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29-フォレスタの想い

「ちょっと良いかね」


酒盛りが始まって、しばらくしたら長に声をかけられた。もちろん自分は未成年だから飲んでないけど。


「急にこんな展開になって面食らっているだろう、すまなかったね。これからフォレスタに会いに行くんだろう?」


「あ、はい…後で池のほとりに来てくれと言われていて…」


長は、そうか…と言う顔をした後、話をし始めた。


「伝えておくことがある…実は―――――」


***************************************************************************


集落の池のほとりに来た。

日はすっかり落ちて、虫の声が聞こえてくる。

鈴虫とコオロギの中間みたいな声だけど、妙に耳に心地よい。


「少し遅くなっちゃったなあ、フォレスタはどこにいるんだろう…」


そう思いながら周りを見ていたら…池に桟橋があって、その近くに人影が見えた。


「イチ…待ってた…」


「あ、フォレスタ、悪い、遅れて…って!え⁈」


そこには、いつもの王子様然としているフォレスタではなく…薄手の、清楚だけど身体のラインが良く出た白地に金色の刺繍の入った服を纏った美少女がいた。


「ほとんど騙すような形で嫁入りの話にしていてごめんなさい。もし…本当にイヤでしたら…嫁入りの件、断っていただいても構いません」


そう言いながら…美しい瞳でジッと見つめてくる。

うわ!また顔の良さでごり押しされる?


…そう思っていたけど、自信満々の顔面超高偏差値ビームは飛んでこなかった。

ただ、誠実で、清楚で、雪の結晶のような儚い感じの雰囲気の美少女がそこにいた。



それを見た瞬間に思った。


「(ああ…なんか…ようやくしっくりきた。)」


こっちが本当のフォレスタなんだ。

先ほど話をしてくれた長の言葉を思い出していた。




「―――――3年前…あの子の兄であり、森の民の次期長の予定だったメツアが行方不明になった。メツアは強い上に眉目秀麗で優しい子でね…自慢の息子だった…。フォレスタはそんなメツアが大好きでいつもくっついて遊んでいた。そのフォレスタも美人でお淑やかだったから、森の民どころか近隣の領にまで名前が轟いていてかなりモテていたのだが…彼女は他の男には興味が無かった。彼女の理想はメツアだったし、せめて自分の配偶者にはメツアくらいの良い男じゃないと彼女の中では男の基準に達しなかったんだ」


「そんなある日だ…竜人達から、森の民に特別重税が課せられた。内容はいちゃもんみたいなもので、納得が出来るものではなかった。しかも『払えないのなら、森の民を毎年何人か連れて行く!それが嫌ならフォレスタを竜人の指定した金持ちに売ってそれで金を作れ!』とまで言われたんだ」


「誇り高き森の民は、決して竜人達にも他の領の連中にも屈しないんだが…この特別重税は竜人皇からの勅命で、メンツを潰すのはマズい。それに、さすがに竜人皇と真正面から事を構えるのは避けたかった。かといって森の民を連れて行かせるわけにはいかないし、フォレスタを差し出すのはもってのほかだ。困っていたらメツアがこう言ったんだ」


「森の民もフォレスタも渡さない。俺が森のヌシの大宝イノスを仕留めて金を作る!」


「そう言って…単身森の奥へ向かい…帰ってこなかった。後日、狼煙玉が上がって、急いでその場所に行ったら…風切りのナイフだけが落ちていたよ…」


「一族の跡取りが行方不明になった事と税金が払えない事で、竜人達はさらに高圧的になった。次期長がいないのなら、森の民は俺の代で終わりだ。森の民が少しでも存続して欲しいのなら、意地を張らずにフォレスタを売れと言ってきた」


「大事な子供を二人も失わせろと言うのか!と思ったし、森の民の連中は『ここまでナメられて黙ってられるか!戦争やむなし!』と激昂した。だが戦えば間違いなく負ける。どうしたものかと悩んでいたら、フォレスタが言ったんだ」


「税金は私が必ずなんとかするから!かといって身売りもしない!私は森の長の娘だ!皆を守る!だからみんな!抑えて!」


「そう宣言すると…彼女はガラリと変わった。長かった髪を切り、いつも引っ込み思案だったのに、どんどん相手の懐に入っていくようになった。自分の美貌の価値を理解して、周りの人間をどんどん魅了して金をふんだくってくるようになり、竜人達も文句が言えないような金を稼いできた。気が付いたら『王子様』と呼ばれていたが…あれは彼女が気を張ってそう演じてるだけだ。本当はお淑やかで、臆病で、静かな娘なんだよ」



