4-ドラフト上位様登場
「やっぱりイチじゃないか、お前も死んでたんだな!ざまあ!」
「エ…エリト?お前もこの世界に来てたのか!」
「あれ?知り合いでゲスか?」
「あー…知り合いだよ…二度と会いたくない奴だけど」
常似 襟人 通称エリト。
俺と同じ学校にいた、頭脳明晰、スポーツ万能、顔も良くて女にモテる学校カーストの上位存在みたいな奴だった。
ただ…名は体を表すと言うか、エリート意識が強い奴で、エリトは能力は高いが性格は悪く、イジメが大好きと言う難儀な奴だった。新しいクラスになると標的を見つけて、イジメ抜く…それも自分の手を汚さずに、周りの人間を上手く誘導して相手を追い込むのが大好きなのだ。しかも成績も良いから教師のウケも良く、女子人気も高いと言う典型的な「カースト上位の嫌な奴」だったのだ。
関わらないようにしていたが、友人が標的になったのを見て、思わず助けに入ったら、自分が標的になってしまった。
それからはもう大変だった。
…が、俺は勝った。
こう言う事があって困ってるとバイト先の人達に愚痴ったら、皆が親身になってくれて、その人達の協力を得て、地道にエリトの悪行の証拠を揃えて、ついには謝罪させ、イジメをやめさせる事に成功した。
その時の事はよく覚えている。
「すみませんでした!自分が未熟でした!本当にごめんなさい!」
エリトは必死で、口では周りに全力謝罪していた。
…が、自分と目が合った瞬間は、キッと睨みつけながら
「(よくもお前ごときが俺の栄光の経歴に傷をつけたな…!絶対にこの恨み忘れないぞ)」
そう目で語っていた。
完全に反省ゼロだわ…と呆れたのを覚えている。
その後、留学すると言って転校していった所までは知っているのだが…。
「お前も死んでいた…って言ってたな?エリト、お前、死んだのか?」
「は?死んだからここにいるんだろお前も?…まさか違うのか?」
「イチ様は私が指名して召喚しました!元の世界では生きています!」
「はあああああああああああ⁈ふざけんな!」
リコの説明に対してキレながら威圧するエリト、ビクッと怯えるリコ。
「なんで俺みたいな出来る奴がトラックにはねられて死んで、俺の経歴に傷をつけたカースト下位のお前が能天気に生きてるんだ!世の中間違ってるだろ!」
滅茶苦茶な理屈をこねるエリト。思わず反論する。
「出来る奴だろうが関係ない、お前は悪い事をした!言っちゃ悪いが、因果応報を受けたんじゃないのか⁈」
「屁理屈言うんじゃねえ!出来る奴は高度な仕事をするから、出来ない奴を自由にできる権利くらい無いと世の中不公平だろうが!クソが!」
ダメだコイツ、全然変わってねえ。
「嫌な…奴でゲスねえ…」
「二度と会いたくない奴と言った訳が分かったろ?」
そうヒソヒソ話する自分とゲス郎。
そんな我々を睨みつけていたエリトだったが、ふと何かを思い出したらしく、急にニヤリと笑う。
「そう言えばイチ、てめえもドラフトで来たんだよな!それも最下位の47位で!貧乏なワーミ領からの指名で!」
カンに触る言い方をしてきたな…?
ん⁈って事は、こいつ、まさか!
「俺様はドラフト4位だ!それも金持ちのカーフ領からな!能力の高さがドラフト順位の高さだ!既にお前と俺との間には大きな格差がある!今度は…やられねえ!この世界を救って俺様が上に立つからな!」
「ドラフト4位⁈カーフ領⁈これは手強いでゲスよ!イチ様!逃げるでゲス!」
「な!なんでだよ!こんな奴に言われっ放しで引けるか!…グアッ⁈」
突然脇腹を殴られて吹っ飛ばされた!回転しながら受け身を取る!
「エリト!てめえ!なにしやがる!」
「世界を救う勇者様はな…イケメンで強くてなんでも出来てスター性があるような奴じゃないと、みんなガッカリすると思うんだよな…?」
エリトはニヤリと笑いながらこう呟く。
そして、こう続けた。
「世界を救う勇者が47人はあまりに多すぎるよな⁈使えない奴は…間引きするべきだと思うんだが…どうだ?」
こいつ…!
「さっき俺が言った事は覚えているよな⁈出来る奴は高度な仕事をするから、出来ない奴を自由にできる権利くらい無いと世の中不公平だって!だからよ…」
そう言った直後にエリトの手元周りの空気が放電し始めた!
まずい!何かしてくる気だ!
「今ここでお前は間引いてやるよ!俺の手で!良かったな!」
エリトの手から轟音と共に紫色の電気の束の様なものが飛んでくる!
避けられない!
まずい!死んだ!
…と思ったら、電気の束は当たる寸前で消滅した。
ふと見ると、びしょ濡れになったエリトと、水魔法の様なものを飛ばしたリコが睨み合ってる。
「イチ様は…私達ワーミ領の勇者様です!勇者様同士での戦いはお控えください!敵は竜人達です!」
涙目になりながら、リコが叫ぶ。
エリトはしばらくリコを睨んでいたが、何かに気付いて、急に笑顔になった。
そして慇懃無礼な口調でこう言った。
「なるほどなるほど!よく見たら、ワーミ領のお姫様でしたか!これはこれは失礼しました!」
露骨に態度を変えるエリトに警戒しながらも、リコは震える声で宣言する。
「もう…こんな真似はしないと約束してくれれば…無礼は許します!」
「いやいや!たいした勇気ですねえ!さすがお姫様だ!わかりました!」
どうやらエリトは引いてくれるようだ。
そう思いホッとした直後…
「きゃあああああああああああああああああ!」
バチーンと言う大きな音がして吹っ飛ぶリコ。
エリトが平手打ちしたのだ。
「小さなワーミ領の方が、大国のカーフ領の人間に水をひっかけるのも相当無礼だと思いません⁈」
「エリト!てめえ!」
怒りに燃える俺を見て上機嫌になるエリト。
そして嘲笑するような目でこう語った。
「お前、やっぱりバカなんだな。ドラフト47位の能力の奴が、ドラフト4位の人間に勝てるわけ無いだろ⁈お前が俺にさっき大人しく殺されてれば、このお姫様はケガしなくて済んだんだぜ⁈ちょっと考えれば分かる事じゃないか、バーカ」
通りの端まで張り飛ばされたリコを見て…怒りに…!
震えなかった。
ただエリトの方を静かに見ながら、こう考えていた。
「(あ、ダメだコイツ、俺の理解の外の人間だわ)」
スッと頭が冷えて、手足に血が集まっていく。
先ほど殴られた痛みが消えてゆく。
そして…
カチッ
自分の脊髄に新しい回路が生まれたような音がした気がした。