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59-モモヤマさん

土人形を連れて広場に戻る。そして長たちに会い、土人形の復活を話す。

皆、喜んでくれた。

そしてその後、長や生き残った勇者たちも含めて皆で土人形の事について話をした。


「土人形が復活したのは嬉しいけど……この土人形の中身はどんな人だったんだろうね」


イチがそう言うと


「うむ……森の民のご先祖にこれだけ強い者がいれば名前は残ってそうなんだが、モモチェキラ……だったか⁈そんな名前の戦士はいなかった。何者だろうか?」


長が後ろで石つぶてを拾う土人形……いやモモチェキラさんを眺めながら話す。

モモチェキラさんは拾った石つぶてを高く積み上げてる。まるで賽の河原のようだ。


「そうですか……長なら何か知っていないかと思ったのですけど……それにしても」


そう言いながら考え込むイチ。


「(迎え石がご先祖様の止まり木みたいと言うのは言い伝えじゃなくて、本当っぽいのはわかった。でもこうなるとどんな人だったのか気になる。強さもだけど、このキャラの濃さには既視感があると言うか……)」


思い切ってフォレスタに聞いてみた。


「ねえ、フォレスタ」


「なに?」


「思ったんだけど、迎え石はご先祖様をお迎えする石と言っていたよね?でもこの土人形……いやモモチェキラさんか……の中身なんだけど、この強さ(とキャラの濃さ)は森の民と言うより、異世界から来た勇者だった人なんじゃない⁈」


イチがそう言うと


「うん、同じ事思ってた。てっきり、ご先祖様限定かと思っていたんだけど、そうでもないのかな?それとも亡くなった人なら条件が合えば迎え石に入れるのかな⁈」


フォレスタも同意した。やっぱりか。


「フォレスタもやっぱりそう思っていたんだ。そうなんだよ、モモチェキラさん相撲の技を使っていたから。この世界の戦士とは思えなくて」


そう言うと、


「スモウ⁈」


長が何かを思い出したような反応をした。


「あれ?長、モモチェキラさんの中身について誰か思い当たる人でもいるんですか⁈」


そう言うと長はモモチェキラさんをジッと見つめている。

遮光式土器みたいなモモチェキラさんは脚を上げて四股を踏み始めた。かわいい。

そしてその四股をみて長の目が輝いた!


「……そうか、あの技はどこかで見た事あると思ったら……スモウか!ならモモヤマさんかも知れない」


「あー!モモヤマさん!たしかにあの人なら!」


長の反応を聞いてフォレスタも何か思い出したらしい。嬉しそうな顔をした。


「長、思い当たる人がいたのですか⁈」


「シーロ領の勇者モモヤマ。10年前の勇者ドラフトで来た人でね。この集落に留まって集落の発展に尽くしてくれた勇者様だ。元スモウ取りだと言っていたな」


「……相撲取りまでいたんですか⁈勇者に⁈」


ビックリした。本当に多種多様な勇者がいるなあと思っていたけど、よく考えたら80年も勇者ドラフトやっているんだ。相撲取りの一人くらいいてもおかしくないかもしれない。


「強くて優しくて、歌が上手くてひょうきん。大好きだったなー。メツア兄さんが凄く懐いていて、モモ兄さんモモ兄さんと言ってずっと後ろをチョコチョコ着いて行ってたっけ!」


嬉しそうに思い出を語るフォレスタ。

それを聞いて、


「ほう、相撲取りですか」


社長が目をキラリと光らせて話に入ってきた。

なんか興味津々と言った感じで……いや目つきが急に鋭くなったぞ社長?


「私は大相撲マニアでね!私の知っている力士かな⁈長、四股名は分かりますか⁈」


「四股名⁈名前の事かな……?いや、名前はモモヤマさんとしか聞いて……いや!」


長は少し考え込んだ後、何か思い出したような顔をした。


「そうだ、スモウ取り時代に名乗っていた名前があると言っていたな。たしかモモノクニとか」


「モモノクニ⁈……桃ノ国……聞いた事があるようなないような……」


社長は必死で脳内相撲取りリストを検索しているようだ。

いつもの温和で冷静な感じが消えて思考するガチオタの顔をしている。

なんか声がかけ辛い雰囲気だけど思い切って聞いてみる。


「あの~……社長?もしかして何か知ってるんですか⁈」


「ああ、すまないイチくん。実は私は相撲部屋のタニマチをやっていた事もあるくらいには相撲好きなんだ。だが……とんと思い出せない。私の記憶力も落ちたかな。幕下以下の力士だったとするとさすがにね。もし元の世界に帰れたら、相撲取りの名鑑を見て探してみたいところだね」


