表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/68

45-魔道具

ズドオオオオオオン……


遠くで爆発音が聞こえた。

そしてほぼ同時に、空中に浮かんでいた隕石が消滅した。


「よし!仕留めた!」


思わず声が出る。

シリウスさんが命を懸けて放った一撃、これで倒せなければウソだ。

……いや……倒せなかったら終わりだ。

頼む、仕留めていてくれ。


そう祈っていたが、氷のように冷たくて聞きたくもない声が辺りに響いた。


「……やって……くれた……な」


ギラードの声だ……無事だったのか……!


心の底からの絶望感がこみあげてくる。

その時、脳内に、煙が晴れてきた様子の爆心地が映った。


シリウスさんの攻撃で祠や石碑は吹っ飛び、周辺はめちゃくちゃになっていた。

その爆心地から少し離れた場所に、吹き飛ばされたのか、膝をついて肩で息をしている竜人が見える。


「(ギラードだ!今の攻撃を凌ぐなんて!)」


血の気が引いた。今の攻撃で倒せないなら、もう打つ手はない!


「(いや……そうでもないか?)」


……よく見るとダメージはかなり受けた様に見える。

ギラードは全身血塗れで右腕に至っては千切れている、息も絶え絶えで今にも倒れそうだ。

あと一撃与える事ができれば!


すると辺りにギラードの声が響いた。


「なんとか直撃は避けられたが……とても戦えそうもない……忌々しいが……引くことにする」


ギラードは本当に死にそうな声をしている。

そしてそのまま続けた。


「……大した男だ勇者シリウス、忌々しいがお前の名前は忘れない。だがもう勇者側にはまともな戦力は無いはずだ…後日また軍を送る…この戦、我々の勝ちだ」


そう言いながら、足を引きずりつつ去ろうとするギラードが脳内に映る。

逃げられてしまう!あと一息で倒せるのに!

慌ててライミさんに脳内通話で話しかける。


「(ここで逃がしたら、終わりだ!……ライミさん!ギラードをこのまま追跡する方法はありますか⁈)」


「(え……それは……はっ!)」





その時に気づいた。





逃げようとしているギラードが集落の方ではなく、我々の見ている脳内カメラに向かって……ハッキリと目線をくれている!



数秒後、辺りにギラードの声が響く。



「エリト、お前が指揮を執って生き残りの兵を連れて撤退しろ、だが、あの女だけは逃がすな」


そう言いながらギラードは夜の闇に消えて行った。


「ちくしょう!あと一息だったのに!」


逃がしてしまった。

膝から力が抜ける。地面に倒れながら泣く。

もうギラードは隙を見せないだろう。千載一遇の好機を逃したのだ。


その直後だった。


脳内に映っていた映像が激しく乱れて、ライミさんから切羽詰まった感じの声の通信が来る。


「(すみません!暫く連絡できなくなります!あとで詳細は伝えます!)」


「(え!ちょっと待って!)」


まだ聞きたい事が!そう伝えようとしたが、ライミさんとの脳内通信は完全に切れてしまった。

そして……あとには、瘴気を撒き散らす呪いの小刀を握りしめたシリウスさんと

ボロボロになった仲間たちだけが残された。

呪いの小刀の撒き散らす瘴気はどんどん大きくなり、ガスのように周りに広がり始める。


リコがハッとなって自分に声をかけてくる。


「イチ様!今度はあの小刀の瘴気で集落に被害がでてしまいます!」


そうだ、泣いてる暇はない!とりあえず皆を避難させて……と思ったが、先ほど喰らった毒が回ってきてどんどん力が抜けてきた。


「(まずいぞ……このままでは……)」


そんな事を考えていたらシリウスさんの声がした。


「イチくん……そこにいるなら聞いてくれ……」


見るとシリウスさんは誰もいない明後日の方に向かって弱弱しく話している。

ああ……これはもう……。

少し離れて、瘴気に気をつけながらシリウスさんの正面に座る。


「もう何も見えないし聞こえない。おそらく私はここで死ぬだろう…だから君に伝えておきたい事がある」


瘴気がますますシリウスさんを包んでゆく。

大柄なシリウスさんの身体が少しずつ小さくなっていく錯覚が見える。

呪いの小刀に命が吸われているのかもしれない。


「シリウスさん……!」


聞こえていないのをわかりつつも、泣きそうになりながら必死に声をかける。

そしてシリウスさんは遺言を聞かせるかのようにゆっくりと喋り続ける。


「君には……『薙ぎ払い』と……『重力制御』を……教えた。だがあと一つ……教える事ができなかった技がある。……なぜ教えなかったかというと……時間が足りなかったのもあるが、私自身もちゃんとその技を使えなかったからだ……だが……型だけは知っている…それを君に……伝え……」


ふらり


シリウスさんの身体が傾く。


ばたり


何かを言いかけつつ、シリウスさんはゆっくりと倒れた。

そしてそのままシリウスさんの呼吸が小さくなっていく。


ええい!瘴気を気にしている場合じゃない!何かシリウスさんを助ける方法を考えなくては!

