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58-土人形

スウウウウウ……。



息を吸う。

呼吸を整える。

空気は液体だと思う。



そのまま眼球の奥に力を入れて盛り土を見る。空気に揺らぎが見え始める。

周囲に湧き水のような小さな流れが見え始めた。


「(ここまではほとんど一緒だ……。ん?)」


気付いた。


迎え石の周りの土がやんわり光っていて、そこからエネルギーが盛り土全体に木の根の様ににょきにょきと伸びている事に。そしてその木の根は、湧き水の様な流れから何かを吸収している。


「(なんだこれ)」


驚きながら見ていたら、


「(今だ!魔力で土を固めてくれ!)」


イチの脳内に誰かの声が響いた。


「(えっ⁈)」


気が付いたらその声に動かされるように、無意識に湧き水の支流に指を入れていた。

その瞬間『重力制御』が発動する。水の流れが変わり、迎え石を囲むように土が集まりだす。

すると、迎え石から出てたエネルギーの根が、集まり出した土の隅々にまで伸び、まるで土が流されないようにするために斜面に植えられた木のように土を掴み始めた。

そしてそのままどんどん土が固まってくる。


「(……どんどん土人形の形になって来ている!しかも、明らかに強度が増してきている……ん……?)」



ぎゅおおおおおおおおお



水が排水溝に吸われる時の様な凄い音がし始めた。


「(なんだこれ?うわ⁈吸われる⁈)」


固まった土に空気中の水分や自然魔力がどんどん蓄えられ、さらさらの土に粘っこさが出てきた。そして迎え石からのエネルギーの根が血管となって、土人形全体に活力を加え始めた!


「(生命の様な波動を感じるぞ!何かが生まれる!)」



バフッ!



土煙が上がった。

何かわからないけど手ごたえがあったぞ!

目を凝らす。土煙の向こうに丸っこいシルエットが見えた!

思わずガッツポーズをする。



「出来た!土人形の復活だ!」












泥団子に手足が生えた


30センチくらいの大きさの


ちょっとだけクオリティが上がった遮光式土偶に似た不格好な土人形が爆誕した!







「全然ダメやないかーい!」


思わずセルフツッコミするイチ。


「アッハッハッハ!」


ケタケタ笑うフォレスタ。


「きゃああああ!かわいいかわいい♡名前つけません⁈」


リコはウキウキで喜んでいる。いや、喜んでもらえるのは嬉しいけどこれは違うんよ。


「いや、こんなの作ってもなあ……戦力にはならないよ……。まあ名前くらいはつけても良いけどさ……」



困惑しながらぼやいた瞬間だった。



遮光式土偶に似た不格好な土人形が、足元にあった小石を拾い……近くにあった岩に向かって全力で投げた!



ビシッ



岩に小さな穴が開いた!まるで銃弾だ!

これなら竜人と戦えるかも!


「やった!復活だ!思ったモノとは違うけど、これはこれで!」


「へー!やるねえ、土人形クン!」


「イチ様凄いです!しかもかわいくて強そうです!」


リコとフォレスタも大喜びだ!


「良し良し、これならなんとか!元の相撲取りみたいな土人形の時のようなパワーは失われたけど戦力にはなりそうだぞ!」


そう喜んでいたら気付いた。

土人形が首を横に振っている事に。


「え?何⁈どうしたの⁈」


尋ねたが、土人形は言葉を喋れないから分からない。

だが何かを伝えようとしている、なんだろう?


「俺にはまだ出来る事がある。それをお見せしよう……と言ってるね」


フォレスタが通訳してくれた。


「え⁈フォレスタ⁈なんでわかるの⁈」


「いやー、なんとなく。ジェスチャーで。イチはわからないの⁈」


なんじゃそりゃ、と思ったら土人形が頷いてる。え?当たってるの⁈

そう思っていたらいきなり遮光式土偶みたいな土人形は脚を大きく上げて四股を……通り越してI字バランスを取って見せて来た。軸がぶれていない、なんという体幹。中々見れないぞ遮光式土偶のI字バランス。





いや、そうじゃなくて。





すると、今度は妙にセクシーな腰つきで尻を振り始めた。

そして今度は腰に手を当てて「ここを見ろ」と言ってる……気がする。


「俺のダンスとくびれを見てくれ、美しいだろ⁈と言ってるね」


「なんでわかるの」


「いや、なんとなく。ジェスチャーで」


「嘘つけ、この野郎」


フォレスタとそんな会話をする。呆れていたらその後もセクシーな遮光式土偶のダンスが続く。

どうしようこれ。


キラッ


遮光式土偶がキメポーズを取った。

セクシーな目線を投げかけられている気がするが気付かない振りをした。

フォレスタが空気を読まずに通訳する。


「俺はダンサーだ。これからはダンスでお前たちを応援する、戦いには期待するな……だそうだよ」


「いや!戦ってくれよ!」


思わずそうツッコむと、今度はブレイクダンスの様なものを踊り出した。遮光式土偶のブレイクダンス。

器用にクルクル回っているが鈍重な地球ゴマが回っているようにしか見えない。

なんか頭痛がして来た。


「きゃああああ!素敵!」


リコは大喜びだ。えええええ。


「イチ様!名前つけましょう!私、つけたい名前があるんです!」


リコがそう言った瞬間に、遮光式土偶の土人形が首を横に振る。


「名前はもうある。俺様の名前はモモチェキラ、よろしく頼むぜ兄弟⁈ってイチに言ってるよ。アハハ!イチ、仲間どころか兄弟認定されてるよ!良かったね!超好かれてるよ!」


フォレスタがケタケタ笑ってる。だからなんで言ってることが分かるんだよ!

と、言うか適当言ってないか⁈疑いのジト目で遮光式土偶のモモチェキラさんの方を見ると今度はリンボーダンスの様なものを踊り始めていた。心が虚無になる。


キラッ


そしてまたキメポーズを取る遮光式土偶のモモチェキラさん。

フォレスタが嬉しそうに通訳する。


「俺様に踊れないダンスは無い。応援なら任せろと言ってるよ♪」


「知らんがな」


おかしい、どうしてこうなった。それとも元々こっちが土人形の本性だったんだろうか。

キレキレのモモチェキラさんのダンスを見ながら、あの献身的で力持ちの相撲取りのような頼もしい土人形さんを返して下さい……と思わず心の中で呟いた。

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