63-大貨物船
「魔女カルラを救ってくれ……って」
やはり、魔女カルラに会うので正解か!ならば、他にも聞きたいことが!
「聞きたい事が沢山あります!まずあの大量の……」
武器の扱いについてですが……と、聞こうとした瞬間にジルコンさんの手で口を塞がれた。
えっ⁈と思ってジルコンさんの目を見ると。
信じられないくらい怖い目をしていた。
あの豪胆なジルコンさんが冷や汗をダラダラ流してる!一体⁈
ジルコンさんは目だけを動かして周りを警戒した後、早口の小声で喋った。
「手短に言う。魔道具は使いすぎるな、仲間を頼れ。あと俺っちの魔道具はクセがある。使い方はこの『大貨物船』を探索して調べろ。藍色は合言葉がいる、紫色は開けるな、以上だ」
「(え⁈どういう事ですか⁈何の話です⁈)」
そう喋ろうとしたが、口を塞がれている。ジルコンさんの目は『何も喋るな』と言っている!
意をくんで口を閉じる。それを見てジルコンさんはニヤリと笑って、
「俺っちは意地悪でな!頭の体操だ!自分で考えな!がっはっはっはっは!じゃあな!」
そう言ったかと思うと、乗ってきた小舟にまた乗って飛び上がり、
ヒュオオオオオオオオ
……凄い速さで飛び去ってしまった!
「(ち……ちょっと!ジルコンさん!まだ話が……!)」
そう言おうとした瞬間に
ぞくり。
この世界の空気の温度が一気に下がるような感覚があった!
何かがこの世界に侵入してきた気がした。
いや、この世界が何処なのかそもそも分からないけど。
でもわかる!何かヤバい物が来た!
声が出ない。
汗がダラダラ出る。
恐くて周りを見る事もできない。
そのヤバい『何か』はイチの上空辺りを通過したような気がした。
そして、ジルコンさんが飛び去った方に向かって飛んで行った。
……時間にして数秒だったと思う。
でも、体感時間は、1時間くらいあった気がした。
こわごわとジルコンさんが飛び去った方向を見てみた。一瞬、ヘビトンボみたいな小さな羽虫が見えた気がしたが今は何も見えない。
「(今のは……)」
そう口にしかけて気づいた。この背筋が凍るような感覚を覚えている。ギラードと対面した時だ。
「(いや、違う!今回のはギラードより遥かに強大だった。おそらくあれは……)」
……竜人皇だ!
確証は無い。でも肌で分かった。あれが敵の大ボスだ!
ジルコンさんが逃げる訳だ。あんなの勝てっこない!
あの羽虫はおそらく探査係か⁈
必要な情報は教えてもらえなかったけど、あれは話せなかったんだ!
ジルコンさんの言ってた事を思い出す。
『魔道具にはクセがある。使い方は探索して調べろ』だったか?
この箱舟がおそらくジルコンさんの『大貨物船』なのだろうな。でも調べようにも入り口は上部側面で届かないから中に入れない。ジルコンさんの乗ってきた空飛ぶ小舟は持って行かれてしまった。
「どうしよう……」
そう呟いた瞬間に、箱舟の上部側面の大きなドアから小舟がもう一艘降りて来た。さっきのはモーターボートみたいな小舟だったけど、こちらは太古の人達が使っていたような、丸太をくりぬいたようなカヌーっぽい。
「乗れって……事かな?」
そのカヌーに乗りこむ。するとふわりと浮き上がり、箱舟の上部側面の大きなドアに向かって上がって行った。
そしてその大きなドアから箱舟内部に入ると、廊下があった。カヌーを降りてその廊下を進むと、船長室と書かれた扉を見つけた。
「(扉には……カギはないようだ。入れるな)」
船長室の扉を開けて入ると、見た事もない世界の地図が壁に貼ってあり、本棚と大きな机があった。そして机の上には色のついた箱が七つ置いてあった。
「(赤、オレンジ、黄色、緑、青、藍色、紫……七色か、虹色っぽいな⁈)」
箱に触ってみた。それぞれに文字が書かれてる。赤色の箱には『固形物』と書いてあった。
赤い箱にはボタンがついていて、押すと箱の上蓋が開いた。すると、
「固形物ノ部屋ガ解放サレマシタ」
そんな声が聞こえた。すると、脳内にこの箱舟の船倉内部が浮かんだ。船倉内部はスカスカだったがよくみると、木材とかが転がってるのが見える。そして気付いた。
「そうか!この魔道具、全能力を使うには、何か条件が必要なんだ!」
おそらくこの箱を開けると新しい船倉が解放されるんだろうな。よし、わかってきたぞ。
次はオレンジ色の箱に触ってみた。ダイヤル式のカギがついている。これは難儀かな?と思ったけどダイヤルは二桁しかなかった。あっさり開く。
「(セキュリティ番号二桁かよ!昔見た、面白いけどツッコミどころ満載な映画みたいだな。豪快なジルコンさんらしいけど)」
そう思った瞬間に声が響いた。
「食糧ノ部屋ガ解放サレマシタ」
また脳内にこの箱舟の別の船倉内部が浮かんだ。船倉内部は大量の保存食の箱が見える!
