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6-お世話になります

「表通りが騒がしいと思ったら…何をしてるんだエリトくん?」


「いや…ちょっと知り合いに会いまして…腕試しを」


エリトがしどろもどろだ、あのシリウスって人、只物じゃない。

エリトは自分より立場が上の人間には、腰が低いのだ。


「そちらのキミ、大丈夫かね?君も勇者なんだね。私はシリウス・ザンハール、トキオ領からドラフト1位で指名された勇者だ。よろしく頼むよ」


「あ、はい、自分は北田順一…あ、ジュンイチ・キタダです。イチと呼んでいただければ」


「ははは、北田順一でもちゃんと伝わるよ、大丈夫。よろしく、イチ君、先ほどの一撃は見事だったよ。一度、君とはゆっくり話したいな」


シリウスさんに褒められて少し舞い上がってしまう。

…だが、すぐに思った。


この人、強いなんてもんじゃないぞ!


自分は何か武道をやっているわけじゃないけど、そんな自分でもわかる。

立ち居振る舞いに隙が無いし、小さな動き一つとっても重心がしっかりしててブレが無い。

口調はゆっくり。だけど、有無を言わせない圧を感じる。

それでいて紳士的だから、優しくされると、思わず協力したくなってしまうのだ。


「これが…本当の勇者なんだな。俺やエリトとは格が違う」


思わずそう呟いてしまった。


「あら?貴方も勇者でしょ?」


「さっきの一撃が出せるなら自信を持っていいぞ!ははは!」


え?と思って声をした方を見ると、シリウスさんの後方に、もう二人連れがいる事に気付いた。


一人は蒼くて長い髪を、無数の色とりどりの宝玉の髪飾りで纏めた南国系のグラマーな美女。そしてもう一人は…身長が2.5mくらいある、山のような大男で、大きなリュックの様な物を背負った、やや太めの柔道家みたいな人だ。


…一目見て分かる、この二人もめちゃくちゃ強い。


「わわわ!ドラフト2位と3位も!ドラフト上位組が勢揃いでゲスよ!」


ゲス郎がミーハーな感じで解説してくれた。

相変わらず、リコを盾にして物陰に隠れながらだが。

…アイツ、あとでもう一度デコピンだな。


そんな事を考えていたら、ドラフト2位3位組の二人から声をかけられた。


「マムリ・エウロパよ、マム姐さんで良いワ。ガオ領からドラフト2位で指名された者ヨ。水系の魔法で困った事があったらいつでも相談に乗るからネ!」


「俺っちはジルコン・ウロヤクラット。ジルで良いぞ。トーケ領からドラフト3位で指名された。パワーなら、全勇者の中で俺っちが一番だろうな!ガハハ!」


「マムリさん…じゃなくて、マム姐さん、ジルさん、初めまして。イチです。よろしくお願いします」


挨拶をしながら、心の中で思わず、ひえええええ…と声を上げてしまう。


ドラフトは47人いたけど、たぶんこの3人は別格だ。


3勇者+それ以外、と言うくらい格の違いがある気がする。

あんなに強そうな竜人達も、余裕でなぎ倒しそうだ。

見惚れていると、シリウスさんが提案をして来た。


「ところで…召喚された勇者同士、協力しないかね?指名してくれた領の立場もあるから、出来る事と出来ない事はあるのだが…竜人達と戦うなら我々勇者たちは、慣れてない異世界では力を合わせるべきだと考えているのだが…どうかね⁈」


「願ってもないです!ぜひ協力させて下さい!」


ありがたい!こんな右も左も分からない世界で、強力な仲間ができるなんて断る理由が無いぞ!

大喜びで話に飛びつこうとすると、エリトが割り込んできた。


「シリウスさん!こいつドラフト最下位ですよ⁈シリウスさんが目をかけるほどの者じゃありませんよ!」


こ…こいつ!どこまで嫌な奴なんだ…!

