40-ギラードの脅威
「ギラードがいるの⁈どこ⁈」
フォレスタが青ざめながら周りを見回している。自分も目を凝らして見回したが…近くにはいないようだ。
でもわかる。
…口が渇く!皮膚がピリピリする!確実に脅威は感じる!
「(絶対にどこかにいる!)」
そしてこちらとは対照的に、強力な援軍の登場に竜人兵たちは沸き立つ!
…ワケではなかった。
見ると、竜人兵も緊張で青ざめている。
そして抑えた口調ながら…ギラードの冷たい声が辺りに響く。
「もう片付いていると信じていたのだがな⁈ジャーバル…なんだこの体たらくは…⁈」
「は…はい…も…申し訳ありません…でも…いや…いえ…」
汗だくになりながら唇を震わせ、言い訳をしようとするも…言葉が続けられないジャーバル。
向こうに援軍が来ているとは思えない光景だ。
竜人たちにとってギラードがどれだけ畏怖されているかわかる。
戦っている最中なのに、双方動かなくなった。
重い沈黙が10秒ほど訪れる。
しかし、沈黙を破ったのもギラードだった。
「…まあ良い、最低限は果たしたとみてやる」
そんなギラードの声が響いた直後
ドン!ドン!ドン!ドン!
…集落の外れから雷の大砲が空中に向けて4発打ち上げられた!
「(雷の大砲⁈エリトの野郎!あっちにいたのか⁈)」
心の中で毒づく!
そして、それを見たリコとゲス郎がハッと顔を見合わせて叫ぶ。
「あの辺りって…確か…」
「社長たちが避難してる辺りのはずでゲス!」
「なんだって⁈」
思わず声が出る!
…そしてその直後!
ビュオオオオオオ!
ドオオオオオオオオオン!
空から何かが飛んできて、社長たちが避難しているはずの辺りから少し離れた所に着弾!爆発した!
爆風と衝撃波がくる!
「きゃああああああああああああ!」
「リコ!あぶない!」
倒れそうになったリコをかばいながら支え、着弾した辺りを見る!すると…また火の手が上がっている!
この攻撃…まさか…。
「隕石か!」
シリウスさんが叫ぶ!そしてまた空を見ると…
2つ、3つ…次々と小さな隕石がこちらに向かって飛んでくる!
シリウスさんが両手を上げて叫んだ!
「『重力制御』!」
グイン!
ビュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
ドオン!ドオン!ドオオオン!
隕石の軌道が変わり…隕石たちは集落からかなり遠い地点に落下した!
するとギラードの感心した声が響く。
「…なるほど⁈さすがドラフト1位なだけある、やるな。悪くない」
くそ!余裕ぶりやがって!
心の中で忌々しく毒づき夜空を見上げると…
続けてまた3つ隕石が飛んでくるのが見えた!
それをまた『重力制御』で逸らすシリウスさん。
「なんとか防げるか!…だが…これではキリがない…!ギラードを叩くしかないが…一体どこにいるのか…」
シリウスさんが苦虫を嚙み潰すかのような顔で周りを見る。
ギラードはどこにもいない!
さっき響いた声は、スピーカーで広範囲に響かせたような感じで位置がつかめない!
焦っている自分にシリウスさんが叫ぶ!
「イチくん!たぶんギラードは少し離れた…どこかこの辺り一帯を見通せるところから攻撃してると思う!すまないがギラードを探してくれ!このままでは全滅だ!」
「…わかりました!フォレスタ!どこかにそんな場所はない⁈」
振り返ってフォレスタに問う!
「そんな場所この辺りに…いや、この辺りじゃないのかも、もしかしたら…⁈って!イチ!見て!」
そう言われてフォレスタの視線の先を見ると…
シリウスさんが隕石を防ぐのに専念したため、竜人兵たちが自由になってる事に気づく!
そして竜人兵の半数は踵を返して、さっき雷の大砲が上がった場所に向かって走り出していて、ジャーバルは赤銅色に輝く大槌を構え…動けないシリウスさんに襲い掛かかろうとしていた!
『重力制御』を解かずに後ろに飛びのくシリウスさん!
大槌が地面に炸裂して爆発が起きる!
ドオオオオオオオオオン!
土煙と石つぶてが飛び、視界が悪くなる!
ふらつきながらシリウスさんが叫ぶ!
「くっ!…マムリ!ジルコン!すまないが戦いは任せる!」
「分かってるワ!」
「任せろ!」
マムリさんが竜人兵を追いながら駆けていき、ジルコンさんはジャーバルに突撃する!
そして今まさに追撃の大槌を振り下ろそうとジャーバルがシリウスさんに迫る!
