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62-噂の魔女

「『魂の蘇生結晶(レイヤール)』を発見したと言われる魔女だって⁈」


思わず声が出る。

魂の蘇生結晶(レイヤール)』!死者を蘇らせる、この世界のお宝であり自分の最大の目的の一つ!


「それはシリウスさんの事を抜きにしても是非会ってみたいよ!」


そう答えると、明らかにリコの顔色が曇る。どうしたんだろう⁈

やはり何かあるみたいだ。


「どうしたのリコ⁈もしかしてその魔女、何か問題がある人なの⁈」


イチがそう尋ねるとリコが小さく頷く。

そして言いにくそうな顔をしながら答えてくれた。


「魔女カルラは『魂の蘇生結晶(レイヤール)』を発見した偉大な魔女ですが……その大事な『魂の蘇生結晶(レイヤール)』を竜人皇に引き渡した張本人じゃないかと言う噂があるのです」


「なっ⁈」


絶句した。それが本当ならとんでもないことだ。

そんな顔をしていた自分を見てリコが慌てた感じで続ける。


「いえ、あくまでも噂です。彼女には元々悪い噂が一杯あるのですが、根も葉もない噂が殆どで……才能があるせいか妬まれてもいるみたいですし、他にも彼女にフラれた男が腹いせに流した悪評も多くて……」


「あー……そう言うタイプか」


リコの言葉でなんとなく想像がついた。


「(バイト先に昔、凄く仕事ができてモテる人がいたけど、その人からモテる人の苦労を聞かされたからなあ)」


そのバイト先の人はちょっと微笑んだだけで惚れられてしまうタイプで、本人もそれを避けるべくなるべく周りの人に塩対応しようとしてたけど、なんかそれが癇に障られたのか、男女問わずやっかみを受けていて色々な噂を流されていた。本当は苦労人で必要なお金を稼ごうとしていただけなのに、人間関係で辞めざるを得なかった人だった。


「(噂を気にせず黙々と仕事を一生懸命やっていたら、心を開いてくれて、こっそり今までの苦労を聞かせてくれたっけ。結局、噂なんて当てにならないなと思ったし、綺麗な顔に生まれても幸せとは限らないんだな……と教えてくれた人だったな)」


そんな事を思い出しながら、少し宙を見つつ考える。


魔女カルラが同じタイプかは分からないけど、似たタイプの可能性はある。今の所、ライミさんの言っていた『ある人』が魔女カルラさんなのか正直分からないけど、シリウスさんの行動の謎を解く可能性があるなら危険を冒して会ってみるのも手かもしれない。



「(そうだよな、直接会って話を聞いてみないと分からないよな)」



頭の中で結論が出た。

そしてそのまま皆の方を向くイチ。


「みんな聞いて欲しい。噂は気になるけど、自分は実際に会って話しをしてみたい。数少ない手がかりだからね」


そう言うと……リコが更に不安そうな顔をしているのに気付く。


「(根も葉もない噂が殆ど、と言っていた割にかなり心配してるな⁈もしかして他にも何かあるのか?)」


そのままリコに問う。


「どうしたのリコ⁈まだ気になる事があったりする?」


リコは話すべきか迷っていたようだが、意を決したのか喋り始めた。


「実は……その……信憑性の高い噂も他にあるんです」


「え⁈それは気になる。何⁈」


イチがそう言うと、リコはまごまごしてたが……話してくれた。


「その……めちゃくちゃ恋多き人で、気に入った相手にはすぐに結婚を申し込んでくるそうです」


ずっこけた。


「えー……そう言う内容のネタこそ、根も葉もない噂の定番なんじゃないの⁈」


イチが呆れてそう言うと、フォレスタが被せてきた。


「あ、待って、ボクもドラゴニアの街の恋魔女の噂は聞いた事ある。あー、そうなのか、同一人物だったのかー。たぶんその噂は本当。有名だよそれ」


フォレスタがウンウンと頷いてる。


「ええええええ⁈本当に⁈さすがにウソじゃないの⁈」


思わずツッコんでしまうが、リコとフォレスタはなおも続ける。


「はい……しかも彼女と結婚した男性は皆すぐに亡くなってしまうとか……」


「うん。その人、恋する未亡人魔女って言われてた」


「ええええええええええええ⁈」


思わず声が出る。

一番ウソだろと思った所が本当の可能性が高いの⁈




なんか会うの恐くなってきたな……。

そんな顔をしていたら、リコは言い過ぎたと反省したのだろう。大慌てで弁明してきた。



「ごめんなさい……こんなこと言いたくなかったのですが、その……イチ様もどうかなってしまうんじゃないかと心配して……いや、言い訳です。本当にごめんなさい!こんな言い方最低ですよね!ごめんなさいごめんなさい!」



必死なリコを見て思った。






心配しなくてもわかってるよ。






リコが他人の悪口を言う事なんてない。

それは知ってる。




でも、そのリコがこんなに不安になるってのは良くも悪くも何かがあるって事だよな。気を付けるか。


「大丈夫だよ、リコ。俺はそう言うのに対する耐性はそこそこある方なんだ。そんなの絶対……」




そう言った瞬間



フォレスタと目が合った。




キラキラキラキラキラキラキラキラキラキラ




うわ!話題の魔女と美貌で張り合う気になってるせいかフォレスタが顔面偏差値MAXモードに入っている!


「(うわあああああああ!今日は群を抜いて顔が良い!)」








……ってこれじゃないか!








思い出した。自分は惚れた腫れたには縁のない人生を送っていたのに、この世界の顔面偏差値MAX組は何か強烈なフェロモンでも発しているんじゃないかっていうくらいの魅力を出してきてる!


