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35-火蓋

「大変でゲスー!」


長の館にゲス郎が大慌てて飛び込んできた。

その両手には宝袋と食べ物を一杯抱えている。

しかも口のまわりには茶色のソースのような物をつけている。

うーん、不審者。

いや、そうじゃない。


「どうしたんだ?ゲス郎⁈」


そうゲス郎に声をかける。

ちょうど皆と、長を交えて、これからの話し合いをしようかと集まっていたところだった。


「実はでゲス…」


ゲス郎は、先ほどの竜人二人組の会話の内容を皆に伝えた。

一同に緊張感が走る!

暫くの沈黙の後…シリウスさんが重い口を開いた。


「まあ…撤退の際になにか仕掛けてくるとは思っていたが…増援を呼んでいたのか…それも猶予は7日か…さて…どうするか」


マムリ姐さんとジルコンさんは顔を見合わせ相談している。


「ジルコン、池の方には行った⁈」


「準備はしてある…が、あとでもう一度行ってこよう」


ドラフト1~3位組は、状況を理解して動こうとしていた。

さすが元は王様たちだ。

そう感心していたら後ろで声が上がった。


「7日も待つ事はないよ!来るのがわかってるならこちらから仕掛けてやる!今ならあいつらも人数が少ないし、潰してやる!」


声の方を振り返って見ると、フォレスタが弓を携えて仁王立ちしている。

目は泣きはらして真っ赤だが、瞳には闘志が満ちており、今すぐにでも飛び出していきそうだ。


しかし、それを見た長が諭す。


「落ち着くんだフォレスタ、竜人共が何処にいるのか分からなければ襲撃も出来ない。ゲス郎くん、竜人たちは森の中に消えたんだね⁈どの辺りに潜んでるとか…そんな話はしていなかったのか?」


「聞いていないでゲス…」


しょんぼりしながらゲス郎は首を横に振った。

それを聞いたシリウスさんが難しい顔をしながら考えこみながら呟く。


「たしかに戦いが避けられないなら、増援が来る前に叩いた方が良いし、将軍クラスは仕留めておきたいが…だが…」


「ギラードがいるからネ…」


「あいつは大物過ぎる。俺っちでもアイツとはサシで相手はできない。戦えるのはシリウスくらいだ。」


マムリ姐さんとジルコンさんも悩んでいる。

そしてシリウスさんが俺の方を見て、こう言った。


「私がギラード、マムリがジャーバル、ジルコンがエリトを相手にするとして…イチくんとフォレスタさんと森の戦士たちで竜人兵約50人…戦えるか⁈」


キッツ!


武装をした知性のあるベラーみたいな兵士が…50人だろ⁈ドラフト1~3位戦力抜きで⁈


「できれば奇襲したいですね…」


「うむ…だが、やつらがどこにいるかの情報がないと動けない。どうしたものか…」


シリウスさんと沈痛な顔をして悩んでいると長が話しだした。


「援軍が来るのが7日後なら、竜人共もすぐには動かないだろう。そしてギラードは長居できまい。アイツは竜人たちの№2でやる事が多いからな、おそらく先に本領に戻っているだろう」


そして長は続ける。


「今夜は見張りを立てて休もう。明日、朝一で集落の抜け道から森へ斥候を出す。なに、この森の事は我々森の民が一番わかっている。すぐに見つかるさ。それよりゲス郎くんの言うことが確かなら、我々は見張られているらしいな⁈なら怪しまれないように、できるだけいつも通りの行動をとろう」


そういえば、あいつらの斥候もこちらを見張っているんだっけ…って待て!


剣を抜き刀身を部屋のあちこちに向ける。

部屋の中、窓の外、部屋の隅。

だが緑色に輝く刀身には何も映っていなかった。

それを見た社長が聞いてきた。


「どうかしたのかね?」


「いえ…俺達を見張るなら、エリトの野郎が姿を消して盗み聞きしているんじゃないかと思いまして…」


「…!いたのかね⁈」


「いえ…いないみたいです」


皆がホッとした顔をする。

そして長が、皆に告げた。


「心配いらない。この森と集落全体が我々森の民の砦みたいなものだ。守るだけなら我々は負けんよ。増援がくるのが7日後ならまだ時間はあるだろう。変にバタバタすると怪しまれる。皆、今夜はゆっくり休んでくれ。明日すぐに動こう」


