38-奮戦
「フォレスタ!いったん下がって使える弓を探しに行け!ここはなんとかする!」
そう言いながらフォレスタに護身用にと『風切りのナイフ』を投げて渡す。
フォレスタは一瞬躊躇った後
「ーーー!ごめん!すぐに戻るから!死なないでね!」
そう言って後方に向かって走っていった。それを見たアンが火炎球をフォレスタの背中に放つ!
…が、ほんの僅かに逸れた!
そのまま逃走するフォレスタを不思議そうな顔で見送るアン。
そして俺の左手が何かを掴むかのような動きをしていたのに気づき、こちらに殺意を向けてきた。
「『重力制御』…だな⁈大した力はないみたいだが…火炎球を僅かに逸らすくらいはできるのか…やはりここで殺すしかないなお前」
畜生、一度見せただけで感づきやがった!
「取るに足らない奴だと見下していたが…やはり勇者だな…じわじわなぶり殺しにしてやろうと思っていたが…いいぜ、一目置いてやる。絶対に避けられない大火炎球で丸焼きにしてやるからよ」
そう言いながらアンが大きく息を吸い込んだ!メタボな腹が風船のように膨らむ!ヤバい!
ぽわっ
アンの口からマッチの火みたいな小さな火の玉が出て…消えた。
「え?」と言う顔をしていたらアンが舌打ちした。
「チッ…燃料が切れた。何か食わないと…ジャーバル将軍、少し下がります」
「許す、下がって何か食え」
ジャーバルがそう言うとフラフラと千鳥足で後方に下がるアン。
なるほど、あのメタボ、強いが燃費が悪くて長時間戦えないのだな。
「まあ、あと気をつけないといけないのはコイツだけだしな。覚悟は良いな?色男」
ジャーバル将軍が赤銅色に輝く大槌を握りしめてゆっくりと歩いてくる!
マズイ!逃げ…
しかし自分の後方には倒れたシリウスさんがいる。
そして人食い鮫の群れに囲まれたアザラシのような、竜人たちに取り囲まれつつある森の民の戦士たちがいる。
ジャーバルがニヤニヤしながら言う。
「引けねえよなあ⁈楽しませてくれよ⁈色男」
「(クソがああああああああああ!)」
心の中で叫びながらジャーバルに突進する!
ニヤリと笑って赤銅色に輝く大槌を地面に振り下ろすジャーバル!
ドオオオオオオオオオン!
爆発で目の前に煙幕ができて何も見えなくなる!マズイ!第二撃が来る!
バックステップして素早く『薙ぎ払い』の態勢に入る。
剣を身体の中心に構え…刃を顔に近づけ…力を溜める…。
「(って…来ない…⁈何故⁈)」
そう思っていたら…側面から迂回してきて、倒れたシリウスさんにトドメを刺そうとする竜人兵が3人ほど見えた!
「本命はそっちかよ!」
大振りして溜めた剣圧を開放する!衝撃波が竜人兵3人を吹き飛ばした!
その直後…
「いやあ、本命はこちらだよ色男」
爆風の中から赤銅色に輝く大槌を握りしめてジャーバルが飛び出してきた!
「クソがああああ!」
歯を食いしばる!右足で踏ん張り、全身をバネのようにしならせて、握った翠亀剣を高速で大槌にブチ当てる!
ガキーン!
ギリギリのところで間に合い、大槌を跳ね返した!
大槌から赤銅色の輝きが消える!が、腕の骨がミシミシきしむ音がする!
舌打ちしたジャーバルがもう一度大槌を振りかぶる!
その瞬間、無意識に左手が動いた。
「終わりだ!小物!…グワッ⁈」
『重力制御』で地面の砂を掴んでジャーバルの顔面にブチ当てた!
目に砂が入り怯むジャーバル!
ここしかない!
倒れそうになる身体を無理矢理起こし、両手で翠亀剣を握りしめる!
脳内で自分の脚を8本…16本…32本とイメージする!
地面を蹴る!32本のバネで発射されるミサイルのような一撃を撃つ!
「ウオオオオオオオオ!」
ドスッ
「グワアアアアアアアアアアアアア!」
豪奢な鎧を貫通してジャーバルの脇腹に翠亀剣がぶち刺さる!
呻きながら倒れるジャーバル!
竜人兵たちから悲鳴が上がる!
が…そこまでだった。
「腕が…!」
無理をした腕が悲鳴を上げていた。折れてはいないようだが骨に何かあったのかもしれない。
そして脳内に無慈悲な声が響く
「アクセル255…使用時間終了まで残り…3…2…1…」
「ま…待ってくれ…まだ…!」
全身の力が抜けていく…思わず膝をついた。
そしてわき腹から血を流したジャーバルがゆっくりと立ち上がる。
「惜しかったな色男…どうした⁈ここまでか⁈」
不敵に笑うジャーバル。
「(浅かった!風切りのナイフがあれば鎧ごとぶち抜けたのに!)」
悔しそうな顔を見せる俺の顔を見ながら、ジャーバルは俺の心の中を見透かしたような事を言う。
「さっき女に渡した、大宝イノスをぶち抜ける魔法のナイフがあれば俺様を殺せたのにな!格好つけるのも大変だな!同情するぜ⁈色男!」
そして顎で「周りを見ろ」と促してきた。
よく見ると、矢で射抜かれて全身ハリネズミみたいだった瀕死の竜人兵が、一人、また一人と戦線に復帰していた。
「え⁈」と思って目を凝らすと、かなり離れた所に会談の時に会話を記録していた書記官みたいな細身の竜人がいて、瀕死の竜人になにか香辛料のような粉をかけており…かけられた竜人がみるみる元気になっていくのが見えた!
「あの細身の奴…!回復担当だったのか!」
「理解したようだな、お前らの無駄な抵抗もここまでだ」
俺の絶望の顔を見たジャーバルが満足そうに笑い…
「じゃあな、色男、まあまあ楽しませてもらったぜ」
全身から力が抜けた、もう動けない。
そんな自分を嗤うように…ジャーバルは赤銅色に輝く大槌を振り上げた。