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49-毒使い

小指にはめた紫色の宝石のついた指輪が淡く輝き出す。

同時に情報が雪崩のように脳内に流れてくる。

毒の作り方……毒から薬を作る方法……その逆の薬から毒を作る方法……様々だ。

普段なら目をキラキラさせて喜んで読みこみそうな知識だ……が


「(今欲しいのはこの体内の毒を解毒する方法なんだ!情報が多すぎる、どこだよ!)」


どんどんどんどんどん。


心臓が爆発しそうになっている。『アクセル255』『アクセル128』の連続使用の影響か、激痛も走る。

なのに呼吸は上手くいかない。酸素が足りない。手足からはゆっくりと力が抜けてゆく。

体温がどんどん下がっていくのがわかる。


「(まずい!時間がない!)」


脳内に流れてくる情報が毒の知識なのか走馬灯なのかわからなくなってきた。

頭の中が、処理しなきゃいけない物事だらけで段々混乱してくる。それでも脳内に流れて来る膨大な情報から体内の毒の治療についてのヒントを探さないといけない。


「(検索エンジンみたいなものがあればいいのに!体内の毒について何か情報はないか⁈たしかエリトはさっきの会話で……)」


-------------------------------------------------------------------


「安心しろ、シリウスたちとは違う毒だ、ただ筋肉を弛緩させるだけの毒を鉄豆に付与しただけさ!普通の毒でも良かったんだが…お前にチョロチョロ走り回られると厄介だからな!祝福封じさ!少しずつ力が抜けていくだろう⁈俺様は、このままお前の心臓が止まるのを眺めさせてもらうよ!」


-------------------------------------------------------------------


「(たしかにそう言ってた!筋肉を弛緩させる毒でそこそこ早く効き始めて、でも効能はじわじわと心臓を止めるような……陰険なやつだ!)」


脳内の毒の情報の中から、筋肉を弛緩させる毒を探す。

見つけた!って!うわあああああああああああ!10個くらいある!


「(相手を一瞬で痺れさせる毒『デルガ』、違うな……。相手をリラックスさせて眠らせてしまう毒『リムール』、近い気がするけどなんか違う……っというか不眠症の人には薬にもなるなこれ。そして手術にも使える『イズ』……あ、そうか、麻酔も筋弛緩だ、使い道は多そうだな)」


とん……とん……とん……。


鼓動が弱くなって来た。やばい。

脳内の処理速度も落ちてきた。


「(だめだ、見つからない!こんなのいちいち試してられないよ!……身体が……もう限界……)」


そのまま意識を失いそうになる。


が、唐突に脳内に明るい声が響き、意識が戻った。


「(これっスよ。『クラーク』)」


え⁈と思った瞬間、脳内に可愛らしい茶髪の女性が現れた。純朴そうで、子リスのように目がくりくりしていて優しそうな女性だ。


「(えっと……貴女は⁈)」


思わず問いかける。すると……


「(どもー!あたしはシャーリーっス。毒使いのドラフト36位の勇者っスよ、もう死んじゃったっスけどね。どうかよろしくっス、うひひひひひ。あ~、こりゃ『クラーク』はもう全身に回ってるっスね。じゃあ毒を反転させましょうか。心臓の位置に手を当てて『ケアナーパ』と唱えて下さいっス)」


めちゃくちゃ軽快な感じでまくし立てて来た⁈


こ……この人がジルコンさんの言っていた『毒使い』なんだよな⁈なんか見た目よりくだけた感じの女の人だな⁈ま……まあとりあえず……


言われた事を実行しようとしてみる……が心身の疲弊が凄くて指一本動かせない。


「(だめだ、動けない。なんとかする方法はない⁈)」


「(この状況じゃ他に方法は無いっスね。大丈夫っス!最後は根性っスよ!兄さんはやればできる子っス!大きく息を吸って!吐いて!吸って!吐いて!ファイト!ファイト!)」


医療系かと思いきや、まさかの根性論者。いや、ガチの医療従事者ってこんな感じか⁈とりあえず励ましてくれてるようだが、疲弊が限界の時なのでこのテンションはなんかキツイ。

疲れて逆に意識が遠ざかってきた。ダメだこりゃ。


「(ごめん、みんな……色々な意味でもう動けない……)」


力が抜けてゆく。ここまでか。


そう思っていたら……お腹の辺りがゆっくり温かくなってきた。


「イチ様!諦めないでください!」


消えかけてた意識が戻る。見ると、リコがイチのお腹に手を当てて回復魔法をかけてくれている!

