41-不穏
「マムリ姐さん!」
そう言いながらマムリ姐さんに駆け寄ろうとする!
が、ふと我に返り、翠亀剣を動かし刀身を眺める!
エリトが姿を消しているかもしれない。
マムリ姐さんに駆け寄ろうとするリコを抑える。
エリトは…観測した範囲にはいないようだが…。
そうしていたら、マムリ姐さんがゆっくりと頭をこちらを向けた。
「生きているわよ…でもしてやられたわ…エリトの坊やに…」
弱弱しい声でマムリ姐さんが喋る。良かった、生きてる!
でもかなり容態は悪そうだ。
それにしても…
「マムリ姐さんが⁈エリトに負けるなんて⁈」
思わずそう叫ぶ。ドラフト2位のマムリ姐さんと4位のエリト。順位は大差ないが、マムリ姐さんの圧勝だと思っていた。そのくらい総合力では差がある。
…と、考えて、ハッと気づく。エリトが得意なのは雷の大砲。そしてマムリ姐さんの祝福は水属性。
「水と雷!しまった相性が悪かったのか…!」
思わずそう呻くと、マムリ姐さんは否定した。
「違うワ…戦いにくくはあるけど、純水とか…雷を通さない水もアタシは作れるワ…でもアイツ…」
そう言いながら右脚をさするマムリ姐さん。少し血が流れているようだが深手には見えない。
…いや⁈よく見ると小さな傷口が複数見える!これは…!
「(鉄豆の散弾!カセーツさんの能力の…!でもこれくらいの傷でマムリ姐さんがやられるなんて⁈)」
そう考えて改めて傷口を見てみると…傷口がゆっくり紫色になっていくのが見えた!
「…!毒です!」
リコが叫ぶ!
「なっ⁈解毒できないか⁈」
「私の知ってる毒じゃないです!でもとりあえず回復魔法をかけてみます!」
リコが回復魔法をかけようとマムリ姐さんに駆け寄る!
そうだ、このまま手をこまねいていられるか!
そう思ってマムリ姐さんに近づいた瞬間に、
「近づくんじゃないよ!」
マムリ姐さんが憤怒の表情で、俺の顔めがけて熱湯の鞭を飛ばしてきた!
うわあああああああああああ⁈
と思ったが…熱湯の鞭は俺の顔の横を通過して、後方の建物の屋根に命中して湯気を上げた!
「熱っつ!」
悲鳴が上がり、湯気の向こうに…動く影が見えた!
「屋根の上か!…エリト!てめえ!」
翠亀剣を構え湯気の向こうに見えた影に向かって『薙ぎ払い』を放つ!が…取り逃がした!
「チッ!クソが!」
エリトはそう叫んでまた消えた。足音が遠ざかっていく。逃げられた!
「逃がすかよ!」
そう言いながら追おうとして…脚を止めた。
いや、マムリ姐さんをこのままにしておくわけにはいかない。
それに社長たちの安否は⁈
ギラードは⁈シリウスさん達やフォレスタの援護は⁈
やる事が!やる事が多い!
そんな判断に迷っている自分を見て、マムリ姐さんが消え入りそうな声で言ってくれる。
「社長たちは大丈夫よ…!ちゃんと逃がしたワ…!…アタシの事は…気にせず…リコを連れてすぐにエリトを追って…!」
「気にするなって無理ですよ!それに…!エリトはどこへ向かったのか…」
そう言うと、マムリさんが空中を指さした。
見ると青い色のついた小さな水蒸気の塊がふわふわ浮いていて…さっき通った近道に点々と浮いている!
…シリウスさん達が戦っている方に向かったのか!
「さっき…浴びせた…熱湯の水蒸気よ…。数分は浮いてるワ…すぐに…追って…。今は…エリトが最優先…じゃないと…こちらが全滅するわ…」
消え入りそうな声でそう言いながら、マムリ姐さんは震える手で右脚を布でキツく縛って毒を食い止めようとしている!…が右脚はどんどん紫色に変わっていっている!
ダメだ放っておくことなんてできない!
「リコ!すまないがマムリ姐さんについていて!俺はエリトを追跡する!」
そう言うとマムリ姐さんが必死の表情で叫ぶ!
「絶対にお姫様を一人にしてはダメ!…早く!行きなさい!」
「でも…マムリ姐さんが!このままじゃ!」
そう反対しようとしたものの、マムリ姐さんの表情を見て思わず息を飲んでしまった。
「早く!行きなさい!…お願い!…みんなが…死んじゃう!」
あんなに気の強そうなマムリ姐さんが…震えながら、泣きそうな声で言う!
「ーーーーーーーーーーーーーーー!リコ!…エリトを追うぞ!」
「ーーーーーーーーーーー!はい!マムリさん!すぐに片付けて戻ります!どうかご無事で!」
涙をこらえてエリトを追う!
ダダダダダダダダダダダダ!
「(ちくしょう!なんでこんな事に!)」
心の中で泣きそうになりながら、ふわふわ浮いている小さな水蒸気の塊を追跡する。
そして、エリトを追った先で見たものは…
血塗れで戦うジルコンさんと
満身創痍のシリウスさん。
ボロボロになった相撲取りみたいな土人形と、その物陰に隠れて戦っているフォレスタ。
そしてそれらを包囲しているジャーバルたちと竜人兵たち。
そして…
「なんでもう追いついてるんだよ?と思ったら…さっきかけられた変な湯か…追跡に使える能力も持っていたとはな…くそ…マムリめ…死にぞこないが面倒かけやがって」
忌々し気にこちらを睨むエリトだった。