69-出発
リーチリリ……リーチリリ……。
朝を告げる鳥の声で目が覚めた。この鳴き声はメズメだ。
グミルの森にすむ雀に似た小型の鳥で、可愛い声で鳴く。
畑の作物を啄む事もあるが、それ以上に農作物を食い荒らす害虫を食べてくれる事からギリギリ益鳥としてカウントされていて、形のよくない売り物にならない作物とかを、あえて収穫せずに放置して、餌として分け与えているらしい。(ちなみに餌に出すのはほんの少しだけらしい。何故ならあまり与えると満足して虫を食べなくなるからとか)
「共存共栄か……この世界にもあるんだな」
思わずそんな事を呟くイチ。
すると呟くとほぼ同時くらいに部屋のドアが開いてリコが寝室に入ってきた。
「イチ様、おはようございます。昨夜はよく眠れましたか⁈」
リコが優しく微笑みながら声をかけてきた。
ああ、なんか良いなあ。
朝からこの笑顔を見られるだけでなんか力が湧いてくる気がする。
「ありがとう、少し寝過ぎたかもな、皆はもう起きてるの⁈」
リコにそう返事をしていたら、フォレスタも部屋の中に入ってきた。
「皆はもう起きて準備もできてるよ~。イチは疲れているだろうから寝かせておこうって話していた所♪まだ寝てなくて良いの⁈起きるなら朝ごはんにするよ⁈」
フォレスタが笑いながら話してきた。よく見るとリコもフォレスタも服をしっかり着替えている。いつでも出かけられるように準備万端だ。やべえ、寝てる場合じゃない。
「ごめんごめん、すぐに食べるよ。」
慌てて寝床から起きて着替える。
部屋の隅には水の張られた桶が置いてあった。フォレスタが持ってきてくれたみたいだ。ありがたくそれで顔を洗う。
そしてそのまま寝床の脇に置いていた荷物を抱えて食卓へ移動する。
一応旅支度は昨夜済ませていたので、食べたら出発だ。
「(すぐに動かないとな……)」
心の中でそう呟きながら、昨夜の事を思い出す。
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「出発は早い方が良いだろう」
「ですね、竜人も次は本気の討伐でくるでしょう」
夕食を囲みながら真剣な顔をして長と社長が話している。
夕食はフォレスタの作ってくれた香辛料強めのパンシャリカンと、ベラーの肉を使ったとろみの強いシチューみたいな汁物。肉食動物ベラーの肉は臭みが強いもんだと勝手に思っていたけど、シチューと香辛料が上手く作用してるのか臭みは無くて野性味のある旨さがある。もしかしたらこのシチュー、この世界のカレー粉みたいなものかもしれない。
豆酒もあって、どぶろくさんとエルマさんはがぶがぶ飲んでるけど長と社長は一滴も飲んでいない。まだ全然気は抜いていないみたいだ。
「(当然だよな)」
思わず心の中で呟くイチ。
ギラードたちは追い払った。
集落の復興も守りも小雪が担ってくれる。
……がそれ以上に多くの戦力を失ってしまった。
本音を言えばもう少し回復してから動きたい。しばらく集落に立てこもりたい所だが、それは社長が強く反対した。
「時間をかけると竜人たちも戦力を整えて攻めあがってくるでしょう、戦力差は圧倒的です。竜人たちが混乱している隙をついて魔女カルラに会いに行くべきです」
「そうだなイチくん、リコやフォレスタたちも自分たちの武器や防具は出しておいてくれ、徹夜で仕上げておく」
社長の言葉を聞いて長が食事を切り上げ、森の民の職人モードに入ろうとする。
「あ、それなら、社長たちも装備を強化してもらった方が……」
イチがそう言うと、社長やどぶろくさん、エルマさんたちはお互いの顔を見合わせる。
そしてイチの方を向いたかと思うと、
「イチくん、おじさんたちはここに残るさ~」
「申し訳ない。私たちはこの先の戦いにはついていけないからね、この集落で匿ってもらう事にしたよ」
「ごめんね、アタシたちだけ逃げるみたいで……」
三人は申し訳なさそうな顔をしながらイチたちに告げてきた。
「えええええ⁈」
思わず声が出た。が……同時に思った。
「(仕方ないよな)」
3人の能力は得難いが、彼らは後方支援型だ。
特にエルマさんの能力は絶対に竜人たちに渡すわけにはいかない。
いつまでも立てこもれる訳ではないけど、一緒に行動するより、この集落で守ってもらっていただけた方が正直な話助かる。
「わかりました、その方が良いでしょう。じゃあ出発するのは俺と……」
イチがそう言いかけると、
「ボクは当然くっついてくよ⁈」
「わ……私も行きます!」
フォレスタとリコの二人が勢いよく手を挙げてくれた。
「ありがとう、リコ、フォレスタ……ん⁈」
いや、よく見ると手が4本上がっている⁈
1本は……モモさんだ。遮光式土器の小さなおててが挙がってる、可愛い。
するともう一人は……
「アッシも行くでゲスよ、ゲヒヒヒヒ」
目をキラキラさせながら下卑た笑顔で手を挙げるゲス郎。
「え⁈ゲス郎来るの⁈」
「え⁈は無いでゲスよ!アッシだって勇者様のお役に立ちたいでゲス!おいていくなんて言わないでくださいでゲス!」
いや、来ても戦力にならないと思うし、むしろ、この集落にいた方がまだ安全な印象があるのに何故……。
そんな訝し気な表情をしていたら、
「長、報告があります!」
森の民の戦士たちが数人、血相を変えて食事の席に飛び込んできた。




