64-大貨物船2
「イチ様!大丈夫ですか⁈」
「イチ!大丈夫⁈」
リコやフォレスタたちが駆け寄ってくる。大丈夫だ!と言おうとするが脳がぐわんぐわん揺れる感じがする。
首元の金茶色のチェーンネックレスは更に強い光を放ち始めた。キラキラがどんどん強くなり、比例して脳の揺れも悪化していく!このネックレスが……ジルコンさんの魔道具が首元から何かを吸って脳を揺らしている感じがする!
「(ぐわああああああ⁈ヤバい!魔道具を外さないと!)」
だが金茶色のチェーンネックレスは肌にしっかりとくっついて離れない!まるで吸血ヒルのようだ!
「(ヤバい!何かがどんどん吸われる!このままじゃ……!)」
意識が遠のいたが、なんとか踏ん張る。
揺れる頭で何か方法は無いか⁈と考えた時に、
違和感に気付いた。
首から……おそらく魔力が吸われている気がするのだけど、吸われてるのは首元だけじゃない⁈他の場所からも吸われてる感じがある。どこだ⁈
そうだ、右腕と左腕の体温が違う気がする。
右側が熱くて左側が冷えてる⁈
バスに乗っている時に日の差す窓側の腕だけ熱くて、日陰の逆側の腕は冷えてる感じに似てると言うか。
左手首を見てみる。
左手首には水晶の様に透き通った水色のブレスレットが巻かれている。マムリさんが変わり果てた魔道具だ、特に変わった所は……。
いや、変わった所ある!
よく見ると、魔力を込めていないはずの水色のブレスレットが淡く発光してる!これか⁈
右手で掴んで外そうとしてみる。動く!こちらは肌に張り付いてる感じはしない、取れるぞ!
……と思ったが指が震えて上手く外せない!
震える声でフォレスタに嘆願する。
「……フォレスタ!俺の……左手首の……ブレスレットを……」
「え……⁈あ!そういう事か!」
フォレスタがすぐに察して左手首からブレスレットを外してくれた。
外れた瞬間、頭が揺れる感じは消えて、体調も精神も安定した。
肩で息をしているイチを見て、フォレスタが心配そうに声をかける。
「イチ!大丈夫だった⁈」
「ありがとうフォレスタ……急に……脳がぐわんぐわんと揺れて……ヤバかった……今のは一体⁈」
困惑した顔をしているイチに向かって、
「イチ様、少し良いですか⁈」
リコがそう言いながらイチの首と左手首に手を当てる。ひんやりした手の体温が気持ち良い。そしてリコは、その白魚の様な細い指で首と左手首、そして左胸の辺りをさすり始めた。
そしてリコは今度はさっきまでイチが身に着けていた水色のブレスレットをフォレスタから受け取ると、注意深くブレスレットの装飾に触ったりしながら何かを確認していた。
そして何かに気付いたらしく、イチの顔を見ながら忠告してきた。
「イチ様……首元のジルコンさんの魔道具の出力が以前よりも物凄く上がっています。実は魔道具は魔力を消費して使うものなので、出力の上がった高性能な魔道具を着用するとそれに応じた魔力を消費してしまいます。それを幾つも身につければ……おそらくイチ様の頭痛の原因は魔力を吸われ過ぎた故の魔力欠乏症だと思います……」
「え、魔道具って使用制限があるの⁈」
思わず声が出る。
そして同時に先ほどのジルコンさんの言葉が思い出された。
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「手短に言う。魔道具は使いすぎるな、仲間を頼れ。あと俺っちの魔道具はクセがある」
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あれはそう言う意味か!ドラフト超上位のジルコンさんクラスの魔道具の複数使いは難しいんだ!
「そうか……たぶんジルコンさんの魔道具を高度に使いこなせるようになってきたから、その分魔力の消費量が上がったのか!」
待てよ?と言う事は……まさか!
イチの焦りの表情を見て察したリコが説明してくれた
「はい……同じドラフト上位のマムリさんの魔道具の方も使いこなしていけば、たぶん数段上の魔力消費量になるはずです」
ダメだダメだダメだ!
どんなに強くてもこんなの一人で使っていたら戦う前に干上がってしまう!クセがありすぎだよこの魔道具!