そう考えた直後だった。



ズドオオオオオオン!



雷の大砲の弾が飛んできて倒れていたシリウスさんを直撃した!

衝撃波で瘴気が撒き散らされ、勢いで自分も吹き飛ばされる!


「うわーーー!シリウスさーーーーーーーーーーーん!」


転がされ、泣きながら声を張り上げる。

見ると、シリウスさんは今の一撃で黒焦げになってしまっていた。


「撤退しろと言われても仕事はしないとな……呪いで死なれたら困るんだよ……勇者には、ちゃんと討ち取られてもらわないと」


そんな声が聞こえた。そして声の主であり、雷の大砲を撃った張本人がゆっくりと闇の中から現れる。

見なくても分かる、この雷の大砲を撃てるのは……


「エリト!てめえかああああ!」


思わずそう叫んでしまった。

そうですよ⁈それがなにか⁈と言わんばかりの表情のエリト。


血走った目で睨みつける。体内の血が沸騰しそうだ!

だがエリトは、そんな自分の怒りの視線を涼し気に受け流すと、嬉しそうに語り始める。


「そう睨むなよイチくん♪見てな、面白いものが見れるぜ⁈」


そう言いながら、シリウスさんの方を見ろと顎で促すエリト。

すると、消し炭になってしまったシリウスさんがゆっくりと発光し……晴れた日の水面のようにキラキラと輝きだした!


「これは⁈」


シリウスさんを包んだキラキラは少しずつ小さくなり……最後には紅、黄色、緑色の宝石が付いた三連の指輪になった。


「なっ⁈」


何が起きた⁈

思わず呆然としてしまう。すると、その自分の反応を見て満足したエリトが嬉しそうにその三連の指輪を拾った。


「これこれ!これが欲しかったのよ!」


そう言いながら左手の人差し指に指輪をはめるエリト。

それを見て、エリトの一連の行動を呆然と見ていたフォレスタが我に返り、エリトに向けて弓を引く。


「この外道!シリウスさんに何をするんだ!」


そう叫びながら矢を射かけるフォレスタ。

矢は真っ直ぐにエリトの脳天に飛んでゆく。この距離なら避けられない見事なヘッドショットだ。

しかし、エリトの脳天を狙った矢は空中でくるりと方向を変えて明後日の方に飛んで行ってしまった。


「え⁈」×2


フォレスタと自分の声が思わずハモる。

しかし、エリトは意に介さず、左手の三連の指輪を見つめながら呟いた。


「跳ね返してやったつもりなんだがな……さすがに、いきなりは使いこなせないか…まあこんなものだろ」


今のは……見間違えるはずもない!


「それ……シリウスさんの『重力制御』……何故お前が使える⁈」


思わずそう言ってしまう。

そんな自分に向かって意地悪そうな顔で『そろそろ答え合わせしてやるか』という顔をするエリト。


「さすがにお前の頭でもそろそろ気付いていたと思っていたのだがな……まあ、良いか、そろそろ教えてやるよ。実は勇者ドラフトで召喚された人間は他人に殺されると、その遺体は魔道具に変化する仕組みになってるんだ」


「なんだそれは⁈知らないぞ⁈……それに魔道具って⁈」


そう言った瞬間に、ジャーバルたちが使っていた、戦闘時に赤銅色に輝く恐ろしい力を秘めた魔法の武具を思い出した。まさか……あれって⁈


「心当たりがあるだろう⁈魔道具ってのは、勇者が持っていた祝福を誰もが使えるようにしてくれる魔法の道具のことだ!勇者ドラフトを竜人達が黙認しているのはこれが目的さ。勇者はある程度放置して、育ったところで狩るんだ。そうしたら、その勇者の使っていた祝福が使えるようになる便利な魔道具が回収できるってわけだからさ」


そう言うと、左手の人差し指の指輪を嬉しそうに触るエリト。


「今回の戦いは大漁だったな。ドラフト1~3位の超スキルの魔道具が手に入るのだからな!お前もこのまま魔道具にさせて貰うぜ。俺は使わないが、お前のカスみたいな能力の魔道具でも持ち帰れば俺様の得点になるからな!ゆっくり俺様の毒で死んでいきな!」


