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66-祈り

「よし、これで良いや。あとは……」


やっと見つけた大きな迎え石を魔道具『大貨物船』で収納する。この石は『貴重品』カテゴリだったためイチが収納した。そしてイチは二人に声をかける。



「じゃあリコ、フォレスタ、始めようか」


「はい!」


「イチ、リコ、ありがとう……」



3人で顔を見合わせて頷いたあと、なぎ倒された墓石たちの位置を3人で可能な限り元の形に戻した。

仕方が無かった事とは言え、死者の眠る墓地を滅茶苦茶にしてしまったのだ。少しでも原状回復させようと3人で話し合って決めた。


……と言っても、すべてのお墓の配置なんてそうそう覚えているものじゃない。

フォレスタが可能な限り思い出して、言われたとおりに並べてみただけだ。

正しい配置は後々、長や、森の民のお年寄りが直してくれるだろう。


問題は祠だ。滅茶苦茶に潰れていて、残骸もボロボロでとても直せそうもない。


「これは直せないね。一から立て直した方がマシだよ。後日、父さんにお願いして……」


「そうだなあ、まともな資材がないと……あ!フォレスタ!ちょっと待って!」


匙を投げかけたフォレスタを止めるイチ。そしてイチはそのまま首元の魔道具に魔力を込めて『大貨物船』を起動させる。


脳内に『大貨物船』の船倉が浮かぶ。一つ一つ船倉を覗き込むイチ。


「たしかさっき『固形物の部屋』を覗いた時に……」


『固形物の部屋』の船倉内部を覗き込み見渡す。スカスカの空き部屋だったが、よく見ると隅の方に少しだけど木材とかが転がってるのが見えた!


「やっぱり!ちょっぴりだけど、ジルコンさんの残してくれた資材があった!何の目的で収納してたか分からないけど助かる!ありがとう、ジルコンさん!」


そのまま『大貨物船』の船倉の中から資材を出して簡単な祠を作った。と言ってもこちらは大工でもないし、森の民の正式な祠の作りは分からないので、屋根があるだけマシみたいな小さな祠をやっつけで作った。そして祠の残骸の中で見つけた小さな玉とお供え物を回収して、やっつけの祠の中に納める。


「こんなものかな。じゃあ……」


3人で顔を見合わせ、そのまま膝をついて目を閉じ、先ほどフォレスタがご先祖様に話しかけたようなスタイルで祈り、話しかけた。


「森の民の戦士たち、ご先祖様たち、貴方たちの眠りの地を壊してしまい申し訳ありませんでした。後日必ずちゃんと直します。どうか無礼をお許し下さい。そして勇者オリオン様、迎え石、使わせていただきます」


「ワーミ領の領主、リコと申します。後日きちんとしたお詫びと礼をさせていただきます。どうか安らかにお眠りください」


「ご先祖様、ごめんなさい。必ずちゃんと直します。どうか森の民たちを守り、導いてください」


3人で深く祈った後、心と身体が一瞬軽くなった気がした。

そして、そよ風が吹いた。


「ありがとう」


耳元で声が聞こえた気がした。優しそうな声だった。


「リコ、フォレスタ、何か言った⁈」


「ボクは何も⁈」


「私も何も言ってません。イチ様には何か聞こえたのですか⁈」


……空耳だったのかな⁈


祈った後は少し休んだ。今日は作業続きでへとへとだ。

そして少し回復したので集落に戻ろうとした時に、


「イチ、リコ……お願いがあるんだけど良いかな」


フォレスタがもじもじしながら言った。


「……良いけど⁈どうしたの?フォレスタ」


「良いですけど……お姉さま⁈」


二人でそう返事すると、フォレスタは少しはにかみながら


「ついてきて」


そう言いながら歩きだした。

そしてそのまま墓地の端っこの方、すぐ隣が森という所に案内される。

すると、小さな石を三段に積んだだけの小さなお墓の前に案内された。


「フォレスタ、これは⁈」


「メツア兄さんのお墓」


「あ……」


申し訳なさそうな顔をするイチとリコ。しかしフォレスタは、


「気にしないで良いよ。えへへ、メツア兄さん亡くなったの確定しちゃったからね。遺骨も遺髪もないけど小さいけどお墓を作ったんだ。後日ちゃんとしたお墓を立てるけど、ボクたちたぶんすぐに出立するでしょ⁈良かったら……少しお参りしていってくれないかな」


優しく微笑みながらお願いしてきた。


「わかった、お参りさせてもらうね」


「もちろんです!お姉さま!」


二人でそう返事をして、そのまま跪き、皆で小さなお墓に向かって祈った。


リコは目を閉じ祈りの言葉を囁いている。

フォレスタは少し微笑みながら祈っている。

自分は……









少し考えたあと、お墓に向かって祈った。


「(メツアさん。仇は取ります。竜人皇を倒し、フォレスタも長も集落も守ります。どうか、安らかにお眠りください)」


しばらく祈った後に……腰のあたりを軽く引っ張られた気がした。

振り返って腰の辺りを確認したが誰もいない。

その直後にフォレスタが立ち上がり、


「ありがとう、二人とも!よーし!じゃあ、集落に戻ろう!お礼を兼ねて晩御飯はボクが腕によりをかけて作るからね!」


元気な声を上げた。それを聞いたリコが、


「あ、お姉さま!私も手伝います!」


と慌てて言うとフォレスタはニヤーと笑って、


「いいよいいよ!リコ、今夜はボクに作らせて!イチも一杯食べてね!」


いつもの元気なフォレスタに戻っていた。何か吹っ切れたみたいだ。

そしてそのまま集落に向かって歩き出すフォレスタとリコ。


だがイチは、立ちあがったもののその場から動かない。


「……イチ⁈どうしたの⁈」


「すまない、フォレスタ。ちょっとやりたい事があるんだ。すぐに追いつくから先に行っててもらえる⁈」


「……⁈良いけど、もうすぐ日が落ちるから早くしてね」


そのまま立ち去るフォレスタとリコ。

イチは二人の姿が見えなくなったのを確認してから、周りの森の奥を見た。


小さな光の粒粒が揺れているのが見える。近づいてよく見ると蛍みたいな小さな虫の群れだ。

イチは腰に差していた翠亀剣を地面に置き、もう一本の武器、風切りのナイフをそっと小さな虫の群れの近くに置いた。

その瞬間、小さな虫の一匹が風切りのナイフに向かってゆっくり飛んできて、ナイフの鞘に停まり、少し点滅した。


「メツア兄さん……なんですね」


小さな虫は強く点滅した。


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