ!いや、違うでゲス!今のは嘘でゲス!」


「ゲ……ゲス郎!貴方って人は!」


ゲス郎が連れて行かれるのをなんとか庇ってあげようかと悩んでいたらしいリコが、反転して顔を真っ赤にして怒っている。優しいリコがこんなに怒るって相当だよなあ。もしかしてへそくり相当抜かれていたんだろうか。


「お前の刑は確定した!森の中でベラーの餌になっちまうんだな!」


身体の大きな森の民の戦士がゲス郎をつまみ上げ、部屋の外に連れて行く。

それを見て、ハッとした顔をして、口元を押さえて何か言おうとしているリコ。





やっぱりリコは優しいなあ。





ワーミ領でリコに最後までついてきてたのは(寄生してたともいう)ゲス郎だ。やはり多少は情もあるのだろうな。ただ他所様の土地でしかも復興直後の土地で盗みをしたとあったらリコといえども庇いにくいよな。


「(仕方ない、助けてやるか)」


そう考え、長に向かって声を発するイチ。


「ちょっと良いですか。どうせ外に放り出すならゲス郎をこちらで預かっても良いですか?ちゃんと働かせますので」


「え⁈なんで⁈ボクは嫌だよ⁈」


イチの発言を聞いて、イヤそうな顔をするフォレスタ。


「この先、鍵開けが必要な場面があるかもしれない。正直信用はできないけど、ちゃんと見張るからオレの顔に免じて汚名返上のチャンスはあげてやってほしい」


長も、森の民の戦士たちも「ええ……」みたいな顔をしてこちらを見てる。

唯一、リコだけが少しホッとした顔をしている。本当に優しいなリコは。


「さ、さすがで勇者様でゲス!そうでゲス、アッシは役に立つでゲスよ!今日から心を入れかえて汗水たらして働くでゲス!」


空気を読まずに調子の良い事を言うゲス郎。本当にコイツは!


長はかなり悩んだ後に


「イチくんがそう言うなら……預ける。ただ盗んだ白金貨は置いていけ」


そう告げた。ありがとうございます、長も優しいな。

そしてゲス郎の方を向き厳しい口調で告げるイチ。


「だそうだ。それで良いな、ゲス郎⁈」


「もちろんでゲス!」


そう言いながら懐からもう一袋、白金貨の詰まった革袋を出してペコペコしながら詫びるゲス郎。










「まだ持ってたんかーい!」










思わず芸人のようにツッコむイチ。

顔を覆いながら真っ赤になって恥ずかしがってるリコ。


「優しいなあ、イチは。ボクなら簀巻きにして森に捨てるよ⁈」


「ははははは……」


呆れるフォレスタに対して苦笑いするしかないイチ。


正直これが正解かわからない。

でもリコのためと……僅かだけどゲス郎に感じる可能性に賭けてみる気になったのだ。



分の悪い賭けだけど。



「ありがとうでゲス!勇者様は本当に命の恩人でゲス!なんなら靴だって舐めるでゲスよ!ゲヒヒヒヒ」



……やはりこの賭けは外れの可能性の方が高そうだな。

そんな事を考えていたら、


「大丈夫でゲス!鍵開けなら任せて欲しいでゲス!ちなみに一番得意な鍵開けは……」


ん?何か言い始めたぞ。


「かたくなにこちらを拒んでくる娘っ子の心のカギを開けるのが一番上手いでゲス!勇者様も口説きたい娘さんがいたら任せて欲しいでゲスよ!ゲヒヒヒヒ!」


だめだこりゃ。

そう思った瞬間に、





ばきゃ


どごっ





フォレスタの踵おとしとリコのチョップがほぼ同時にゲス郎の脳天に突き刺さった。

もんどりうって倒れるゲス郎。



「すみません、やっぱりゲス郎いらないです」



俯いて長に告げるイチ。


「良い機会だ。人を見る目と、使う大変さを学んだ方が良い。連れていけ」


ジト目で長がイチに『吐いた言葉の責任をとれ』と言わんばかりに突き放す。そんなあ。


「お願いでゲスー!見捨てないで欲しいでゲスー!」


そう言いながらイチの脚にしがみついて離れないゲス郎。

す……凄い力だ!接着剤でくっつけたみたいに離れない!この野郎!


「じゃあみんな解散ねー。イチー。明日の準備したら早く寝なよー」


フォレスタが投げ槍にそう言うと、皆食卓から離れていった。

待って!おいてかないで!


「勇者様ー!見捨てないで欲しいでゲスー!」


喚くゲス郎。

ぺこりと頭を下げて「あとはお任せします」と苦笑いしながら去っていくリコ。


「みんなー!見捨てないでー!」


イチの叫びが夜の闇に溶けてゆく。

そんなこんなで夜が更けていった。


------------------------------



それが昨夜だ。

食卓に並べられた朝食を眺めていると、ゲス郎が超腰低く、揉み手をしながら挨拶してきた。


「素晴らしい朝でゲスね!さあ!朝食を摂ったら出発でゲス!」


ゲス郎のつやつやのお肌と下卑た笑顔を見ながら、


「(ミスったかな~)」


思わず心の中で呟いた。


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