「ウオオオオオオオオ!」
ドガッ!ゴロゴロゴロゴロ!
間一髪!大槌が振り下ろされる瞬間にジルコンさんがジャーバルに渾身の体当たりをかまして突き飛ばす!
ジルコンさんとジャーバルはもんどりうちながら転がり…そのはずみで大槌が吹っ飛び…地面に打ち付けられ…爆発が起きた!
ドオオオオオオオオオン!
土煙が上がる!
そしてその土煙の向こうで…ジルコンさんとジャーバルが凄まじい殴り合いをするシルエットが見える!
「ウオオオオオオオオ!」
「クソがああああ!邪魔するなああああ!」
ドガガガガガガ!
互角だ!
「(ダメだ!ギラードを探すどころじゃない!まずジャーバルを片付けないと!)」
「助太刀します!」
そう言ってジルコンさんの方に駆けようとした瞬間に
「ここは俺がなんとかする!イチたちはマムリについていけ!嫌な予感がする!」
ジルコンさんが大声で叫んできた!
そしてフォレスタも続ける!
「イチ!マムリ姐さんを追おう!ボクもなんか嫌な予感がする!残りの竜人兵は森の民の戦士たちが相手してくれるから、こっちは走りながらギラードを探そう!」
ーーーーーーーーーーーーーーークソ!やる事が多い!
戦いで精いっぱいで頭が回らない!どれも最優先なのに!
一杯一杯になりながらも判断する。
この辺りの事に一番詳しいのはフォレスタだ!
「ーーーーーわかった!一つずつ片付ける!ジルコンさんすみません!ここはお任せします!行こうフォレスタ!」
そう言った瞬間、フォレスタは俺の腕を掴み、裏路地に入ろうと促す。
「近道を使うからついてきて!」
フォレスタがそう言いながら裏路地に入ろうとした瞬間に…
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
アンの放った火炎球が飛んできた!
「きゃああああああああああああ!」
「フォレスタあああああ⁈」
フォレスタが炎に包まれ…なかった!相撲取りみたいな土人形が飛び込んできてフォレスタの盾になってくれたのだ!
そして土人形はこちらを向きながら顎で「行け」と促す!
アンが舌打ちする!
「このクソデブ人形が!またお前か!」
空気を吸い込み腹を大きく膨らませ、次の火炎球を放とうとするアン!…が出ない!
「…くそ!食い物が…燃料が足りない!ならば!」
アンが激昂して土人形に殴りかかる!
炎をものともせずに、アンと殴り合う土人形!
こちらも互角だ!
土人形を援護しようとフォレスタが弓に矢をつがえようとする!
が…アンの背後から飛び出してきたチョビが赤銅色に輝くナイフを構え、フォレスタに向かって真っすぐ駆けて来る!
「そう来ると思ったぜ!やらせるかああああああ!」
そう叫びながらフォレスタの前面に出て翠亀剣を薙ぐ!
舌打ちしながらナイフを振りつつ後方へ跳ぶチョビ!
その直後にチョビが退避した方に向かって、無数の森の民の戦士たちの放つ矢が襲い掛かる!
「クソ!スピードが出ない!脚さえやられてなければ!だが弓の弦は切ったぞ!ざまあみろ!」
チョビが笑いながらそう言い放つ…がすぐに苦虫をかみつぶしたような顔をした。
フォレスタは弓を捨てていて、斬撃は風切りのナイフで防いでいた!
「さっきも言ったでしょ!同じ手は食わないって!」
睨み合うチョビとフォレスタ!こちらも翠亀剣を構えてチョビに追撃しようとした瞬間に
「イチ!最優先を忘れないで!その裏路地をまっすぐ行ったら避難所の近くに出るから!先に行って!こちらは大丈夫だから!」
フォレスタが叫ぶ!
「でも…!」
「イチ!信じて!」
悩むが、フォレスタの勢いに飲まれる。
「分かった!すぐに戻る!死ぬなよ!…リコ!すまないがついてきてくれ!」
「わかりました!」
そう言いながらリコと裏路地を、駆けて行く!すると!
「アッシもついていくでゲスよ!」
あたふたしながらゲス郎がついてきた!
「いや…お前は呼んでいないが…」
「お願いでゲス!あっちにいたら命がいくらあっても足りないでゲス!嫌だと言ってもついていくでゲス!」
「ええい…勝手にしろ!」
そう叫んで走る!
まあ、ゲス郎はどこにいても役には立たないから…
と混乱した頭で考えながら駆けていく!
近道を通り、社長たちが避難していたはずの地点に向かって見たものは
全滅した竜人兵の追撃部隊と…
仰向けに倒れているマムリ姐さんだった。