***************************************************************************


俺は全て長から事情を聞いている事を話した。それを聞くと、フォレスタは驚いた顔をしながら…


「そうですか…聞いていたのですね…その通りです。本当にごめんなさい。はい、どうしても森の民にはお金が必要だったんです。毎年ちゃんと払っていたのですが…今年になって突然、『これで最後にしてやろう。ただし今までの数倍だ!白金貨10000枚を払え!払えないのなら森の民はおしまいだ!』と一方的に通告されて…いよいよ身売りしなければならないかと思った時に…」


そう言い、おずおずと俺の目を見てきた。


「あー…そのタイミングで、俺が白金貨10000枚払うって宣言したワケか」


白金貨10000枚⁈ふっかけやがって!と思ったけど…なるほど、あの金額設定はそういう事か。森の民が金にうるさいというのも、この辺の金策の果てだったんだな。


ならば…俺の言う事は決まってるや。


「身売りしなかったのは英断だね。もしフォレスタが売られて、今年の税金が賄えても、竜人たちが来年以降に特別重税をかけてこない保証はない。まあ俺はまんまと利用されたわけだけど、そういうことなら仕方ないや。それより自分の領の民を自力で救おうとしているんだから偉いよ!見直した!」


そう言うとフォレスタの表情がパアっと明るくなった。そしてそのまま続ける。


「まあ、俺もフォレスタに命を救ってもらった借りを返せたし、お互いに得した結果に終わって良かったよ!だから…責任を感じて俺と無理に結婚をしなくても良いんだよ!フォレスタはもう十分戦った。もう自分の幸せを求めて良いと思うよ!」


そう言うと…今度は、フォレスタは悲しそうな顔をしながら


「違うんです…」


絞り出すような声で呟くと…そっと近くに来て…そのまま身体を預けてきた。

え?どうしたの⁈

そう思ってビックリしていたら『抑えられない!』と言う体でフォレスタがまくしたてて来た。


「ボクは…ボクは…!イチ…貴方が好きなんです!実はボクは…並の男に興味がないとかじゃなくて…本当は女の子しか好きになれないんです!男の人が本当に苦手で…唯一の例外がメツア兄さんだったんです。でも!メツア兄さんは…いなくなってしまって…私が好きになれる男の人はいないんだろうな…そう思っていたら…イチ!貴方に出会ったんです!」


ええええええ⁈告白して来た!って⁈なんかさらりとカミングアウトされたぞ⁈


「貴方に出会った時に『なんかいいな』と思えたんです!…こんな事…初めてだった。もしや⁈と思って匂いを嗅いだら…メツア兄さんと同じ、もぎたてのアプのような香りが鼻にフワッと来て!…幸せな気持ちになって…やったー!私、この人ならイケる!…この人…私の運命の人かもと思ったんです!」


えええええ?そんな事を思っていたの⁈

いや…でも…そのわりに…


「俺…フォレスタの顔面偏差値ビームで魅了されて酷使されたり、お金を稼ぐために、結構危ない目に遭わされたような記憶があるんだけど…これでも運命の人なの⁈」


そうツッコむとフォレスタが明らかにあたふたしながら言い訳してきた。


「いや!本当にごめんなさい!その…!やはり、自分の気持ちを優先するよりも、お金を稼ぐ事が一番の目的でしたし…でも!でも!…イチが私に10000枚払ってくれるって宣言してくれた時は涙が出るくらい嬉しかったんです!お金の事もですけど、何より…よかった…この人とまだ一緒にいられるって思って…本当です!」


そう言いながらフォレスタは抱きついてきて…涙目で俺の目を見てきた。縋るような…切なくて、涙でいつもより少し赤みがかった紫水晶の様な瞳。



ぐらついた。



忘れかけてたけど、フォレスタの容姿も性格も…自分のドストライクなのだ。なにより、こんなに気の合う異性の友達は現れないんじゃないかとすら思う。


肩を抱こうとして…抑えた。

自分にはやらないといけない事がある。


「ありがとうフォレスタ…君の気持は嬉しい。でも俺はこの世界を救った後は、元の世界に帰らないといけないんだ。フォレスタ、君を幸せにしてくれる他の誰かは必ず現れる…どうかその人と幸せになって欲しい」