そう言いながら今度は右手を見せてくるエリト。その指一杯に指輪がはめてある。その中の一つ、小指の指輪を指さしながら言ってきた。紫色の宝石がついた指輪がハマっている。


「ちなみに小指のこの紫色の宝石のついた指輪が、お前の身体を蝕む毒を作った魔道具だ。そしてこれが……」


今度は薬指を見せてきた。そこには植物の蔓のような装飾が刻まれている銀色の指輪があった。エリトがその指輪に魔力を込めるような仕草をすると……指輪は淡く輝き、掌から大量の豆が出た。


「どんな豆でも出せる能力の魔道具!元の持ち主は……知ってるよな⁈」


忘れようはずもない、カセーツさんの祝福!


「……やりやがったな……やりやがったな!エリト!」


怒りすぎて頭から血が引いてゆく。

今すぐ斬り捨ててやりたいが、毒がどんどん回ってきて力が出ない。

そんな自分を見て心の底から嬉しそうな顔をするエリト。

そんな時にエリトの方に向かって呪いの小刀の瘴気が伸びて来た。


「おっと忘れていた。この物騒な小刀を放置しておくわけにはいかんな。壊しておくか」


エリトが地面に落ちていた黒虹彩の呪いの小刀に向かって雷の大砲を撃つべく手をかざした。

しかし、何かを思いついたらしく、魔力の放出をやめた。


「そういえば……色々調べたが、たしか100年前の最初の勇者が使っていたのが黒虹彩の剣だったよな⁈たしか黒虹彩剣オブアイリスだったか……もう失われてかなり経つのにいまだに竜人達のトラウマなんだよな……」


エリトは少し考え込み、そして……


「俺も竜人達にいつ使い捨てにされて魔道具にされるか分からないよな……武器がいる」


エリトはジッと黒虹彩の呪いの小刀を見つめている。


「100年前の勇者には使えたんだ、オレにだって使える可能性はあるよな。リスクを取って保険をかけてみるか」


そう言うと


エリトは落ちていた黒虹彩の呪いの小刀を拾い、その柄を思い切り握りしめた!


ブワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア


黒虹彩の呪いの小刀から瘴気が溢れ出す!

八岐大蛇のような半透明の黒い大蛇が現れ……エリトを飲み込んだ。


「グワアアアアアアアアアアアアア!」


エリトの悲鳴が響く。


バキバキバキバキバキ


半透明の黒い大蛇がエリトをグルグル巻きにして締め付ける。骨が砕けるような音がした。


「ぎゃああああああああああ!」


エリトの断末魔が響く。

その姿を呆れながら見る。


「(なんて馬鹿な真似を……シリウスさんにだって使いこなせなかった呪いの小刀だぞ⁈竜人兵たちを骨までバターみたいに溶かしたあんな呪物をどうにかできるわけないじゃないか!)」


あまりにも禍々しい光景に思わず目を逸らした。





いや……何か変だ。





黒虹彩の呪いの小刀から音がする


キーンキーンキーンキーンキーンキーン


金属と金属がぶつかるような音だ

前に健康診断で受けた聴力検査で聴いた音にテンポが少し似ている。

そしてその音が段々小さくなっていく。


そして、八岐大蛇のような半透明の黒い大蛇はゆっくりと

エリトの締め付けを解いて…消えた。




目を見張った。


そこには物凄い魔力を内に秘めたエリトが、邪悪な笑みを浮かべ悠然と立っていた。

そして両手で黒虹彩の呪いの小刀をオモチャのように弄びながら、嬉しそうに呟く。


「そうかそうか、俺を選んでくれたか、ありがとうな黒虹彩の小刀くん!折角だから名前を付けるか……花の名前なんて良いな。黒いから……『黒百合』なんてどうだ!黒虹彩剣『黒百合』うん!良い名前だ!」


そう言った後に、こちらを見て宣う。


「これで俺も正真正銘の勇者を名乗れるな!そう思わないか⁈イチくん!」


ウソだろ……最悪の展開だ……。

エリトが黒虹彩の呪いの小刀を使いこなしてしまった。


絶望と毒で力が抜けていく……。

そんな自分を哀れんだ目で見ながら笑うエリトの姿が目に焼きつく。

終わった……全てが終わってしまった……。



その瞬間。



カラカラカラ


脳内に、飲み物が入っているグラスの中の氷がぶつかるような音が響き、先ほど脳内に出来た受信回路に何かが送られて来た気がした。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