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27-決戦!大宝イノス2

シャギャアアアアアアアアアアアアア!

ゴロンゴロンゴロン。


大宝イノスが悲鳴を上げてのたうち回る。隙が出来た!

フォレスタを抱きかかえ大宝イノスと距離を取る!


「助かったわ!ありがとう!でも何が起こったのだろう⁈」


のたうち回ってる大宝イノスを見ながら、フォレスタが不思議そうな顔をして聞いてきた。


「『重力制御』を使ってこれを動かしたんだ」


そう言いながら土くれを見せる


「そんな土くれで⁈何をしたの⁈」


「俺の『重力制御』じゃ大宝イノスを動かすどころか、フォレスタを逃がす事すらできないからさ、土くれを動かし飛ばして大宝イノスの左目にぶつけてやったんだ。右目はさっきフォレスタが撃ち抜いたからね。両目が見えなくなればなんとかなると思ってさ!」


「そうか!シリウスさんがイチに重力制御を教えると言っていたけど…早速成果が出たね!」


まったくその通りで、シリウスさんが「必ず役に立つ」と言っていたのは本当だなと思った。自分には才能が無いからといって重力制御を学ぶのをやめていたら、今頃フォレスタはこの世にいなかっただろう。


「無駄な事って無いんだな…やはり人生の先輩の言う事には耳を傾けておく価値はあるんだな…」


そう言いながら風切りのナイフを構える。

大宝イノスが起き上がりこちらに殺気を向けている。目が見えるようになったみたいだ。

完全に怒らせてしまった!今にも突撃してきそうだ!



さてここからはどうしよう⁈



いつの間にか少し開けた所に出たみたいだけど、岩や樹木など障害物は多い。正直『薙ぎ払い』は使えない。

頼りは風切りのナイフで、こいつは見た目の割に攻撃範囲は広いのだけど、あんな肉の塊に致命傷を与えられるとはとても思えない。


「できれば広い場所に誘導したいけど…この周辺で広い場所と言ったら森の集落だよな。でもこんな化け物を誘導したら甚大な被害が出るから駄目だ…かといってこのままじゃ…」


そう呟きながらフォレスタに目配せする。


「そうね…たしかにシリウスさん達の力があれば戦えるかも知れない…でもさすがにそれは…って!イチ!前!」


ドドドドドドドドド!


ほんの少し目を逸らした瞬間に、暴走した大型トラックみたいな勢いの大宝イノスが突っ込んできた!間一髪躱すも、振り返ると大宝イノスが通った場所の樹木がなぎ倒されてゆくのが見えた!


「まるで竜巻だ…!仕留めるどころか生きて帰れるかも怪しいぞ!」


余りの惨状に思わず泣き言を言いたくなる。


実際どうする⁈『薙ぎ払い』は使えない。フォレスタの弓矢も通らない。今はアクセル255の効果があるからスピードなら負けてないけど、効果が切れたら⁈こんな化け物が大人しく180秒もクールダウンさせてくれるとは思えない。


近づいてもう一度脚の腱を斬るか⁈


「(いや、アイツはもうそんな隙を見せないだろう。考えれば考えるほど…今できる事は…フォレスタを連れて逃げるくらいしかなさそうだ!)」


脳をフル回転させてそんな事を考えていたら…大宝イノスと目が合った。その左目が怒りに燃えながら「逃がさねえよ」と言っている!クソっ!詰んでるじゃねえか!


いや、諦めるな!考えろ!

何か!何か!試していない手があるはずだ!



そんな時に…



何故か夢の中で出会った、勇者オリオンと一緒にいた風切りのナイフの使い方を教えてくれた美少年の事を思い出していた。


「(たしか…彼は…ナイフを強めに握り込んで…えぐりこむように突く仕草をしていたよな…)」


そんな事を考えていたら…大宝イノスが「隙を見せたな!」と言わんばかりの勢いで突っ込んでくる!

間一髪避けながら…無我夢中でナイフを強めに握り込み…抉りこむように大宝イノスの側面を突いた!


ズドオオオオオオオオオオオオオオン!


その瞬間!




ナイフの刃先から槍のような衝撃波が出て大宝イノスの肩を抉った!


シャギャアアアアアアアアアアアアア!

大宝イノスが悲鳴を上げる!効いた!


「…あの美少年の教えたかったのはコレか!射程距離も貫通力もある!通る!イケる!」


そう思った瞬間、大宝イノスが脱兎のように逃げ出した!

え⁈と思い、よく見たら…大宝イノスのあちこちに抉られたような古傷の跡がある!


「そうか!体験済みか!どうやらこの技が恐いみたいだな!逃がすかよ!」


形勢逆転!このまま超高速で追いついて抉ってやる!そう思った瞬間…


「アクセル255の使用時間、残り15秒」


脳内に機械的な声が響いた。


「(冗談じゃない!ここで逃がしたら終わりだ!もう二度とコイツは姿を現さない!)」


「逃がすかああああ!」


大声で叫びながら、逃げる大宝イノスを追撃する!


いつもより手足をより早く動かす!

脳から!背骨から!命令を!全身の血液にニトロをぶち込むイメージで!

0.01秒前の自分の限界より3歩先へ!4歩先へ!5歩先へ!


エメラルド色だった視界が…うっすらと黄ばんできた!呼吸器系が悲鳴を上げる音がする!