…言ってしまった…ごめんフォレスタ…。

そう思いながら彼女の顔を見たら


「あ、それは無いと思う。そもそもイチ⁈貴方はリコと結婚すると思うよ⁈」


ケロッとした顔で言うフォレスタ。あ…あれ?さっきの儚げな美少女はどこへ⁈


「え…いや…それは…って…あれ…⁈フォレスタ⁈キミは俺がリコとキミ二人と重婚しても大丈夫なの⁈」


唖然とした顔でそう返すと、ケタケタ笑いながら返してきた。


「やだなあ!この世界は重婚上等だよ!重婚が許されるような、甲斐性のあるイイ男なんて絶対に手放せないよ!さっきも言ったけど、イチはボクが結婚しても良いと思えた唯一の男性だし、本当のボクは臆病で、グイグイ相手の懐に飛び込んで魅了したり翻弄したりするのも、実は本当に苦手なんだ。だからやっと出会えた運命の相手!ボクは絶対に諦めないよ⁈好きになったら一直線なんだ!へへへ♪」


さっき泣きそうな顔をしていた儚げな美少女が…狩る者の目になってるぞ!

あ…あれ…なんか主導権が奪われ始めたぞ!やっぱりこっちが本性なんじゃないのか⁈


そうおののいていたら…フォレスタは続けて来た。


「ボクは臆病で引っ込み思案だけど…でも!それはそれとして!…自分の美貌で相手がメロメロになって、ボクに尽くしてくれるのを見るのは…背筋がゾクゾクするほど快感なんだ!お金も儲かるし、かわいい女の子にもモテるから!この姿は本当のボクじゃないけど…嫌いでもないんだよね」


ニヤ~と挑発するような小悪魔な笑顔をするフォレスタ。


「お…お前?お前⁈」


唖然としてると、フォレスタは色気たっぷりの流し目を向けてきて


「イチにはむしろ重婚して欲しいんだよね!ボクも重婚したいから!ボク、将来を誓い合った女の子が実は既に17人いるんだよね♡」


「ちょっと待て――――――!」


てへぺろと言う顔をするフォレスタ!

そしてまだ続ける!


「ボクさあ…リコもタイプなんだよね!んで!ボクの見立てではイチとリコは結婚すると思ってるから…イチと結婚したら!…リコも家族になる!そうなったらリコもボクのお嫁さんみたいなものじゃないか!これはもう!イチを旦那にするしかない!間違いなく運命の相手だと思ったんだよね!」


「フォレスタああああああああああああああ‼」


「大丈夫!ボクを嫁にしたら、森の民の長の地位と、このかわいいボクが手に入るよ!ボクが愛する男性はイチ一人だしリコが第一夫人で構わないよ!あ!でもイチはボクの17人のお嫁さんには手を出したらダメだよ!あの娘たちはボクの妻だから!ちょっと不公平かも知れないけど…かわいいフォレスタちゃんのお願い♡へへへ…どうかな~⁈♡」


そう言いながら俺の首に手を回して…上目使いで蠱惑的な瞳を使って見つめてくる!ぐわあ!顔面偏差値ビームがくる!…いや使っていない!これは彼女の純粋な素の笑顔だ!なんて女だ!



でも!でも!でも!



クッソオオオオオオ!やっぱり顔が良いいいいいいいい!この性格の悪さも好みだああああああ!こ…この(アマ)あああああ!


心の中で絶叫する。困った!

コイツは自分はこのくらいのワガママが許されると本気で思っている!

その通りだよチクショー!この天然のタラシの小悪魔!


「絶対にお前なんか嫁に貰わん!俺は即刻元の世界に帰る!」


「うそだ~本当はこう言うの好きなんでしょ⁈わかってるんだから!イチ、愛してるからこっち向いて♡」


耳元で囁きながら、フウッって吐息をかけてくるフォレスタ!


うわあああああああああああああ甘口のウィスパーボイスううううううう!いい匂いするううう!


「う…ううううううう!フォレスタ!本当にキミは…」


そんな俺を見ながら、王子様モードに戻りつつ…勝利を確信したドヤ顔でフォレスタは言ってきた。


「だから何度も言ってるだろう⁈♡ボクは狙ったモノは全て手に入れるのが信条なんだ!ねえ…イチ!♡こんな性格悪いボクだけど…お嫁に貰ってね!♡」


「うわあああああああああああああ!」


薄れゆく意識の中で…この世界の重婚って…ハーレム願望のある人間には夢だと思っていたけど…思ったより面倒臭いものを抱える業の深いシステムではないだろうか…そんな事を考え始めていた。


「大丈夫!ボクは役に立つよ~!よろしくね!イチ!♡」


ガッチリ抱きしめられて、蕩けるような甘い声を浴びながら…夜はふけていった…。




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― 新着の感想 ―
フォレスタ・・・? そういえば、人種ごとに美意識の基準が違うわけではないんですね。 ゲス郎がフォレスタの美貌にノックアウトされるってことは、そういうことなんだなぁと。
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