57-迎え石3
「リコ!フォレスタ!もしかしたら土人形をなんとかできるかも!」
そう二人に言った後に先ほど作ったパンヒーロー土人形を完全に分解する。そして元の相撲取り土人形の残骸に混ぜ、出来る限り元の体積に近い盛り土を作った。出来る限り元の相撲取り土人形に近づけるために。
そして最後にその盛り土の中に『迎え石』を埋めてみる。
5分ほど放置してみた。
だが何も起こらない。
「あの……イチ様、どうされたのですか⁈」
リコが不思議そうな顔で尋ねてきた。あ、そうか説明しなきゃな。
イチは頭を搔きながら答える。
「いや、俺の元いた世界の娯楽本のファンタジー物語にはゴーレムっていう、自動で動いて戦ったり宝物を守ってくれたりする土人形みたいなものがあるんだ。そのゴーレムっていうものはたしか……呪文を唱えて、何だったか文字を書いた羊皮紙を人形の額に貼り付けることで完成するって聞いた事がある。ちなみにゴーレムを壊す時には、その文字の一部を消すらしいんだけど」
「羊皮紙とは……特別な紙でしょうか⁈そんなものはこの土人形さんの中にはありませんでしたけど」
リコが疑問をぶつけてくる。
イチは少し考え込み少しバツが悪そうな顔をしながら続ける。
「いや、すまない。俺も昔バイト先の詳しい人が言っていた話を又聞きしただけであまり詳しくないんだ。あくまで架空のお話だし。でもお手軽なファンタジー系の物語とかに出てくるゴーレムは、ルールがもっと緩くて、主人に従順で強いんだけど、その『核』みたいなものを壊されるとあっさり崩壊するみたいなのもあるんだ。俺は今回、土人形が壊れたのは、そのタイプのゴーレムと同じ理屈で、この『核』が壊されたからじゃないかと思ったんだよ」
そして続ける。
「でも逆に言えば『核』さえ復活したらゴーレムは自動で復活するんだ。自分はこの石がその『核』じゃないかと思っていてね。しかもなんとなくだけど……この石、なんかまだ生きてる感じがするんだよね。だから材料さえ揃えば土人形はまた復活するんじゃないかと期待したんだけど……そう簡単にはいかないみたいだ。まだ何か足りないのかなあ」
まだ他に材料が足りないとか、特別な儀式とか必要な可能性もある。だとしたらアウトだよなあ。
それ以外にも何か他に条件があるのかも知れないし。
色々昨日の土人形の活躍を思い出してみる。
そして気付いた。
「(……そもそもこの土人形ってたしか、いきなり動いて現れたよな⁈土人形を連れて来たのはたしか……)」
イチはリコの方を見ながら尋ねる。
「土人形は……そもそもリコが連れて来たんだよね⁈リコ自身が土人形を動かすための何かをした可能性はない⁈」
リコは少し考え込むと
「いえ……危ない所を助けて貰っただけです。私は何もしていないです」
そう言って首を振った。
うーん、リコの線も違ったか―。もう少し考えてみよう。
土人形がシリウスさんによって生み出された瞬間を思い返す。見事な重力制御であっという間に作ってみせてくれたっけ。
「(そもそもこの土人形、シリウスさんが修行の相手に作った的代わり生み出されたものだったし……シリウスさんがその時に何かしてくれていたのかな⁈)」
シリウスさんとの『重力制御』の特訓を思い出してみる……が、あの時はヘトヘトだったし、さすがに詳細は覚えていない。
「(……でも、何か仕掛けているようには見えなかったけどなあ)」
あの時、『重力制御』を教えてくれたのは何故だったんだろう。自分にはシリウスさんみたいな才能はなくて、子供だましレベルの重力制御しか使えないと分かっていたのに。
「(自分には向いていない!と言っても『必ず役に立つ。力の使い方だけは身につけてくれ』と言って特訓を止めてはくれなかったっけ、キツイ特訓だったなあ)」
結局、特訓しても付け焼き刃の『重力制御』では20センチくらいの泥団子に手足が生えたような不格好なものを作るのがやっとだったし、そんな自分の無力さにゲンナリした。でも、シリウスさんはそれを見て『期待以上だ!』と褒めてくれた。
「(何が期待以上だったんだろう?)」
いや、『重力制御』は目つぶしとかには使えていて、俺にとっても役には立たない能力ではではなかったけど所詮は小技、そんなにシリウスさんが喜ぶような戦果をあげられるとはとても思えない。
もう一度あの時のシリウスさんとのやりとりを思い出してみる。
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「え⁈良いのですか⁈って言うかなんの特訓だったんです⁈これ⁈」
「いずれわかる」
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ただ一言、そう言っていただけだ。他には何も……。
いや、待て。
何でシリウスさんはわざわざ土人形なんて手間のかかるもの作ったんだ⁈切り払いの練習用の的にするならどんな形でも良いじゃないか。
もしかして
「(教えたかったのは『重力制御』だけじゃなくて、本命は土人形の作り方⁈)」
思わず脳内でそう呟く。
そして迎え石の入った盛り土をジッと見つめる。
「試してみるか」
精神を集中して『重力制御』を発動させるための呼吸を整え始めた。