26-決戦!大宝イノス
俺と、フォレスタと、シリウスさん達が総がかりでかかれば、どんな大物の宝イノスでも倒せるはずだ!
そう思っていたのが甘かった。
森の中から次々と、追い立てられるかのようにベラーが飛び出してきて、集落の中で暴れている!集落の中の森の民の戦闘員の人達が応戦しているけど、さすが野生の猛獣、スピードが速いし、とにかく数が多すぎる!とてもじゃないけど対応できない!
「女子供、老人を中央広場に避難させるんだ!戦える者は中小サイズのベラーと複数人で戦ってくれ!いいか!絶対に一人でベラーと戦うんじゃないぞ!」
長が直接指揮を執って、ベラーと戦っている。さすが森の民、動きが速い。
「マムリ、ジルコン、両側から追い込んでくれ、我々で大物を相手をして、討ち漏らしたのは森の民に任せるんだ!行くぞ!」
「わかったワ!」
「ほいきた!」
シリウスさん達、ドラフト1~3位組はさすが王だっただけあって、戦闘力だけじゃなくて指揮能力も高いし、人に任せると言う判断が速い!あっという間に非戦闘員が逃げる時間を作った!…って、俺も戦わなくては!森に向かおうとしてたのをやめて集落の中でベラーの迎撃に向かおうとする。
「イチくんとフォレスタは森の中にいる化け物を探して仕留めてくれ!おそらくこの騒ぎの原因は…この森のヌシだ!フォレスタ!案内してやれ!」
長が大声で叫んで、風切りのナイフを投げて寄越す。
「はい!父さ…いや、長!イチ!行こう!ついてきて!」
「でも!集落のみんなが!」
「集落は、長やシリウスさんたち、森の民の戦士たちがいるから大丈夫!それよりこの騒ぎの原因がヌシなら…今日こそ仕留めてやる!ボクはアイツに因縁があるんだ!」
「…わかった!」
鬼気迫る顔で、フォレスタが叫ぶ。そうだ、今は自分の役割を果たそう。集団戦の経験はみんなの方が上なんだ!任せるしかない!
森の中に飛び込んだ。たしかに森の中が騒がしい。ゲス郎が上げた狼煙の方角は…たしかこっちだ!
だだだだだだだだだだ。
そう言えば、ヌシと言っていたけどそいつは本当に宝イノスなんだろうか⁈他の猛獣の可能性はないか⁈それよりこんな広い森で、ヌシを見つけるのは簡単ではないぞ⁈と思っていたが…すぐに痕跡が見つかった。何かに踏みつぶされた木立や吹き飛ばされた岩とかがゴロゴロしていて、何より象みたいなサイズの特徴的な宝イノスの大きな足跡が森の中に続いていたからだ。
「見つけた!こっち!…あれ⁈」
フォレスタが地面を見ながら困惑している。
なんと、追跡していた足跡が途中で消えていたのだ。
「フォレスタ…ヌシは一体どこへ…⁈」
「わからない…とにかく警戒して!」
ふと、バイト先の先輩が昔に言っていた事を思い出した。
野生動物の中には、雪とかに足跡が着いた際に、その足跡を踏みながら戻って追跡をかわす、通称『バックトラック』をする動物がいると言う事を。
「(でもあれはヒグマとかキツネとかウサギとかの話で…たしか足跡を踏んで戻ったヒグマとかは、木に飛び乗って追跡をかわしたりするんだよな…でもこんな象みたいな足跡の大きさの宝イノスがバックトラックをやれるとは思えないけど…)」
周りに大木はたくさんある…が宝イノスが登れるとは思えない。右側には7mくらいの高さの壁みたいな崖が切り立ってる。こちらも巨体の宝イノスが登るのは無理だろう。
ふと、午前中に仕留めた、柵を飛び越えた中サイズの宝イノスの事を思い出した。
「(あいつら意外とジャンプ力あるんだよな…でもこの足跡のサイズから想定されるような巨体の生き物がこの崖を飛び上がるなんて事、あり得るのだろうか…⁈でもここは異世界だし…もしかして?)」
そう思い崖の上の方を見ると…
崖の上でこちらを見下ろしている大宝イノスと目が合った。
「フォレスタ!逃げろ―――――!」
「え?きゃあ!」
『アクセル255』発動!心拍数が跳ね上がる!
視界がエメラルド色に変わる!
脚が2本、4本、8本…16本にと増えていくような超感覚!
…が、上手く地面が蹴れない!木立と岩がゴロゴロしていて走りにくい!
「(チクショウ!足場が悪い!転ばないようにしなくては!)」
崖の上から8mくらいの大きさの宝イノスがフォレスタの上に降って来る!歯を食いしばって足を動かす!間一髪!フォレスタを小脇に抱えて超高速で駆け抜ける!
「(あの巨体であの高さから落ちれば脚を折るだろう!そこを狙って…!)」
大宝イノスの落下地点が揺れ、土煙や木の葉が舞い上がる!が…大宝イノスはゴム毬みたいにゴロゴロ転がりながら態勢を整えて、また突進してくる!
「上手く体重移動して怪我一つしていない!あの巨体で高い所から飛び降りられるのかよ⁈なんて奴だ!」
「イチ!伏せて!」
フォレスタが弓矢を構え渾身の一撃を大宝イノスに撃つ!眉間に命中!…が弾かれた!
「なんて硬さだ!ならば…『薙ぎ払い』で吹き飛ばしてやる!」
剣を身体の中心に構え、刃を顔に近づけて…2秒ほど力を溜める…。
…時間なんてない!巨体がミサイルみたいなスピードで突っ込んでくる!
「おまけに足場も悪いし、森の中は障害物だらけで、まともに剣が振れない!クソっ!『薙ぎ払い』は開けた場所でしか使えないのか!」
「イチ!これを!」
フォレスタが『風切りのナイフ』を投げてきた!それをキャッチして鞘から抜き放つ!大宝イノスの脚に狙いをつけて駆け出した!
ザシュッ!
大宝イノスの右後脚の腱を斬った!
シャギャアアアアアアアアアアアアア!
怪獣のような咆哮を上げる大宝イノス!少し動きが鈍くなったが…。
その瞬間!大宝イノスから呪いのような圧がほとばしった!
「ヤバっ!イチ!逃げて!」
フォレスタが宝イノスの右目を弓矢で撃ち抜く!
シャギャアアアアアアアアアアアアア!シャギャアアアアアアアアアアアアア!
怒りに我を忘れてる!まずい!大宝イノスがフォレスタに狙いを定めた!
逃げようとするフォレスタ!…が!足を滑らせた!そこに突進する大宝イノス!
「きゃあああああああああああああああ!」
「フォレスタ――――――――!」
『アクセル255』でも間に合わない距離で…大宝イノスの巨体がフォレスタに突撃するのが見えた。