たしかに、今、俺ができる事って、休むくらいしかない…か。

あれこれ考えるより、ここは大人に任せた方が良さそうだ。

そう考えたら…猛烈な眠気が襲ってきた。今日は色々あったからなあ。

思わず大欠伸をする。


「イチ様!眠る前に回復魔法をかけますね!」


俺の大欠伸を見たリコがそう言いながらとてとてと近づいてきた。

そんなリコもかなり疲れていそうだが。


「ありがとうリコ。でも今は良いよ。それよりリコも疲れてるだろうだから早く寝て」


「ダメです!今かけないと、イチ様すぐに倒れてしまいます!」


そう言いながら、俺の裾を掴み、ぐいぐいと床に寝かそうとするリコ。

有無を言わさない世話焼きオカンみたいな生き物だ。しかも意外に力がある。


「…こんなところで横にならなくても…っていうか、細いのに力強いな!」


「横になった方が!回復が!早いんです!いいから~!横に!なってください!」


こうなるとリコは頑固だから引かない。とうとう床に座らされてしまった。

その光景を見た皆が笑ってる、ううう。

でもふと見たら…フォレスタが少し微笑んでいる。

フォレスタが少し笑顔を見せた。なら良いか。

ならば…言う事聞くか。


「リコにはかなわないな、じゃあ頼むよ」


「はい!じゃあ仰向けになってくださいね!」


リコはニコニコしながら奥へ行き、布を抱えてくると…床に敷いた。

そしてその上に寝かされる。

うわ、本当にこんなところで寝かされるのかよ、参ったなあ。

そう思っていたらリコが回復魔法をかけ始めた。

すると足下から血液が全身にゆっくりと廻るような感覚があり、泥のような眠気が押し寄せて来た。

うわ、本当に肉体的にも精神的にも疲れていたんだな。これは今かけてもらって正解だったかも。


すると


「私は戦闘では役に立たないからね。回復を手伝おう」


社長も来て、寝ている俺に向かって手をかざし『成長促進』を自分にかけ始めてくれていた。

そして、首をシリウスさんたちの方を向けて言う。


「シリウスさんたちにもあとで『成長促進』をかけるから、少し待ってもらえますかな⁈」


「おお、それはありがたい。ギラードとのにらみ合いで少し疲れていてね。お願いするよ」


シリウスさんはそう言いながら床に座る。

そうだよな…刃みたいな圧だったもんな…そりゃ疲れたろうさ。


ウトウトしてきた。


眠気が押し寄せぼんやりした頭で、ふと、社長に尋ねてみたくなった。

ギラードは一時的とはいえ、何故引いてくれたのだろう?

社長の切り札はなんだったのか?


「社長…聞いても良いですか⁈」


「なんだね?」


「実はさっきのギラードとのやりとりなんですけど…」






そう発言した瞬間




…何故か空気の温度が変わった気がした。




そして、気づいた。




天井に、タニシみたいな貝殻を背負った、小さなムカデみたいな生き物が張り付いている事に。




「リコ…この世界には貝殻背負った虫がいるの⁈」


「え…?」


リコが自分の視線の先の天井を見上げて…悲鳴を上げる!


集音蟲(しゅうおんちゅう)!」


「なっ⁈」


気づいたフォレスタが素早く矢を投げる!

貝殻を背負ったムカデみたいな生き物に命中すると、床に落ちて…ガラスが割れるような音がした!

一気に目が覚める!


「リコ⁈今のは⁈」


「竜人たちが使う、音を拾う蟲です!そう遠くに音を伝える事はできないのですけど…でも少し向こうの壁の中の音くらいなら拾えます!いつの間に…!」


「これは…まさか!」



そうリコが言った瞬間!




「ズドオオオオオオン!」




数十mくらい離れた所から…空に向かって雷の大砲が撃ちあがった!

その直後に複数の足音と「ウオオオオオオオオ!」と言った叫び声が近づいてくる!


カンカンカンカン!


敵襲を知らせる鐘の音がする!


「敵襲だ!やられた!エリトだ!」


そう叫び、翠亀剣を握りしめながら外に飛び出した!


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