23-勇者オリオンとシリウスさんとフォレスタ
「彼は勇者オリオン、100年前に竜人皇を追い詰めた最初の勇者だ」
驚いた。あの銀髪で長髪の背の高いイケオジは100年前の大勇者様だったのか!
「おそらく私は、オリオンに一番期待されている。夢の中でだが、剣技や能力のレクチャー、100年前にあった事なども少しだが話をして貰った。剣技『薙ぎ払い』も君と同じく夢の中で教えて貰ったんだ」
「凄いですね…やはりドラフト1位になるような人は世界が違うんだ…」
「そういう一面もたしかにあるだろう、だがイチくんの夢の中にも出てきたと言う事は、君も期待されていると言う事だろう…あるいは…」
シリウスさんはどこか切なそうな目をしながら、考え込んでいる。
しかし、何かを決心したのか、俺の目を見て、こう言った。
「イチくん、君を本気で鍛える。その宝イノスを解体したら、すぐに集落の外れに来てくれ」
そう言って、去っていった。
何だろう、鍛えてくれるのは嬉しいけど、いつになく真剣だったな。
「イチー、それより宝イノス解体しよ!」
振り返るとフォレスタが嬉しそうに宝イノスをペチペチ叩いている。
そうだな、まずはやるべき事をやろう。考えるのはその後だ。
ちなみに今回の宝イノス狩りは、結論から言うと大当たりだった。
小サイズの宝イノス三頭からは合わせて白金貨20枚くらいの稼ぎだったんだけど、中サイズ四頭からの稼ぎが凄かった。
そいつらは白金貨自体はそんなに持ってなかったんだけど、金持ちの荷物でも漁ったのか⁈と思うような、宝飾品やアクセサリーの類をいくつか抱えていて、宝袋から一つ宝飾品が出る毎にフォレスタが
「うそ!こ…こんなお宝が⁈」
「待って待って!ありえない!こんな凄いの見たことない!」
とキャーキャー騒いでいて、正直な話、金目の物が出る喜びよりフォレスタの嬉しそうなリアクションが見れる方が楽しかった。
「(元の世界で『アイドルが箱で買ったカードゲームのパックを開封する動画』を見た事があるけど、SSRが出た時のリアクションがめちゃくちゃ可愛くて、見ているだけで幸せな気持ちになった記憶があるけど、それに似てるな…)」
フォレスタに対する責任を果たすための宝イノス狩りだったけど、フォレスタの可愛いリアクション見るために続けるのも悪くないな…とすら思った。
『イチは宝イノス狩りのモチベが上がった!』
ゲームならこんな感じのメッセージウィンドウが出そうだなと思った。いや、そうじゃない。
ちなみに今回の狩りで白金貨約2000枚相当の稼ぎになった。大き目の宝イノスは長く生きてるから、その分良いものを抱えてるっぽいな。小物より大物狙いに絞った方が、効率は良さそうだ。まあそんなに簡単にはいかないだろうけど。
「キャー!イチ!ありがとう、良いペースよ!愛してる!」
「はいはい、ちゃっちゃと稼ぐから、待ってなよ」
「えへへ、今夜はごちそう作るからね!」
宝塚のトップスターみたいな雰囲気のフォレスタが、どんどん年齢相応の女子高生に見えて来た。やっぱりこっちが地なのかな⁈
そんな事を考えていたら、草むらからゲス郎が出て来た。
「金の匂いを感じて来たんでゲスが…一足遅かったでゲスね…」
ある意味凄い嗅覚だな!と呆れていると
「…状況から察するに、大量の宝イノスを狩れたみたいでゲスね。なるほど、大物ほど稼ぎが良いという訳でゲスか…良いでしょう!より良い稼ぎの為に、ここはアッシが一肌脱ぐでゲス!そのかわりアッシの取り分は稼ぎの二割で良いでゲスよ!」
金儲けへの瞬時の状況判断と分析力が凄い。あっという間に利権に群がって来た。いるよなー、苦しい時には手伝ってくれないくせに、都合がよくなると群がってくる奴!
「ゲス郎、これは俺がフォレスタとの約束の為に…」
そう言いかけた時に
「ゲス郎⁈…これはイチがボクの為に稼いでるんだよ…これはボクとイチのためのお金なんだ⁈そこに割り込んでくるって事は…ボクの矢でハチの巣になる覚悟があるって事で良いのかな⁈」
フォレスタが割り込んできた。外道相手に容赦しない宝塚トップスター主人公に戻ってる!
