2-魔法が使えます!
「と…とりあえず、この世界を…街を見てみませんか⁈」
「まあ…見るくらいなら…」
リコにそう説得され、とりあえずこの世界の事を知るために俺は館(ドラフト会場)を出る事にした。
そして、そんな我々の姿を会場の奥からジッと見ている人物がいた。
「…アイツは…たしか…?」
そいつは、こっそりと我々一行の後をつけ始めた。
***********************************************************************************************
街に出た。
そして歩きながらこの世界とドラフトの説明を受ける事になった。
「この世界は竜人皇とその部下の竜人達により支配されていて、富と権力は全部竜人達に奪われてるんでゲス」
街の中央通りを歩きながら、周りを見る。
街並みや技術レベルは、海外映画やドラマで見た事あるような中世ヨーロッパみたいな雰囲気だ。
ただ、建物や店先に並んでいる商品などは、意外とそこそこ清潔で上質に見える。
「(食材に関しては、自分のバイトしていたスーパーよりも品揃えは良いんじゃないかな?)」
思わずそんな事を考えてしまう。
どんなにひどい支配を受けているのだろうと思っていたので、街の発展具合に拍子抜けしてしまった。
って言うか、普通に人間と竜人が共生してるのだ。
ゲームとかだと人間の住む村と魔族の住む村みたいに居住地が分かれている印象があったが
少なくとも、この辺りではそうではないらしい。
ただ、共生と言っても格差は感じる。
竜人は強そうな武器を持って、良い身なりをしている。それに比べて人間側は質素な身なりだし、明らかに竜人たちにヘコヘコしている。
本とか映像で見た事がある、戦前の植民地みたいな光景が目の前にあった。
ただ…
「たしかに支配されている感じはするけど…数は人間の方が遥かに多くない⁈みんなで竜人達をボコれば勝てるんじゃないの⁈」
なんとなくそう思い、小声でゲス郎に聞くと、彼は周りを気にするそぶりをしながら、ため息をついた。
「確かに人間は竜人達の100倍はいるでゲスが…我々が竜人に抵抗すると後々に凄まじい報復を受けやす…竜人の支配は100年続いていて、もう体制は盤石過ぎて、抵抗する事も出来ないんでゲス」
「それで勇者を47人も召喚したのか…でも召喚し過ぎじゃない?」
「それについては、後から説明するでゲス…」
そう呟くゲス郎の顔は暗かった。
どうやら他にも何かあるらしい。
しかし同時に思った。
この世界の人達、100年もこんなトカゲに支配されてるの?
そう思いながら、偉そうに命令してる竜人の兵士を、あらためて観察してみた。
竜人
恐竜が進化して人間になったらこんな感じになるんじゃないかな?と思えるような容姿をしている。
トカゲの様な頭部を持ち二足歩行をしている。身長は2~2.5mくらいで、この世界の人間より少し大きく非常に筋肉質。
一見柔らかそうに見えるのだが、良く見ると鎖かたびらの様な硬そうな鱗に覆われていて、刃物でもないと傷がつきそうもない。
「たしかに普通に殴りあったらまず負けるな…」
「そうなんでゲスよ!オマケに火を噴いたりする奴もいますし、しかもアイツら頭も良いんでゲスよ!強力な魔法を使うやつもいるでゲス」
「魔法!」
ゲス郎の発言に思わず興味を持って聞いてしまう。
「異世界と聞いた時からもしかしたら…とは思っていたけど、やっぱりこの世界には魔法があるのか!」
こんな状況だが、少しテンションが上がってしまった。
ゲームやアニメレベルの知識しかないけど、火の弾や雷を撃てたりするのだろうか?
他にも、強力な回復魔法で傷を癒したり、空を飛んだりする事も出来るかも!
良いねえ!魔法!使ってみたい!
そう思ったが、少し冷静に考えてもみる。
ゲームだと魔法は便利だったり、強力な武器になったりして格好良いと言う印象があるけど
敵も魔法を使い、自分が相対する事になると話は変わってくる。
ロケット花火ですら3発も向けられたら、パニックになるのだから、火の玉が飛んでくるのはどれだけ危険なのかは考えるまでもないだろう。
魔法は恐い物でもあるのだ。
「でも魔法については詳しく聞いておきたいし、身を守るために出来れば使えるようになりたいよな」
思わずそう呟くと、待っていましたとばかりにリコが言う。
「任せて下さい!魔法なら私が少しは使えます!教える事も出来ますよ!」
とても嬉しそうだ。
こちらも興味津々で思わず聞き返す。
「それは助かる!どんな魔法が使えるの?」
「ケガを直したり、疲れた身体を元気にしたり…」
「回復魔法か!ファンタジーっぽいな!他には何が使えるの⁈」
「火と水の魔法を使えます!」
「攻撃魔法も使えるのか!これはありがたい!」
「火の玉を飛ばしてお肉を焼いたり、氷結魔法で飲み物を冷やしたりもできます!」
「攻撃…魔法…⁈」
いや…便利そうではあるが…この娘さんは戦い向きではないのかも知れない。
だが、回復担当は必要だ。
「あと、魅了系の魔法も使えます!」
「リコ様の魅了は凄いんでゲスよ!」
魅了!そんな搦め手も使えるのか!
相手を魅了させれば戦いも優位になる!少し希望が湧いてきたぞ!
「任せて下さい!私、魅了には自信があるんです!見ててくださいね!」
すぐさまリコは近くの露店に向かい、リンゴの様な果物(この世界ではアプと言うらしい)を手に取りそこの店主に話しかける。
「おじさん!このアプ一つ買います!」
「あいよ!100ゼルね!」
「はい!これで!…魅了!」
ニッコリと上目使いで笑顔を振りまくリコ。
その瞬間、リコの瞳が金色に輝く!
それを受けた露天商のおじさんの瞳が大きく開かれる!
これが…魅了!
「お嬢ちゃん可愛いから、もう一つオマケしてあげるよ!ちゃんと食べて大きくなれよ!」
「やったー!おじさん!ありがとうございます!」
嬉しそうにぴょんぴょん跳ねるリコ。
こちらに向かってドヤァな顔をしている。
「アレがリコ様の力でゲスよ…いいなー!アッシも可愛く生まれてたらなー!」
本気で羨ましそうなゲス郎。
「俺の国でも、あのくらいの年齢の可愛い子は商店街であれくらいのサービスは受ける事あるぞ…魔法にカウントして良いのか?アレ?」
「何言ってるんでゲスか!アッシが同じ事やったらボコられるでゲスよ!あ~!アッシにあの力があれば!周りから財産を根こそぎ奪って、こんな仕事辞めて、イイ女を侍らせて働かずに生きるっすよ!ああ~妬ましいでゲス!」
両手にアプを持って、ぴょんぴょん跳ねて喜んでいるへっぽこ魔法使いのリコ。
そのリコをねっとりとした邪悪な笑顔で見つめて、忠誠心ゼロのゲス発言をするゲス郎。
「こいつらについていって良いんだろうか…なんだか不安になって来た」
空を見上げて思わずそう呟いた。