頼む!もう少し保ってくれよ!


地面を蹴る!歯を食いしばる!眼球に力が入る!


後の事は考えるな!手足を伸ばせ!回転させろ!

前を見ると…脚の腱を傷つけられた大宝イノスの走る速度が落ちてくるのが見えた!

イケる!この距離なら届く!


「アクセル255の使用時間、残り5秒」


そんな事はわかってる!一撃でキメてやる!狙うなら…心臓だ!宝イノスは何度も解体している!場所は…!


「アクセル255の使用時間、残り3…2…1…」


「うおおおおおおおおおおおおおおおお!」


肺の中の酸素を使い切りながら全身の力を使って体当たりせんとばかりに突撃!抉りこむように風切りのナイフを大宝イノスの脇腹に撃ち込む!


ズワッシャアアアアアアアアアアアア!


シャギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!


断末魔の悲鳴を上げながら倒れこむ大宝イノス。

自分も最後の力まで使い切ったため止まる余力もない。

スピードがつきすぎたまま倒れながら地面を転がり…そのまま植え込みに飛び込んだ。


「(はあ…はあ…最後の一滴までカロリーを使った!ガス欠だ!動けない!)」


苦しい。おそらく体中傷だらけだ、全身が痛い。起き上がれない。

息が切れるどころか、地上なのに溺れてるような気分だ。

時間としては僅かなのに、何分も溺れている気がする。


少し遅れてフォレスタが追い付いてきて…助け起こしてくれた。


「イチ!しっかりして!息できる⁈息吸って…吐いて…吸って…吐いて…落ち着いた⁈これ飲める⁈」


フォレスタが革製の水筒を差し出してきてくれた。ありがたい。

むさぼるように飲み干す。ようやく息が整って来た。


「ごくごくごく…はあ…はあ…ふう…少し…落ち着いたかな…⁈そうだ!大宝イノスはどうなったの⁈」


フォレスタがニヤリと笑って大宝イノスの方に視線をやる。


…大宝イノスは地面に倒れ伏していた。完全にこと切れている。

脇腹を見ると…深くて大きな穴が開いてる!


「ぶっつけ本番だったけど…凄い技だ…なんて威力だよ!あ!…やべえ!もしかして宝袋まで壊しちゃったかな⁈お宝が―!」


思わず悲鳴を上げる。それを見て大笑いするフォレスタ。


「もう!命があっただけでも儲けものだってのに!イチってば!」


目に涙を浮かべながら歓喜と安堵の表情で笑うフォレスタ。それを見てようやく


「(ああ、そうか…勝てたんだ…危機は脱したんだ)」


と心で理解した。

風切りのナイフの技に気づかなかったら、今頃ここに俺とフォレスタの遺体が転がってただろう。

安堵と同時に、背筋が寒くなった。本当にいつもギリギリで勝っている。

そう思いながら風切りのナイフをじっと眺めていたら、フォレスタが声をかけて来た。


「そうだ!…イチ、いつ風切りのナイフの奥義を身につけたの⁈それはイチがもう少し成長したら長が教えるつもりだった技なんだけど。もしかして…さっき長に教えてもらったの⁈」


フォレスタはこの技を知っていたらしい。改めて説明する。


「いや…俺、夢の中で昔の勇者様に剣を教えてもらう事が時々あったんだけど…」


「そう言えばシリウスさんとそんな話してたっけ⁈その人に教えてもらったの⁈」


「いや、その人と一緒に夢の中に美少年が現れたんだけど、その子に教えてもらったんだ。ちょっとフォレスタに似た感じの男の子」


そう言うと、フォレスタの顔色が変わった。フォレスタは大宝イノスの方を慌てて振り返ると、あちこちに抉られたような古傷の跡がある事に気づいたらしく、すぐに駆けだした。手持ちのナイフを握りしめながら大宝イノスの身体に空いた穴に手を突っ込み、返り血まみれになりながらも内臓を取り出そうとガムシャラに腕を振るった。


「どうしたの⁈フォレスタ⁈」


聞こえていない、フォレスタの目が血走ってる!


「フォレスタ!そのナイフじゃ無理だ!俺が切るから肉塊を後ろに運んで!」


慌てて割って入り、解体を代わる。


解体して気付く。肉がなんか臭い。なんか悪いものの気配がする。

気をつけながら解体をしていたら…大きな宝袋が出てきた!

中身は…白金貨がザクザク!に、高そうな宝飾品に魔力のこもったアクセサリーがわんさか!やったー!大当たりだ!


これならフォレスタも大喜びかな⁈と思っていたら…


フォレスタは薄汚れた小さな指輪を眺めていた。


「やっと…見つけた…」


フォレスタの顔を見ると…はらはらと泣いている。


「フォレスタ…それは⁈」


「メツアの指輪…」


「なにか…魔力が込められた指輪とか…そういうの⁈」


フォレスタは泣き笑いながらかぶりを振った。


「メツアは…3年前に行方不明になったボクの兄の名前さ…これは彼の持っていた指輪…やっと…やっと…手がかりを見つけた…」


血まみれになっている指輪を愛おしそうに撫でながら…フォレスタはわんわん泣いていた。





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― 新着の感想 ―
ついに美少年の正体が明らかに・・・ 悲しいけど、見つかってよかった。 フォレスタが愛しいです。
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