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33-探していた人

「ぼ…ボクの兄…メツアを知りませんか⁈大宝イノスの宝袋の中に、彼の指輪があったんです!」


フォレスタが怯えながらも前に出て、精一杯の大声を出してギラードに話しかけた!

…ってこのタイミングで⁈

こちらは青ざめ、集まっていた竜人部下たちも、緊張感で持っている武器が微動だにしていない!

双方、固唾を飲む!


「(フォレスタ!気持ちはわかる!でも…今はマズい!ここは抑えて!)」


そう小声で話しかけようとした…が


フォレスタの瞳は、やっと見つけた兄の手がかりを離すものか!という強い意志に満ちていた。


でもいくらなんでも向こう見ずすぎる。いや…たぶん恐怖より肉親への愛情が勝ってしまったのだろう。

あんなに自信満々で、どSな王子様のようなフォレスタが…なりふり構わず、涙目になりながら、縋りつかんばかりに訴えかけている。



現場に凄まじい緊張感が走る!



…事はなかった。


ギラードは…返事をしなかった。

正直、歯牙にもかけていないのだろう。なんならもう存在すら認識していないようにも見える。

完全無視で振り返りもせず無言で帰ろうとする。


「私の兄はヌシを探して森に入ったんです!何か知っているんじゃないですか⁈!教えてください!」


「うるさいぞ!この(アマ)ァ!ギラード様はお前とは話す事は何もないと仰られてるんだ!身をわきまえろ!」


ギラードに追いすがろうとするフォレスタの前に、割って入りながら怒鳴るジャーバル。

でもフォレスタは引かない。


「あの大宝イノスには『風切りのナイフ』で抉られた古傷がありました!あれは兄の技です!遭っているはずなんです!」


「ん?古傷⁈ああ、あの宝イノスをなんでも食って大きく成長させるために、飢えさせた事があったな。その宝イノスを、腱を切って動けなくさせたガキと戦わせた事があったが…アイツ強かったな…なんだ?アレ、お前の兄貴か⁈それならもう大宝イノスの腹の中だ。良い栄養になったろうよ!ほら!満足か⁈」




空気が凍った!




フォレスタの怒りの圧が空気を凍らせた!…ワケじゃなかった。

その超低温は竜人の方から飛んできてる!


ギラードがジャーバルを睨んでる!


「(何、余計な事を喋っているんだ⁈貴様は)」


そんな目で睨んでいる!

ジャーバルは失言に気づいて真っ青な顔をしている!

こちらも、殺意はこちらに向けられているわけじゃないとわかっているのに…息ができない!


ジャーバルの発言を聞いた長が、低い声でギラードに尋ねた。


「俺の息子を宝イノスの餌にしたのか…⁈」


「宝イノスは草食だ!肉は食わん!食うのは草と作物と宝だけだ!単なる俺の勘違いだ!」


ジャーバルが必死で言い訳をする…が長は逃がさない。


「いや…餌が無ければ宝イノスは雑食にもなる。肉食をした宝イノスは肉が臭くなるからわかる。貴様…『飢えさせた宝イノス』と言ったよな⁈意図的に食わせたな⁈」


それを聞いたギラードがため息をつく。


「もう良い、たしかに行き違いがあったようだ。我々の大宝イノスがそちらのご子息を食べたようだな。それで…どうする?」


なら戦うか⁈と冷たい殺気を飛ばすギラード!

行き違いって…!なんだ!

でも今コイツと戦ったらどれだけの犠牲がでるか…。



これが竜人か!本当にクソだ!



フォレスタの目が血走ってる!

もうだめだ!戦うしかない!

腹を括った瞬間…!


「あれは、俺が大事に育てた優秀な跡取り息子だ…せめて税金は負けてもらおうか」


長がそう提案してきた。


え⁈と思っていたら、ギラードが「(ほう?)」という顔をして


「良いだろう、特例で税金は白金貨3000枚に負けてやろう。それでこの話は手打ちだ」


そう言って帰ろうとする。

思わず呆然とする。

フォレスタは「(そんな!父さん!それで良いの⁈)」と長に怒りの視線をぶつけている。


そんなフォレスタを見たギラードが、邪悪な笑いをしながら言葉を吐いた。


「ふふふ…たしかに優秀な跡取りだったみたいだな。犬死せずに、減税を勝ち取ったのだから」


フォレスタの目が怒りではなく、鉛のような重い色になる。

ほぼノータイムで俺の腰に手を伸ばし、風切りのナイフを抜こうとする!


…だが、ナイフに手は届かなかった。


シリウスさんが重力制御でフォレスタの動きを縛っていたからだ。

マムリ姐さんがフォレスタの肩を抱いて「それはダメよ」と優しく諭す。

大きな体のジルコンさんがフォレスタとギラードの間に立ち、今の一連の行動を見せないようにする。


その連携を見てギラードが舌打ちする。

そして「帰るぞ」と一言だけ言いながら去って行った。

その後に青ざめたジャーバルが続き、エリトはジャーバルを見ながら「(あーあ、コイツ、終わったな)」と使えない上司を見切った部下みたいな顔をしながら、他の竜人を率いて帰って行った。



マムリ姐さんとエルマさんがフォレスタをそっと抱きしめて


「頑張ったね」


と声をかけた。

それを聞いた瞬間に涙腺が決壊して、わあわあ泣くフォレスタ。


何もできない…。


悲痛な気持ちになりながら思わずリコに尋ねる。


「竜人って…こんな事ばかりするの⁈」


「大なり小なり…みんなこんな目に遭っています」


「そうか…」


そのまま一人、館を出る。

地面を見ると、さっきまで開かれていた宴会の食事や酒の残りが転がっているのが見えた。


「さっきまでお祭り騒ぎだったのにな…」


そんな明るい雰囲気はどこかへ行ってしまった。


ふと…夜空を見上げる。

二つの月が明るく輝いていた。

今さらながら、ここは自分たちの世界とは別物なのだと思い知らされる。

ここには希望もあれば…より深い絶望もあるんだと思った。


「姉さん…もう少し待って欲しい…必ず希望を持って帰る」


そして長の館の方を振り返る。

フォレスタのすすり泣く声が聞こえてくる。


もう一度二つの月を見上げた。


「帰るけど…やらなきゃいけない事ができた」


そう呟き、近くに転がっていた宴会の食べ物の肉や野菜の残り物を掴み、貪り食った。


「…少し遠回りになるけど必ず全部解決させて帰るから!」


泣きながら食べたパンシャリカンは塩味強めの味がした。








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― 新着の感想 ―
竜人が自分たち以外を小ばかにしてる感じがとてもいいです! ジャーバルの小物感がすごいですね。 そんなんんだから出世できないんだよと思ってしましました。
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