「(自分は実は惚れっぽかったのかな⁈と思っていたけど違う!たぶんこれ何かの能力の一種だ!いや、もしかしたら呪いの類に近いのかも知れない!)」


能力持ちなら話は別だ。そもそも魔女と言われているくらいなんだ。警戒感MAXでいこう。


「わかった、この世界に『絶対』はないよね、気をつけるよ」


リコにそう返事をする、が、彼女の顔から不安は消えていない。

仕方ないか。フォレスタの顔面偏差値への耐性見る限り今の俺には説得力なんてないよなあ……。

どうすれば理解してもらえるだろう。







いや、そうじゃない。

俺のやるべきことは……。







息を吸う。


邪念を捨てる。


ワーミ領で剣を貰った日。あの日に誓った気持ちを思い出す。


そしてしっかりリコの目を見て話す。




「俺はリコの勇者にしてもらった事を感謝してるよ、大丈夫」




そう言うと、リコはやっと笑ってくれた。

そして思い出す。



「(そうだ、リコの身の上だって相当大変じゃないか。竜人たちの迫害を受けて親御さんを失って、領を失いそうになって、頼る者がいなくなって、勇者ドラフトで来た、しがない高校生だったはずの俺だけが頼りじゃないか。しっかりしなくては)」



心に背骨が入った。

守るべきものを思い出して、頭がスッと冷えてきた。危なかった。




そしてそのまま、改めて地下室の中を見回してみる。

森の民とシリウスさんの残した大量の武器。これを上手く生かす方法は。


唇に親指を当てて少し考える。

そして決意した。

皆の方を見ながら話す。


「皆、聞いて欲しい。やはりなんとかして魔女カルラと会ってみようと思う」


そう言った後、イチは長の方を向き、


「長、シリウスさんは『魔女が喜ぶ』って言ってたんですよね⁈ここの武器の半分を預かって良いですか⁈」


そう言うと、長は少し驚いた顔をして聞き返す。


「半分もか⁈イチくんなら構わないが……どうするつもりかね⁈」


それを聞いたイチが返す。


「交渉に使ってみます」


「だが、どうやって持って行くのかね⁈ジルコンくんはもういないのだぞ⁈……あっ」


長はそう言ったあと、何かを思い出したかのようにイチの胸元を見た。

イチは服の首元から金茶色のチェーンネックレスを出す。

ジルコンさんが変わり果てた魔道具だ。




「使わせてもらいます」




イチはそう言うと金茶色のチェーンネックレスに魔力を込める。淡く発光する魔道具。

すると、前と同じように胃袋の奥に何か大きな空間ができて無限に何かを収納できそうなイメージが……








湧かない……?








「(あれ⁈なんだ⁈以前と違う⁈)」




そう思った瞬間だった。




時間が止まったような感覚があり、周りの風景がモザイクのように不明瞭になり、かき消されていく。


そして気が付くと見た事もない荒れ地に飛ばされていた。

ごつごつとした岩だらけの山々に囲まれている。


「ここは……⁈」


盆地のようだが周りには何もない。

遠くに畑が見える。が、相当に痩せた土地なんだろう。緑がほとんど見えない。

昔、映像で観た干ばつにあった中央アジアにも似てる。岩山と高い空しかない土地。

空気も薄いようだ。空を見上げるとグラデーションのかかった藍色の空に月が3つある。


「(ここは……さっきまでいた世界でもなければ自分の元いた世界でもないぞ⁈)」


空を見上げ、一番大きな月のような星を凝視する。すると何か黒い点が浮かんでいるのに気が付いた。

よく見るとその黒い点はゆっくり動いている。


「(……どんどん大きくなっていく……これは……飛行機⁈)」


いや違う。

船だ。空飛ぶ船。

見た目で一番近いのは、随分昔に図書館で読んだ、沢山の動物を載せて大災害を生き残った有名な箱舟。


じっと見ていたら、その大きな箱舟はゆっくりと、静かに目の前に着陸した。

砂煙が上がる。


「(思ったより大きい。箱舟と言うよりタンカーに近いかも)」


警戒しながらぐるっと箱舟の周りを見上げながら一周してみる。

上から下まで見たけど入り口はどこにも見当たらない。


箱舟に近づき、船底に触ってみる。箱舟は木製のイメージがあるけど触った感じ木製でも金属でもなさそうだ。近いのは……石船⁈


そんな事を考えていたら、上の方から聞き覚えのある太くて力強い声がした。


「よう、やっと来たか」


見上げる。

よく見ると箱舟の上部側面に大きなドアが出現していた。そしてそこからジルコンさんが手を振っているのが見える!


「ジルコンさん!」


思わず涙声になる。


ジルコンさん優しく笑いながら、そこから小舟の様なものを出すと、それに乗ってエレベーターみたいに降りて来た。

思わずジルコンさんに抱きつく。


「ジルコンさん!すみません!シリウスさんもマムリさんも守れませんでした!」


泣きながらそう言う。すると


「ガハハ!たしかに、俺っちたちはやられたが、集落やお姫様たちは守れたじゃないか!お前はよくやったよ!」


そう言いながら豪快に笑うジルコンさん。相変わらずの豪快さんだなあ!

そう思ってつられて笑った瞬間にジルコンさんから笑顔が消える。

空を厳しい目で睨んだ後、こちらを向いて、


「イチ、お前にしか頼めない事がある」


そう言いながら両肩を掴むジルコンさん。

そしてそのままこちらの目を真っ直ぐに見てきたかと思うと、


「魔女カルラを救ってくれ」


真剣な顔をして告げてきた。

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