「(なるほど『大貨物船』の中に詰め込む物は、種類によって船室が異なるのか!なんでもかんでも出し入れできる訳じゃないのね。よーし!)」
その調子で黄色と緑色と青色の箱を開けていった。黄色は『気体』、緑色は『貴重品』、青色は『液体』
の船倉だった。『液体』の船倉には水が少し入っていた。
「(箱を解放しなくても水はチョロチョロとなら出せた気がするけど、今度は大量に出し入れできるようになった感覚がある。なるほどね)」
しかし残りの箱、藍色と紫色の箱は開かなかった。
「(ジルコンさんは、『藍色は合言葉がいる、紫色は開けるな』と言っていたよな……ジルコンさんのの過去の発言で合言葉のヒントは無いかな?)」
ジルコンさんの過去の行動と発言を思い出す。
ふと、ジャーバルたちとの戦いで亡くなったジルコンさんの最期の言葉を思い出した。
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「マムリに伝えてくれないか…マムリ愛してる…って…いや、マムリ…おまえ…もうそこに…そうか…俺の物は全てお前の物にするつもりだったのだがな…ガハハ…もっと早く言うべきだったな…ガラでもねえ…」
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「(まさかね……)」
そう思いながら藍色の箱に向かって話しかけてみるイチ。
「マムリ愛してる」
藍色の箱は……開かなかった。
「開かないか……まあ、合言葉がそんなに単純なわけないよね」
と思いながらも、オレンジの箱のカギが二桁の暗証番号だったのを思い出し苦笑いする。
ジルコンさんの事だからやっぱり単純な気もするなあ。
「(でもまあ大体は使えるようになったから良しとしよう)」
そう考えた瞬間、いつの間にか箱舟から降ろされていた事に気付く。
そして霧の様なものが出てきて箱舟を覆い、周りの風景がモザイクのように変わり始める。
この感覚は……さっきの⁈
そう考えた時に、
「イチ様?どうされたのですか⁈」
聞きなれた可愛らしい声がした。
そして気づいたら目の前にリコの顔があった。
周りの風景は……先ほどの森の集落の小屋の地下室だ。どうやら戻って来たらしい。
リコに尋ねる。
「リコ、今、俺、何かしていたか⁈」
リコは不思議そうな顔をして返す。
「?……いえ……イチ様は何か考え事しているようは見えましたが……特に変わったことはなかったです」
「そうか……リコ、俺、どのくらいの時間考え事してた⁈」
「え……たぶん10秒くらいじゃないかと……⁈」
そんなに短かった⁈けっこういたような気がするんだけど、特に時間は経ってなかったようだ。
「(白昼夢⁈いや、絶対に違う。自分の中でジルコンさんの魔道具『大貨物船』の使い勝手が良くなった感覚がある)」
首元の金茶色のチェーンネックレスが気持ち重くなった感覚がある。
カセーツさん達の時もそうだったし、魔道具が見せた幻みたいなものだったのかな⁈
思わず考え込んでいると、
「あの……何かあったのですか⁈」
リコが心配そうに聞いてきた。
そうだな、皆に何から話そうか。
少し考えて、まずはジルコンさんの魔道具について話そうと思った。
「みんな!聞いてくれ!ジルコンさんの魔道具をより使いこなせるようになったかもしれない!」
フォレスタが反応する。
「え?本当⁈どんな風に⁈」
期待通りの反応だな。そうだな、まずはこの地下室の武器でも収納して見せるか!
「ああ!どうもこの魔道具はクセがあるみたいで使いこなすのが難しいみたいなんだ!でも7割くらいは使いこなせるようになったと思う。まあ、まずは使ってみせるよ」
そう言いながら首元の金茶色のチェーンネックレスに魔力を込めるイチ。
「『大貨物船』!」
はっきりとした声を発する。以前使った時よりチェーンネックレスがキラキラと強く輝きだした!
その瞬間、
ぐわん
「え……⁈なんだ⁈……うわあああ⁈」
頭を揺らされたような感覚があり、イチは膝から崩れ落ちた。