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34-前兆

一方その頃。


森の民の集落から少し離れた、森と集落の境目の中の、少し高台になっている所で動くものがあった。

大き目の袋を持って、ゴソゴソ動いている。


「この辺で良いでゲスかね」


ゲス郎であった。そして大きな袋は…宝イノスの空の宝袋だった。


「大宝イノスの他にも、小さめの宝イノスの宝袋♪他にも宴会のご馳走の残り♪今日は大量でゲスね!」


そう言いながらゲス郎は回収した宴会のご馳走の残りを頬張りながら、小さなナイフで宝袋を切り分け始めた。


「森の民の連中も、宝袋そのものにも価値があるとは思ってないみたいでゲスね⁈いらないならありがたくいただくでゲスよ⁈」


ゲヘヘと笑いながら、宝袋を器用に加工していく。小さな宝袋から…革製の水筒が出来た。他にも端切れで小さな袋をいくつも作ったり、丸めて綿に似た物をつめてボールのような物を作りあげた。


「他の家畜程じゃないでゲスけど、宝イノスの宝袋も使い勝手は悪くないでゲスよ!この水筒はアッシのものにして…この小袋は絵具入れにすれば絵描きが買ってくれるでゲス!更に、この丸玉は町で子供たちに売りつけるでゲス!このくらいの小銭稼ぎは見逃してもらうでゲスよ⁈」


そう言いながら宝袋を加工していたら、宝袋の隅っこの隙間に緑銀貨が詰まっているのを見つけた。

満面の笑みを浮かべる。


「これもいただくでゲス!ちゃんと全部回収しなかった勇者様たちが悪いでゲスからね!ゲヘヘ」


ゲス郎は大喜びで緑銀貨を取ろうとするも、落としてしまった。慌てて拾おうとする…が、緑銀貨が少し明るく見えた気がして、気になって周りを見ると、後方から明かりが近づいてきている事に気づいた。


「(誰か来るでゲス!隠れるでゲス!)」


近くの草むらに隠れると…明かりの主は二人組の竜人の兵士たちだった。

松明の火を弱めにしたくらいの明るさの魔法の明かりが複数、蛍のように竜人達の周りを舞っている。

横に太いのと機敏そうだが背の低い竜人の二人組で、周辺を見回しながら小声で何か喋ってる。


「この辺りで何か動いた気がしたが…気のせいだったみたいだな」


背の低い竜人は立ち去ろうとしたが、太い方が背負い袋を地面に置き、ゲス郎が隠れている草むらのすぐ近くで座り込んだ。


「ここ良いな!集落が見渡しやすいし。見張りながらここで飯にしようぜ?もう俺様腹ペコでよ!」


「ダメだ。ここは見晴らしがよすぎる。俺達の存在が見つかるのはまずい。森の中で食うぞ」


太い方は大雑把で、背が低い方は慎重なようだ。

ゲス郎は怯えながら縮こまる。


「えええ?面倒臭えな。どうせ森の民の連中は皆殺しにするんじゃねえか!見つかろうが関係ねえよ!ここで食おうぜ!」


太い竜人が文句を言いながら弁当を広げだした。それを見た背の低い竜人が呆れながら弁当を取り上げ、説教する。


「俺達は退いた事になってるんだ!俺達の姿が見えたら人間どもが動かないだろ!俺達の仕事はなんだ⁈」


「『人間どもを一人残らず皆殺し』だろ?」


「違う!お前本当に人の話聞いてねえな!『こっそり見張れ』だ!」


「それなんだが面倒くせえよ!なあ、少しでも人間どもがおかしな真似をしたら皆殺しにして良いんだろ?…なら、圧をかけてビビらせようぜ!そうすりゃ泡を食って動き出すさ!ちんたら待ってるのは性に合わねえよ」


イライラしながら語る太った竜人。

体格は良いが、短絡的で、お腹の肉はぶるんぶるん震えている。デブゥ…という擬音が聞こえてきそうな巨漢だ。

そんな同僚に呆れながら背の低い竜人は続けた。


「…俺たちの姿が見えたら警戒して、それこそ人間どもがおかしな真似をしなくなるだろうが!特に今回はあの忌々しい勇者どもが、本当に俺達の探しているものを把握しているかも調べないといけないんだぞ⁈特にあのドラフト1位の勇者とギラード様とやりあった初老の勇者は要注意なんだ!それに外部にはまだ捕えていない勇者もいる!絶対に連絡を取るはずだ!だからあいつ等には、俺達が完全に撤退したと思わせて油断させないとダメなんだ!」


そう言われた太った竜人は面倒くさそうに立ち上がると、背の低い同僚に返す。


「それなんだが、勇者どもが本当に俺達の探しているものを把握してるのかね⁈…ハッタリじゃねえの?人間どもにそんな知能ねえよ」


「俺もそう思うんだが、ギラード様は「何かある」と感じたらしい。それに万一ハッタリじゃなかったら面倒な事になるからな…だから、ちゃんと見つからない程度にあいつらの動きを見張るぞ。それにもし何かあったら…お前…ギラード様に八つ裂きにされるぞ⁈」


「そ…それは怖え…わかったよ」


ギラードの名前を聞いて震えあがる太った竜人。

それを見て、背の低い竜人が「やっと気づいたか」みたいな顔をして「森に向かうぞ」と顎で指示する。


「まあ、本当は俺もハッタリだと思ってるけどな。しばらく様子を見ようぜ相棒。今までの経験上、ウソならすぐに人間はボロを出すさ。俺達の探しているものを把握しているかの確認は大事だが、最悪それは後回しでも良い。今はそれ以上に一人も逃がさない事の方が大事だ。まあ…7日も我慢すれば良いだろ!その頃には増援も来る。そのあとは大人数で集落を包囲して、ゆっくり尋問と皆殺しゲームを楽しもうぜ!ジャーバル様ならすぐに総攻撃を命じてくれるさ!」


「ジャーバル様ねえ…まあ、あのままじゃ本領へ帰れんだろうしな…。しかし、人間どものおかしな行動を見張れと言われても、室内で密談されたらどうするんだ?」


「今は最低限、逃がさなきゃ良いんだ。それにエリトの野郎がなにかするらしいぞ」


エリトの名前が出て太めの竜人はイヤそうな顔をした。


「あのいけすかねえおべっか野郎か。でもよ、もしジャーバル様が左遷されたら…もしかして俺達の上司があのエリトとか言う人間になったりしないだろうな?俺は嫌だぞ?」


背の低い竜人も「俺だっていやだよ」と言う顔をしながらため息をつく。


「アイツはなあ…何故か上にウケが良いんだよなあ。人間の癖に。一応、元ドラフト上位の勇者だけあってそれなりに腕も立つからなあ…まあ、お手並み拝見といこうぜ」


そう言うと竜人の兵士たちは森の奥へ消えていった。


そして、二人が去った後、ゲス郎は思わず呟いた。


「7日後に…総攻撃があるかもでゲスか⁈た…大変でゲス…勇者様に知らせないと…」


身を低くしながら大慌てで集落に走るゲス郎だった。




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