どうする⁈
少し考えて、さっきジルコンさんと心の中で出会った事を皆に共有する事にした。魔道具の事、ジルコンさんと少しだけど話せた事、そしてライミさんの言っていた、会うべき人物が魔女カルラで確定して、ジルコンさんに彼女を救ってほしいと頼まれた事。
皆、驚いていたが、それらの話を聞いたリコは何かを決意したらしい。マムリさんの魔道具の水色のブレスレットを掴み、彼女の細い左手首に着けると、宣言した。
「イチ様、マムリさんの魔道具は私が使います。分担しましょう。大丈夫です!私、魔力は人より多いんです!」
「そうだよイチ!もっとボクらを頼ってよ!一人で背負い込む事はないんだから!」
リコだけじゃなくてフォレスタも協力を申し出てくれた。
え⁈でも!と思ったが、こんな強力な魔道具を絶えず身に着けていたら肝心の戦闘が危なくなる可能性もある。自分がもっと強くなれば複数の魔道具を余裕で使いこなせるかも知れないが、この先もっと強力な魔道具を確保できる可能性もあるし、それを使いたいのなら、戦闘要員の自分の負担は少ない方が良いのかもしれない。
少し考えて、マムリさんの魔道具はリコが、ジルコンさんの魔道具はイチとフォレスタが場合に応じて持つのを交代しようと言う話になった。(ただジルコンさんの魔道具は、フォレスタはしばらく全力使用しないで少しずつ慣らしてから使うようにお願いした)
役割分担をしながらジルコンさんの発言の意味を考えた。
「(仲間を頼れ……か。たしかに皆を信じてるようでいたつもりだったけど、それでも自分がなんとかしなくてはと気負い過ぎていたのかもしれないな……もっと皆を頼ろう)」
そうだ。背負える以上の荷物を背負いすぎると潰れてしまう。任せる所は任せてしまおう。
そう考えたら、ほんの少しだけど肩の上の辺りが軽くなった気がした。
「そうだな、じゃあまずは、ここの武器を持って行こう」
気を取り直してイチが皆にそう話す。そして首元の金茶色のチェーンネックレスに魔力を込める。するとイチの頭上に装飾のついた西洋の砦の門のような大きな扉が開き、地下室の武器の数々がジルコンさんの魔道具『大貨物船』に詰められてていく。掃除機で埃を吸い込むかのようにスイスイ入っていく武器の数々、ちょっと楽しいかも。
フォレスタが「楽しそう!やらせて!」と言うので金茶色のチェーンネックレスをフォレスタに渡す。フォレスタは嬉しそうに装備すると、お魚咥えたドラ猫を追いかける国民的ファミリーアニメの主人公の主婦の様に、鼻歌交じりに武器類をスイスイ吸い込んでゆく。
だが、
「あれ⁈一部の武器は吸い込めない⁈」
フォレスタが素っ頓狂な声を出す。
「え⁈そんな馬鹿な⁈貸して⁈」
そう言いながら、もう一度金茶色のチェーンネックレスをフォレスタから受け取るイチ。
魔力を込めて……フォレスタが吸い込めなかった一部の武器を吸い込んでみる。
……吸い込めた。
「あれー⁈なんで⁈ボクには出来なかったんだろう」
フォレスタが不思議そうな声を上げる。
「たしかに。なんでだろう⁈ん⁈」
そう言いながら気づいた。
イチの脳内には『大貨物船』の船倉が浮かんでいる。
……ほとんどの武器は『固形物』の船倉に入っているのだが、フォレスタが吸い込めなかった武器は『貴重品』の船倉に収納されてる!
どういうことだと思い『貴重品』の船倉から吸い込んだ武器をもう一度取り出してみる。
そして気付いた。
「これ……少しだけあった『うっすら光ってる「魔力を帯びてそうな武器」』じゃないか!業物はカテゴリが違うのか!」
「えー!そんな船倉があったの⁈ボクまだその船倉開けないかも⁈」
「『貴重品』の船倉の開け方は教えられるよ。多分フォレスタなら開ける。……でもこの船倉、魔力の消費が多いんだよ。フォレスタには負担が大きいかもなあ」
そうフォレスタと言葉を交わしながらジルコンさんの残した言葉をもう一度思い出していた。
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「手短に言う。魔道具は使いすぎるな、仲間を頼れ。あと俺っちの魔道具はクセがある」
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本当にクセがあるな!
ドラフト上位の祝福ってリスクもあるんだな……。
魔道具を沢山持ってれば最強って訳でもないらしい。
「(もしかしたら竜人たちも、手に入れたは良いが使いあぐねてる魔道具とかあるのかもしれないな)」
そんな事を考えつつ業物と普通の武器で吸い込み役を交代しながら、全ての武器を仕舞い終えた。
あとは……。
「さて、これからの事だけど、ライミさんは「『迎え石』を持てるだけ持って魔女カルラと合流して」と言ってたよね……。でも『迎え石』はどこにあるんだろう⁈」
イチがそう言うと皆が顔を見合わせる。長もフォレスタも『もう迎え石は無い』と言ってたのに、ライミさんは『ある』と言う。
一体どこに……⁈
そう考えながら地下室の壁にもたれかかった。ひんやりして気持ちいい。
そして気付いた。
地下室の壁はピカピカに磨かれた頑丈な石で囲まれている。
『(そう言えばこれ……何の石だ⁈)』