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39-逆転

「グワアアアアアアアアアアアアア!」


竜人兵たちの悲鳴が上がる!


「なんだ?どうした⁈」


ジャーバルが悲鳴の上がった方を向く。すると…何か大きな物体が竜人兵たちを吹っ飛ばしながら真っ直ぐこちらに向かってくるのが見えた!


「なんだ!コイツはあああああ⁈」


ジャーバルが叫ぶ。無理もない。その何かは…大きな相撲取りのような体格の土人形で、ドスドスと大きな足音を響かせながら竜人兵たちにブチカマシを見舞っていた!木の葉のように吹っ飛ぶ竜人兵たち!


「あれ…どこかで見た覚えが…」


絶望して殺される寸前のイチだったが…突然現れた謎の闖入者に見覚えがある事に気づいた。

そして…少しずつ頭が回転し始め…あっ!と目を見開いた!


「あれ…!シリウスさんが『重力制御』の特訓の時に、見本にと作った土人形だ!」


シリウスさんがあまりにも見事な『重力制御』を見せてくれた時に…大きな相撲取りのような体格の土人形を作ってくれたのを思い出す。


「(あの時は『こんなもの作れるわけないだろー!』と思ったっけ。他に作った似たような泥人形は『薙ぎ払い』の特訓の時、的にして壊してしまったけど…壊してなかったのがあったんだな…でもなんでアレが動いて…⁈)」


そんな事を考えていたら…聞き覚えのある声がした!


「イチ様ーーーーーー!」


「来たでゲスーーーーー!」


「え⁈リコ⁈ゲス郎⁈」


見ると、大きな相撲取りの土人形の背中に小柄な人間がしがみついてるのが見える!

そして相撲取りみたいな土人形は、イチとジャーバルの真ん中に割り込み…ジャーバルを吹っ飛ばした!


どすこいどすこいどすこい!


とは喋らなかったけど…吹っ飛ばしたあとにそんな声が聞こえてきそうな気がする連撃がジャーバルを襲う!


ばしばしばしばしばし!


「ぬわわわわわあああああああああああああああああああ⁈」


連撃を浴び、思わず大槌を落とすジャーバル!そしてリコとゲス郎はその間にイチの目の前に飛び降り駆け寄る!


「イチ様!無事でよかった!回復魔法をかけます!」


涙目でイチの手を握るリコ。そしてリコはそのまま、その小さな手を満身創痍のイチの背中にかざし、回復魔法をかけてくれる。手をかざされた場所がじんわりと暖かくなり、心と身体を癒していく。


「リコ!助けに来てくれたのか!ありがとう!でも…あの土人形は⁈」


「それが…竜人兵から逃げていたら…」



********************************


森の民の集落が夜襲を受け、竜人兵によって建物が次々と壊されていく。

それに応戦するため森の民の戦士たちが慌てて前線に向かう。

リコや戦闘要員じゃない勇者たちは、避難しようと、長にあらかじめ教えてもらっていた『何かあった時の隠れ家』に走った…のだが乱戦になり、リコとゲス郎は社長やエルマさんたちとはぐれてしまった。


「はあはあ…リコ様ー!どこへ逃げれば良いでゲスか⁈恐いでゲス!」


「はあはあ…えっと…どうしましょう…どっちに逃げれば…きゃあ!」


急に後ろから腕を掴まれ持ち上げられるリコ。

リコが振り返ると…目の前に、恐ろしい顔をした筋骨隆々の竜人兵の顔があった!

そいつは下卑た笑顔を浮かべ、嬉しそうにつぶやく。


「お?人間にしては見目麗しいな⁈へへへ…皆殺しにしろと言われてるがァ…コイツはこっそり生け捕りにして金持ちに売った方がお得だな!なあに!一人くらい攫ってもバレねえよな!」


顔を近づける竜人兵。口から肉の腐ったような匂いがする。竜人兵の息だ。生暖かくて、気持ち悪い呼気が顔に当たる。悲鳴を上げたいが声が出ない。


「ひひひ!恐いか⁈そう言う顔をする人間のメスは高く売れるんだよなァ!って…グワアアアアアアアアアアアアア!」


下卑た顔の竜人兵は…どこからか飛んできた強烈なパンチをくらい…地面を3回転したあと、そのまま気絶してしまった。

その時に竜人兵から手を放されて、そのまま地面に尻もちをつくリコ。ヒリヒリ痛むお尻をさすりながらおそるおそる見上げると…大きな樽のようなお腹のずんぐりむっくりの土人形が目の前に立っているのに気付く。


「貴方が…助けてくれたの⁈」


うなずく土人形。そして背中を指さしている。


「乗れって…言ってるの⁈」


うなずく土人形。

そして右手が上がり、見るとその手は戦いの最前線の方を指さしている。


「一緒に…みんなを助けに行こうと言ってるのね⁈分かりました!参ります!」


リコが土人形の背中に飛び乗る!…と、隠れていたゲス郎もいつの間にか土人形にしがみついていた!


