55-迎え石
「あ!もしかして!」
そう言いながらリコが突然走り出した。まるでおやつを見つけた子ウサギのような猛ダッシュで。慌てて追いかけながら声をかけるイチ。
「ど……どうしたのさ、リコ⁈」
「もしかしたら土人形さんも直ってないかと思って!建物とか色々な物が直ったのなら、土人形さんもきっと!」
振り返りながら嬉しそうに喋るリコ。え⁈その可能性もあるの⁈直るのは建物だけじゃないの⁈
いや、でも建物だけ直るとは限らないか。小雪なら何とかしてくれるかもしれない。
「わ……わかった!」
勝手な期待をしながら慌ててリコについて行く。フォレスタもビックリしながらついてきた。
そして先ほど土人形が崩れたと思われる場所に着く。
「たしか土人形は最期にエリトの右手を持ってきてくれたっけ。たしかこの辺りに……あ……」
そこには土人形の残骸があった。残念ながら土人形の復活までは小雪は手掛けてくれなかったみたいだ。触るとさらさらと崩れる。そして残骸の中に大理石の様な小さな石が一個ある事に気付いた。
「ダメでしたか……」
「もしかしたらワンチャンあるかも?と思ったんだけどね」
しょんぼりしたリコを慰めながら大理石の様な小さな石を拾う。白くてきれいな石だ。特別な何かは感じないけど何か気になる。
「この石なんだろう⁈なんでこんな石がこれみよがしに入っているんだろう。これって……」
そう言いかけた時に、ふと頭に映像が浮かんだ。昨夜の戦いでアンと言う竜人が土人形と戦いながら叫んでいた映像だ。
「ぐぐぐ!お前も動けるデブかよ!くそ!チョビ!隠れてないで手伝え!この土人形の核を壊すんだ!」
『核』たしかにアンの野郎はそう言ってた。記憶を反芻しながら手元の大理石の様な小さな石を眺める。
もしかしてこの石がその『核』なんだろうか?これが壊されたから土人形は崩れてしまったのだろうか。
もう一度、今度は上下左右あらゆる角度から念入りに大理石のような小さな石を見て触って、匂いも嗅いでみた。土臭い。いや土の中にあったから当たり前か。表面はつるつるしている。ホテルの床みたいに、ピカピカに磨かれた石でとても綺麗だ。けれどやはり特別な何かは感じない。
「ただの石だよなあ」
思わずそう呟いた。しかしフォレスタが何かに気付いたらしく目を見開いた。
「あれ⁈その石、どこかで見た事あるかもしれない⁈ねえイチ、ちょっとその石貸して!」
フォレスタがそう言いながら石を持って行った。
そして指の腹で石を撫でた後にマジマジと見つめて、声を上げた。
「やっぱり!迎え石だ!久しぶりに見た!珍しいなあ」
「迎え石⁈」
思わずそう返すイチ、するとフォレスタが解説してくれた。
「迎え石ってのはね、この集落で昔使われていた、ご先祖様をお迎えする時にお供えする石なんだ。亡くなった人の魂は大地を離れ天に還るって言い伝えがあるんだけど、本当はご先祖様はいつもボクたちを見守ってくれていると信じられているんだ。この集落にはそんなご先祖様を年に一度、『いつも見守っていてくれてありがとうございます』と言う感謝を込めて、その魂を歓待する行事があるんだけど……」
フォレスタが続ける。
「死者の魂って身体を失っているから基本地上には居られないんだよね。でも!お迎え石を供えておけば魂はそれに入って、地上にお泊りする事が出来るって言われているんだ。迎え石はご先祖様の止まり木みたいなものなんだよ!」
フォレスタが嬉しそうに語ってくれた。
フォレスタは仲間想いだけど、家族やお年寄りとかも物凄く大事にしている一面も伺える。良い子だなと思った。
それにしても……
「俺達の世界のお盆みたいなものがこの世界にもあるんだね。いや、世界が違っても、こういう想いとか行事の考え方は大差ないのかもしれないか」
フォレスタにそう返事しながら迎え石を返してもらう。そして迎え石を顔の近くに持ってきてじっくりと見ながら考えにふけった。
「(迎え石は魂の止まり木……か)」
実は土人形はお助けロボみたいな存在かと思っていて、アンの言っていた『核』はAIか、土人形を動かす電池みたいなものだと思っていたけど、もしかしたらこの迎え石には誰かの魂が入っていて、それが動力となって土人形を動かしていたって事もあったりするんだろうか?
「(なんかあの土人形は妙に人間臭い感じを受けたんだよな)」
『核』かもしれない迎え石を触ってみる。外見上傷はない。
「なんとなく壊されていない気はする……試してみるか」
そう言いながら迎え石をそっと地面に置いてみた。