3-ドラフトだったりチートだったり
「ところでドラフトの話を詳しく聞いてよいかな?確認するけど自分がドラフト47位で指名されて
そこでドラフトが終わったって事は…俺って」
不安を感じながらも、とりあえず情報を集めてみようと思い直して聞いてみた。
「はい…イチ様は…その…」
「ドラフト最下位でゲス…47人の中で一番見込みのない勇者でゲス」
うわー…やっぱりか…なんとなくそんな気はしたけど。
あの時に会場にいた勇者候補はみんな強そうだったからなあ。
いや、むしろなんで自分が勇者候補に挙がったのか。
「条件は分からない事が多いですけど…なにか、逆境からの一発逆転を望んだ人の中で、勇者の素養がある人にドラフトの声がかかるみたいです」
「勇者の素養って?」
「この世界の神様…フォーツ神様の祝福を受ける事が出来る方が、勇者の素養がある人みたいですね…個人差はありますが、こちらの世界に来たからにはイチ様もおそらく何か祝福を受けているはずですよ!」
リコは嬉しそうにこう続ける。
「だからイチ様も、この世界の言葉が分かるとか、魔法の素養があったりとか以外にも、何か新しい能力を授かっているんじゃないかと思います!」
「そうでゲス!勇者様たちは、それを『チート』って呼んでるでゲス!」
チート!おお!異世界っぽくなってきたぞ!どんな能力が貰えたんだろう!
少し興奮している自分を見て、リコがニコニコしながら聞いてきた。
「得た能力の内容については、この世界に降り立った時にフォーツ神様から説明されたはずです!イチ様は…どんな能力をいただけましたか?」
「え⁈能力⁈」
そんな説明なんか無かったぞ?
確かにこの世界に来た時に、祝福と言うか、現地の言葉が分かったりとかの能力は貰えたみたいだけど
これたぶん、みんな貰えた基本の能力っぽいし、自分だけの特別な能力については…何も説明はなかったような…。
困った顔をしていたら、何かに気付いたリコがおそるおそる聞いてきた。
「あの…もしかして…祝福を…特別な能力をいただけてないとか…?」
「わからないけど…たぶん…」
それを聞いた瞬間、ゲス郎の態度があからさまに変わる。
「ケッ!なんでい!ハズレ勇者かよ!期待して損したでゲス!」
物凄い掌返しが始まった。
「オウ!この世界で生きていきたかったら、この俺様の下僕でゲス!俺様に甲斐甲斐しく奴隷のように仕えれば、残飯くらいなら分けてやるでゲス!とりあえず俺様の事はゲス様と呼びな!良いでゲスな!このハズレ野郎!」
唾を飛ばさんばかりの勢いでまくし立てるゲス郎。
凄いなあ、ここまでのテンプレの塊のようなゲス野郎とは思わなかった。
とりあえず…。
どごっ。
「ゲヒイイイイイイイイイイイイイイ!」
ムカついたので、ぶん殴る。
通りの向こうまで吹っ飛んでゆくゲス郎。
「なんだ、ちゃんと強いじゃないでゲスか!へへへ!アッシは勇者様はやると思っていたでゲスよ!」
鼻血を出しながら、よたよたと近づいてきて、露骨な揉み手をしながら媚びを売ってくるゲス郎。
うーん、ゲスい。
「アッシの事はゲス虫とでも呼んでこき使ってくださいでゲス!ああ!アッシの勇者様!王様!なんなら靴だって舐めやすぜ!そしてその強さでアッシに甘い汁を吸わせて下さいでゲス!ゲヒヒヒヒ!」
凄い、ここまで相手によって態度を変えるゲス野郎も珍しい。
しかもさりげに、自分への利益供与も要求している!
漫画でもいないぞ、コレだけのゲス野郎…。
「あ…あの!私の従者が本当に申し訳ありません!根は悪い子ではないのですが…」
大慌てで詫びを入れてくるリコ。
「いや根っ子まで絵にかいたようなゲス野郎だよ!こいつは⁈」
どうもこの感じだと、ゲス郎がやらかしたのは今回が初めてじゃないな⁈
リコは良い子みたいだが、世間知らず過ぎる。
人を見る目が無さすぎるし、こんなのを飼っていると言う事は彼女の所属する組織もロクなものじゃなさそうだ。
…いや待てよ?
この世界の言葉が祝福の力で理解できるようになったらしい…と言うのは分かった。
でも『ドラフト』って言葉に相当する制度が、この世界でも使われているって事は、もしかしてこの制度って…⁈
「ちょっと質問。俺たちの世界の『ドラフト制度』って言うのは将来有望な選手を指名して『指名した選手の入団交渉権』を獲得するための新人選手獲得会議なんだけど…ドラフトって、交渉失敗して入団拒否されることもあるんだよね⁈」
ドキッと言う顔をするリコとゲス郎。
「俺はアンタたちに勇者として指名されてこの世界に召喚されたけど…もしかしてアンタたちと組む事を拒否する自由も俺にはあるって事?」
「ドキー!バレたでゲスー!」
「で…でも、私たちもイチ様のお役に立てることも…少しは…ありますから!」
あからさまに慌てるリコとゲス郎。
うわあ!そうなのか!じゃあ、こんな泥船みたいな連中と組まなきゃいけない理由は無いぞ!
『魂の蘇生結晶』は別ルートで手に入れる方法を考えるとして…たしかさっき三つは宝物を元の世界に持ち帰れると聞いたから、あと二つ、使えそうなお宝を探してみても良いよな⁈なら個人で宝探しをやっていくか、別の有力な組織と組んで宝探しをするのも考えてみても良いんじゃないか?
そんな事を考えていたら、後方から声をかけられた。
「よーう!イチじゃないか!」
聞き覚えのある声だった。