呼吸ができる!

身体の中心から腕や指先にゆっくりと血が流れてくる感じがする。

腕がピクリと動いた。


「(腕が……動く!ありがとう、リコ!)」


そう言いながらリコの顔を見てギョッとする。

呪いの瘴気の影響でリコの肌が少しずつ紫色になっていた。

どんどんやつれていくリコ。


「もういい……リコ……逃げろ……」


消え入りそうな声でリコに言う。でもリコは逃げない。

分かってる、リコは気弱でこんなに折れそうなくらいか細いのに、芯も情も強くて、こうと決めたら絶対に引かない。だからみんなリコの事は敬愛してるし自分も彼女の勇者になろうと決めたんだ。


「(リコを逃がすには……俺が回復するしかない!)」


眼に力が戻る。気絶しそうになりながら、震える腕を動かす。

その動きは今にも壊れそうなUFOキャッチャーで操作される弱弱のアームの様な不安定さだ。


「(自分の身体なのに、まるで自分と言うロボットを操縦室から命令を出してやっと動かせているような気持ちだ!動け!動けよ!頼むから!)」


あと少し……あと少しで胸に手が届く……。




心臓の位置に手が届いた!




リコの方を見る。リコの顔色は真っ青だ。急がねば。


「『ケアナーパ』!」


震える声で唱えた瞬間に、体内に気持ちの良い風が吹いた気がした。

体内の悪いものが抜けて浄化されたようだ。

うっすら体温が戻って来た気がする!よし!リコを連れてすぐにここから逃げるぞ!




だが起き上がれなかった。




「(どうしてだ⁈体が動かない⁈解毒したのに⁈)」


脳内で叫ぶと、返事が来た。


「(あ~……筋弛緩の回復には時間はかかるっスよ。手術のあとの麻酔だってすぐには抜けないじゃないっスか。人間の身体はそう簡単にはできてないっス)」


ちょっと待てー!いや!それは道理だけど!


「(そんな場合じゃないんだ!すぐに身体が目を覚ますような…すごい強壮剤みたいなのはないの⁈)」


「(似たようなのはあるっスけどねえ……あなたの身体ボロボロっスよ⁈なんか無茶な祝福の使い方したんじゃないっスか⁈その状態で強壮剤使うと命の保証がないのでダメダメっス~)」


脳内にシャーリーさんの、医療従事者っぽいドライな顔が浮かぶ。あ、これ知ってる。ワガママな患者の訴えを「あ~よくある症状ですね」と軽くいなすナースの顔だ。

いや、実際そうだろうけど!言い方アアアアアアアア!


「(うわあああああああああああ⁈使えねえ!このままじゃ全滅だ!)」


思わずそう叫ぶ。だが同時に気付いた。心臓の鼓動と呼吸がいつの間にか緩やかに回復してきている⁈


「身体が……動く⁈」


ハッとなりリコを見る。

リコはもう全身がくすんだ紫色になりつつあり、今にも死にそうな顔をしていた。にもかかわらずこの呪いの瘴気の中、まだ回復魔法を注入してくれている!


「イチ……様……生きて……くだ……さい」


そう言うと同時にリコは意識を失い、イチの身体に倒れこむ。


指が動く。


起き上がれる。


頭がクリアになる!


「リコ!死ぬな!」


跳ね起きながらそう叫び、リコを抱きかかえその場を離れる!

周りを見る。森の方は瘴気が回っていない。あちらへ逃げるぞ!