呆れていると、シリウスさんがエリトにこう言った。


「ドラフト順位はあくまで指名された時の能力の差だよ。即戦力ではなくて、将来性を見越した素材指名であった場合は順位が低い場合もある。その後どう伸びるかは、その人次第だ。私は、彼はかなり伸び代があると思っている。君も含めてね。それに目的は竜人皇打倒だ。共通の目的の為に手を組むのは悪い事ではないと思うが?…それとも何か不都合があるのかね?」


さすがだ、シリウスさん。淡々と話すが、ちゃんとエリトの底意地の悪さを見抜いてる。

さあ、どうする?エリト⁈


するとエリトはニッコリと笑って…


「不満なんてある訳ないじゃないですかぁ!シリウスさん達がそう言うなら、何の問題もないです!イチ!さっきは悪かったな!まあ、異世界で生きていくには、あれくらいの攻撃は凌げないと生きていけないからな!テストは合格だ!よろしく頼むぜ!」


こう言い放ちやがった。

な…何を勝手なこと言ってやがる⁈と思ったが思い出した。


エリトはこういう奴だ。


強い奴、立場が上の奴、利用できそうな奴に対してはとにかく腰が低くて、いつの間にか相手の懐に入って気に入られてしまうのだ。カースト上位のコミュ力陽キャの極みみたいな奴なんだ。


「あら、調子が良いわネ、でも仲良く出来るならその方がよいワ」


「拳を交えて深まる友情もあるからな!ガハハ!」


「マム姐さんもジルさんも俺の性格は知ってるじゃないですかぁ!誰とだって上手くやれるんですよ!俺は!ははは!」


あっと言う間に、フレンドリーな雰囲気にしてしまった。スゲエなアイツ。


「ふむ…まあ、そう言う事にしておこうか。じゃあ我々はこの辺で、また何かあったら協力しよう」


「シリウスさんに頼まれて断る奴なんていませんよ!そうだろう⁈じゃあな!イチ」


本当に、さっきまで殺しあってたとは思えないくらいの変わり身だ…。

これがアイツの強さなんだろう。大嫌いだが。

…それとも、あんな奴でも味方にすれば…もしかしたら頼りになるのだろうか⁈


そんな事を考えていたら、エリトが戻ってきて、小声でこう呟いてきた。


「逃がすわけねえだろ、てめえはよ、絶対にぶっ殺してやるからな」


前言撤回、エリトはこういう奴だ。

絶対に関わってはいけないクソ野郎だ。


「エリトくん、どうした?」


「なんでもないです!さあさあ!行きましょう!さっきスゲエ美味そうな飯を出す屋台を見つけたんですよ!」


楽しそうな声が遠ざかっていく。

その楽しそうな声を聞きながら…急速に心が冷えていくのを感じた。

異世界で戦うのに、頭の痛い案件が増えた感じだ、どうしたものか。



考え事をしていたら、ふと気づいた。

リコとゲス郎が不安そうな顔をしながら、こちらを伺っている事に。


「あの…イチ様」


リコが今にも泣き出しそうな顔をしている。

…ああ、そうか。さっきドラフトの話をしていて…自分がリコたちの所に行かない可能性も匂わせていたんだよな。


たしかにさっきのシリウスさんたちと組んで、どこか金持ちの領で雇ってもらえば、生き残りやすいし、お宝も手に入る可能性もありそうなんだが…。



でもエリトがいるなら話は別だ。



あいつが元の世界でして来た事を考えると、いつ寝首をかかれるか分からない。

何よりあいつは俺を庇ってくれたリコを殴った。

なら、考えるまでもないや。


「ワーミ領…だっけ?そこに行くよ。リコの勇者になるよ。世話になる、よろしくね」


「は…はい!よろしくお願いします!」


ぱああっと、太陽みたいな明るい笑顔になるリコ。

仕方ない。元の世界の事は心配だけど、ここで今、出来る事をやろう。

こんな自分を必要としてくれている、この笑顔の為に戦うのも悪くないや。


そんな事を考えていたら、邪悪な笑顔でゲス郎が近寄って来た。


「ワーミ領は良い所でゲスよ!そ れ よ り も!さっきのチートで竜人共をなぎ倒して、お宝を奪いまくりましょうや!あ、案内役のアッシの取り分は3割で良いんで!相棒として甘い汁を吸わせて下せえでゲス!」


「いつの間に相棒になった⁈と言うか、おめーの為に戦う義理は俺にはないぞコラ!」


ゲス郎に渾身のデコピンをかましつつ、3人で大笑いした。














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