社長はかなり嬉しそうで少し早口になっていた。本当に相撲が好きなんだろう。社長の思わぬ一面を見た気がする。

そして今度は長に話を振ってみた。


「それで……迎え石の中の人の可能性があるって事はモモヤマさんは亡くなられているのですよね。やはり勇者狩りにでもあったのですか⁈」


すると長が答えてくれた。


「いや、モモヤマさんは勇者狩りの手にはかからず、この集落で静かに亡くなった」


そして長はなおも続けた。


「モモヤマさんはシーロ領の領主様とそりが合わなかったみたいでね、大喧嘩してすぐにシーロ領を出てしまったらしい。そして特に勇者活動もせずに、この森の民の集落に流れて来たんだ」


懐かしそうに、だが少し苦笑いしながら語ってくれた。


「……ずいぶん自由な人だったのですね」


「森の民の集落に来た時の第一声が『なんでもするから何か食わせてくれ』だったからね。身なりもボロボロで、凄い勇者様もいるものだと思ったよ。ただ、ボロボロだったのは差し向けられた勇者狩りを返り討ちにして来たかららしい。竜人たちもあまりの強さに手が出せなかったようだ」


長はモモチェキラさんの方を見る。するとモモチェキラさんは石積みに飽きたのか、ブレイクダンスを踊っている。自由だな。それを見ながら長はまた苦笑いして、イチの方を向く。


「そもそもモモヤマさんは正義の味方でもなく、生きたい様に生きていた感じがしたからな。勇者活動も特にしてなかったから竜人たちもあまり本気で討伐しようとしていなかったみたいだ」


「本当に自由な人だったのですね……」


呆れてイチがそう言うと、長は少し嬉しそうに語り出した。


「でも、森の民とは相性が良かったのかすぐに仲良くなってね。私も気に入って、好きなだけ滞在して良いと告げた。そうしたら本当に安心したみたいで元気に居座ってね。飯は10人前は食う、寝てばかりいると自由だったよ。だがいつも稽古はしていたな。するとしばらくしたらみるみる身体が大きくなってね。そのパワーで家や橋まで作ってくれたよ。そうしたらベラーや宝イノスもモモヤマさんが現れたらすぐに逃げ出すくらいになってね、暫く森の治安が良くなったな」


その話を聞いたフォレスタも続ける。


「モモヤマさんね、いつも言う事が変わるんだよ。『俺は元相撲取りだ』『大工だ』『歌手だ』『ダンサーだ』ってね!なんでもできる人だったけど、大ウソツキの匂いもしたな。でも話は凄く面白くてみんな大好きだったよ!」


フォレスタも嬉しそうに語っている。本当に自由人だけど問題もありそうな人だったんだな。

そう思いながらモモチェキラさんの方を見ると、両手をつけて脚を曲げて立っている。あれは……


「あれ、もしかしてヨガの『立木のポーズ』⁈」


そうイチが言うと、フォレスタが


「そうそう!『俺は元ヨガの先生だ』とも言ってた!なんでもできる人だったよ!」


嬉しそうに言う。ええ……。

呆れつつ、ふと社長の方を見てみると、


「相撲取り名鑑を探しても載ってないかもしれないね……」


苦笑いをしながらぼそりと呟いていた。たしかに相撲取りかどうかもうさん臭くなってきた。

まあ、戦力にはなりそうだから良いか……。




そんな事を考えながら、この先の事を考えた。




集落は復興した。

守りも固められている。

だが戦力は激減した。




竜人たちはすぐに体制を整えて兵を向けてくるだろう、ここで籠城し続けるわけにはいかない。



「(疲れているけど、竜人たちが動く前にこちらも次の行動を考えなくてはならない……でもまず何をするか)」



そんな事を考えていたら、






カラカラカラ






脳内に、飲み物が入っているグラスの中の氷がぶつかるような音が響く。この音は!



「イチさん!ライミです!あまり長く通信できないので手短に伝えます!」



ライミさんから通信がきた!











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