走って森の入り口に向かう。すると、フォレスタや森の民たちがもう避難していた。


ヘトヘトになって座りこみ、リコを寝かしつける。リコは顔色は悪いが呼吸はしている。早く医者に診せなくては。

そして今度は、集落の方を眺める。




森の民の集落は完全に瘴気に包まれてしまっていた。

幸い、皆脱出できたみたいだけど、この集落はもうおしまいだろう。

フォレスタが呆然としながら一言漏らした。


「ボクの……集落が……」


かける言葉が見つからない。

そう思っていたら森の民の長がそんなフォレスタに声をかける。


「生きてさえいれば……やり直せる。とりあえずいくつかある隠れ里へ向かおう。この人数を入れるのは正直厳しいがなんとかなるだろう」


隠れ里⁈そんなものがあるの⁈

そんなことを考えていたら、優しい声がかかった。


「その必要はないですよ。こちらには切り札がありますからね」


振り返る。そこには見慣れた面々が手を振っていた。


「社長!どぶろくさんも!」


「イチくん。よく頑張ってくれた。かなりの痛手を受けたが我々はまだ負けてない」


社長はそう言った。負けていない⁈何を言ってるんだ⁈


「負けてないって……シリウスさん達が殺されて魔道具にされて……そのまま連れて行かれた上に、ギラードは取り逃がして、集落が壊滅したのに⁈」


語気強めに言ってしまった。だが社長は驚くほど落ち着いていて、こう返してきた。


「イチくん、よく思い出してごらん。ギラードの最後の言葉を覚えているかい⁈」


さっき集落に響いた、ギラードの声を思い出してみる、そう言えば……。



-------------------------------------------------------------------


「エリト、お前が指揮を執って生き残りの兵を連れて撤退しろ、だが、あの女だけは逃がすな」


-------------------------------------------------------------------


たしかにそう言ってた。「あの女だけは逃がすな」だって⁈

ギラードはもしかして目的を完全には達成していない⁈


その瞬間、ライミさんの通信や、映像まで脳内に送るスマホみたいな能力を思い出す。

そうだ!この世界でライミさんの規格外の能力があれば、この世界の反竜人勢力と連携すればあるいは⁈


「そうでした!あの通信能力があればまだ希望はあります!ライミさんが竜人たちに捕まる前に早く合流して……」


思わずそう叫ぶと、社長は優しく笑いながら首を横に振った。


「違うよ⁈イチくん。竜人たちが欲しがってるのは……」



「ホイヤー!セイヤー!アタタタタ!ホイヤー!セイヤー!アタタタタ!ホイヤー!セイヤー!アタタタタ!ラブリー!」



寄声が聞こえる。良く知ってるフレーズだ。奇声の聞こえた方向を見ると……オタ芸と盆踊りをミックスさせたような意味不明なダンスが見えた。エルマさんだ!しかも相変わらず運動不足らしく、全身の関節がポキポキ鳴っている。ストレッチくらいした方が良いですよエルマさん。


「ラブリー!ラブリー!ラブリー!」


そして相変わらずのM字開脚でキメていた。今回は気合が入っているのか追加で3連発である。

うーん、相変わらずのカルトの奇祭の様な電波ダンス。


そんな事を考えた瞬間にブワッとエルマさんから光が溢れ、球状に広がったかと思うと集落を包んだ。

強力な空気清浄機が入ったみたいに空気が綺麗になってゆく。いや、確実に空気の味が変わった!自然豊かな高原の様な清々しさだ。見ると集落のあちこちに真珠のような水滴が落ちている。


そして気付いた。少しずつ空が明るくなってきている。見ると朝日が昇り始めていて、真珠の様な水滴が朝露のように輝き始めた。


呪いの瘴気は完全に浄化された!スゲエ!

一連の流れを見て感動していたら……


「呪いのことならアタシにお任せ!浄化したわよ!もう大丈夫よ!アタシって凄くない⁈イエ―!」


ギャルのようにダブルピースをキメながら笑うエルマさん。

こんなひどい状況なのに、それを見て思わず笑ってしまう。

心の力が戻ってきた気がする。


そんな自分を見ながら社長が続ける。


「竜人達は当然ライミさんも欲しがっているだろうけどね、あいつらが本当に欲しがっているのはエルマさんだよ。だからまだ我々は負けていない」


社長がにっこり微笑みながら言った。

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