「アッシも戦うでゲス!だからここに残さないでくださいでゲス!恐いでゲス!だからアッシもつれていってくだせえでゲスウウウ!」


「え…⁈わ…わかりました!お願いします!土人形さん!」


ドスドスドスドスドスドス



********************************



「…そういうわけで…この土人形さんに助けられて…こちらに…でも怖かったですけど来て良かった!」


「ありがとうリコ…」


感極まって泣き出すリコ。それを見て心の中がじんわり温かくなってきた。


「勇者様!危ない所だったでゲスね!このピンチに駆けつけてきたアッシの功績は忘れないで欲しいでゲスよ⁈」


「お前は残されるのが恐くてこっちに来ただけじゃねえかあああ!」


思わずゲス郎にツッコミを入れる。でも…


「(心の力が戻ってきた!)」


冷え始めていた手足に血が通って来た感じがする!

翠亀剣を強く握りしめる!いける!そしてジャーバルの方を見ると…


意外にも相撲取りみたいな土人形がジャーバルと互角に戦っていた!


ドスドスドスドス!ばしばしばしばしばし!


「な…⁈なんだコイツは⁈」


猛攻に怯みながらも、必殺の赤銅色に輝く大槌を振り下ろすジャーバル!…が、土人形は軽やかに躱すとジャーバルの腹部に強烈なパンチをかます!


「ぐふおっ⁈」


胃液を吐きながら大槌を手放し、ごろごろと転がされるジャーバル!

それを見て思わず感嘆する。


「なんか…ファンタジーの世界のこういう土人形みたいなのって『パワーはあるけどゆっくり動く』イメージがあるけど…こいつは…」


めちゃくちゃ軽やかに動いている!


相撲取りみたいな体格なのもあって、昔、TVの過去映像で観た牛若丸みたいに跳んだり跳ねたりする有名な力士を思い出していた。

そして土人形は地面に落ちた大槌を掴んで…遠くに放り投げた!


「こ…こいつ!ええい!アン!こいつを足止めしろ!」


そう言いながら大槌を拾いに行くジャーバル。


「な…⁈…まだメシ食ってる最中だっつーのに!クソがっ!」


不満たっぷりに呪いの言葉を吐きながら、アンが土人形に向かって駆ける!

そのまま渾身のパンチを放つアン!が、土人形はパンチを軽くいなしてその腕を取ると…その勢いのままアンを放り投げる!


「ぬわあああああ⁈クソ!コイツ!」


受け身を取りながら転がり、もう一度土人形に向かってパンチを撃とうとアンが起き上がった瞬間!

土人形の連続パンチがアンを襲う!


ばしばしばしばしばし!


「ぐぐぐ!お前も動けるデブかよ!くそ!チョビ!隠れてないで手伝え!この土人形の核を壊すんだ!」


アンが叫ぶと…暗がりからチョビと呼ばれる小柄な竜人が飛び出してきた!

まずい!アイツは動きが速い!


「リコ!ありがとう!あとはなんとかする!」


チョビに向かって駆ける!が…追いつけない!


「(くそ!『アクセル255』の再使用にはまだ時間が…!)」


土人形の背中に飛び乗るチョビ!そのままナイフを握りしめ何かを探していたが…すぐに飛び降りた!

その直後にチョビのいた場所に矢が刺さる!


「好きにさせるもんか!」


「フォレスタ!」


フォレスタが新しい弓を持って復帰していた!次の矢を構えるフォレスタ!


「あの女!クソっ!うっとうしい!」


チョビが赤銅色に輝くナイフを持ってチーターみたいな速度でフォレスタに向かう!


「グワアアアアアアアアアアアアア!」


チョビが悲鳴を上げる!見るとチョビの太ももに矢が刺さっていた!


「同じ手は食うものか!アンタなんかそのスピードが無ければ恐くないから!」


脚を押さえ転がるチョビ!それを見て慌ててチョビのガードに入ろうと駆け寄るアン!


「クソッ!チョビ!下がるぞ!回復を…!」


そう言いながらアンが振り返ると…眉間を射られ絶命している書記官みたいな細身の竜人が見えた!

思わず歯ぎしりをするアン!


「言ったはずよ⁈同じ手は食わないって⁈」


フォレスタが低い声で呟きながら…次の矢をつがえる。

慌ててアンが周りを見ると…10人くらいの竜人兵が浮いていた!


「落ちろ!」


掛け声とともに…竜人兵たちはそのまま地面に叩きつけられて動かなくなった!


「すまない…待たせたな!」


「シリウスさん!」


気絶からシリウスさんが復活していた!

そして気付いた。

集落の火がほとんど消し止められている!


「あとは任せてネ!」


「頑張ったな!ガハハハッ!」


後方からマムリ姐さんとジルコンさんが現れた!大逆転だ!


やっと大槌を拾って来たジャーバルが青ざめている。

ケガをしたアンとチョビがうなだれている。

新しい弓を手に入れた森の民の戦士たちが弓矢を構えている!

竜人兵たちは後ずさり、なんとか逃げようとしているのが見える!


「もう逃げられないぞジャーバル⁈覚悟は良いな⁈」


シリウスさんがゆっくりと剣を構えた。





よし!勝った!






そう思った瞬間。




「見てられんな…」




背筋が凍るような恐ろしい声が集落に響く。


「ギラード…」


シリウスさんが忌々し気に呟く。

空気の温度が5℃くらい下がった気がした…。

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