「ヒイッ!そ…そんなつもりは…失礼するでゲス!」
怯えて逃げようとするゲス郎。しかしフォレスタはゲス郎の襟をむんずと掴むと
「だが…一肌脱ぐと言う言葉は気になるね⁈何か宝イノスを捕まえやすくする良いアイデアがあるのかな⁈是非是非!聞かせて欲しいなあ♡」
蠱惑的な笑顔でゲス郎に質問する。
「へ…へへへ…宝イノスは宝を集める習性があるみたいでゲスから、なら今まで集めた白金貨を森に置いて、その近くに落とし穴でも掘っておけば、次から次へと、白金貨目当ての宝イノスがかかるかもって訳でゲス…」
あまりの魅力に鼻の下を伸ばしながら思わずペラペラ喋ってしまうゲス郎。
あーなるほど!餌で釣る事は考えていたけど、他の野生動物が集まって危険かなと思ってそのアイデアは捨ててたけど、餌が宝飾品なら、宝イノスしか釣れない!もしかしたら冒険者が拾おうとするかも知れないけど、グミルの森は基本グミル族の長の許可を得ないと立ち入り禁止だし、攻撃されても文句はいえないからなあ!
上手くいく保証は無いけど、試してみる価値はありそうだ。
少し感心していたら、フォレスタが
「うん!素晴らしいね!そのアイデアいただきだ!ところで…その白金貨を使うのは良いとして、落とし穴を作るのは大変だし、白金貨を悪い輩に持って行かれない保証はないから見張りもいるね!あんな危険のある森でそんな難しい仕事をやってのける人間はいるのかい⁈」
ゲス郎の顔をチラチラ見ながら言う!ヒエっという顔をするゲス郎!
そう言えば体長5mくらいのクマと虎をミックスさせたような生き物ベラ―もいたよなこの森…。
「そ…それはでゲスね…森の民の方々の力を借りて交代制で見張りを…」
「ゲス郎、やってくれるかい⁈お礼はボクの手作りスープでどうかな⁈」
「と…とんでもないでゲス!それは割に合わなすぎるでゲス!」
そんな言い合いをするゲス郎とフォレスタ。
するとフォレスタはゲス郎の唇に指を一本当ててジッと瞳を見ると
「ねえ…ゲス郎…このボクのために宝イノス狩りのための罠作りと、見張りをやってくれないかい⁈お礼は…ボクの手作りスープと輝くような最高の笑顔じゃ…不足かい⁈」
最強の顔面偏差値と甘いウィスパーボイスで陥落にかかる!バックにキラキラした星と花束の幻覚すら見える!顔の良さでごり押しする気だ!さすがにそれは無理だよ!
「はあああああああああんでゲスゥ!顔が!顔が良いでゲス!よろしいでゲス!アッシも男でさあ!見事その大役果たしてみせるでゲス!」
通ったよ!なんて顔面偏差値の力だ!そしてそのまま目を♡にしながら森の奥へダッシュするゲス郎。
呆然と見てると、フォレスタがこちらを振り返る。そして顔を近づけて俺の瞳を見ながらニッコリと微笑み
「ゲス郎、やってくれるって!嬉しいなあ!イチもよろしくね!ボ・ク・の・幸・せ・のために宝イノスをどんどん狩ってね!」
うわあああああああああ!顔が良いいいいいいいい!甘口のウィスパーボイスゥゥゥゥゥゥ!
「い…言われなくても…約束だから当然だ!」
「やったー!愛してるよ!イチ!今夜のスープの肉は増やしてあげるね!」
分かってはいたけど!フォレスタの顔面偏差値は最強だ!返事はハイかイエスしか許さない圧倒的な美しさ!チクショー!
「と…とりあえず解体も終わったし!シリウスさんの所に行ってくる!」
今おねだりされたら、どんな頼みでも聞いてしまいそうだ!
ダッシュでその場を離れる!
「いってらっしゃーい♡」
そんな声が後方から聞こえた気がする。その声すら脳がゾクゾクするほど蠱惑的で慌てて全力で逃げ去る!
そしてイチの姿が完全に見えなくなってから、フォレスタが
「本当にキミはちょっと特別なんだ…たぶん本当に好きなんだよ、イチ」
優しい瞳でボソッとつぶやいたのは誰も知らない。