22-宝イノス狩り日記その2
夢の中でまた銀髪で長髪の背の高いイケオジが立っている。
前回と違うのはカセーツさんはいない…が、代わりに別の美少年が立っていた。
『緑の風が吹く大地 我らの故郷に恵み満ちて
静かに流れるノース河は 未来へ続く希望の道♪』
前回流れていたのと同じ歌だ。リコがまた歌ってくれているんだろうか。
「(心地良いな…このまま眠っていたいな…)」
そう思っていたが、美少年の顔を見て驚いた。フォレスタに似ている。年齢は…14歳くらいだろうか、眉目秀麗だが、凛とした中にも優しそうな雰囲気がある。そして彼の手の中には長から借りているのと同じ風切りのナイフがあった。
「そのナイフは!もしかして君が…そのナイフの本当の持ち主なのかい⁈」
その美少年はコクリと頷くと、そのナイフを強めに握り込み…えぐりこむように突く仕草をした。
何度も何度も、見せつけるように、同じ動きを繰り返していた。
「(前の夢の時と同じだ…何かを伝えようとしている!)」
そう確信して、必死で美少年の行うナイフの突き方を目に焼き付ける。
『しろがねの城そびえ立つ 歴史を刻む誇りの証
優しき民の心は一つ 共に歩む明日の希望♪』
歌が続いている。
そうしてる間に、美少年はナイフを突くのをやめて後ろに下がった。すると今度は、銀髪のイケオジが前に出て剣を抜いた。
前回と違うのは、その剣が桁違いの魔力を放っていた事だ。凄い力を感じる!
そして銀髪のイケオジは、その剣を身体の中心に構え、刃を顔に近づけると…2秒ほど力を溜めるような仕草を見せた。
その直後に剣圧が数倍に増したような錯覚を感じる!
そして溜めた剣圧を開放するかのように横に薙ぎ払う動作を見せた。こちらも何度も何度も。
「(これも前回と同じだ!おそらく何かの必殺技だ!)」
必死で目に焼き付ける…が…同時に思った。
「(溜めの時間がある分だけ…今度の剣技は難しそうだぞ!俺に使えるのか⁈それとあの剣!自分が使っているのと同じ形だけど…なんか違う気がする?)」
戸惑いながら見ていたら銀髪のイケオジと目が合った。
「君なら大丈夫」そう目で語られた気がした。
そして剣を鞘に仕舞う銀髪のイケオジ。
『萌ゆる大地、我らの誓い 手を取り合い、明日へと進む
平和と愛が響き渡る ――――を守り続けよう』
歌が終わったみたいだ。
そのタイミングで、銀髪のイケオジと美少年は優しく笑い…そのままゆっくりと遠くの方へ姿を消した。
「待ってください!貴方には聞きたい事があるんです!もう少し時間を!」
パチっ
目が覚めたらしい。周りを見ると森の長に借りている小部屋と家具が、そして枕元にはリコが座っているのが見える。
「イチ様…どうかなさいました⁈」
リコが俺の顔を覗き込んでる。どうやら前回と同じく、オレに回復魔法をかけながら歌ってくれていたらしい。
「いや…なんか実りある夢を見た気がする…歌をありがとう。その歌を聴くと疲れが取れる気がする」
「そう言われると、嬉しいです、ふふっ」
リコが嬉しそうに笑う。リコの歌もだけど、彼女の笑顔も疲れを取ってくれるなと思った。
そして、今見た夢の内容を思い出し、リコに聞いてみる。
「リコのお父さんって…銀髪で長髪の…背の高いイケオジだったりする?」
「…いえ?私のお父様は金髪で短髪で、身長は…イチ様と同じくらいの高さでしたけど…何かありましたか?」
あれ?じゃあ、あの銀髪で長髪の背の高いイケオジは誰なんだ⁈てっきりリコのお父さんだと…。
そんな事を考えていたらリコに声をかけられた。
「そう言えば…今日は森に向かわないと聞きましたけど…お休みになられるのですか⁈」
「いや、休まないよ。ちょっと思いついた事があってね、今日は畑に行くんだ」
きょとんとした顔をするリコを置いて部屋を出る。
そのまま畑に向かうと、既にフォレスタがいた。
「あれ?畑仕事を手伝ってくれるの?」
「いや…今日はね、ちょっと確認したい事があるんだ!」
フォレスタと畑の周りの道を歩く。
「畑の周囲には獣害対策に頑丈な柵が設置されている。にもかかわらず、作物の被害は減っていないんだ。柵の高さが足りないのかな?と思っているんだけど…」
「いや…バイト先の先輩に聞いたんだけど、野生動物はジャンプ力があるけど、基本はなるべく跳ばないらしいよ。着地の時に脚を折ったりしたら、もう野生では生きていけないからね、たぶん、進入路は…」
畑の柵に沿って歩いて見てみると…一度柵の下を掘り返し、また土をかけて埋めた跡を見つけた。
「ここだな、周りの足跡から見てコイツは宝イノスで間違いない。ここから畑に侵入して食い荒らしてるわけか。ご丁寧に一度使った進入路を隠してやがる!頭良いな!」
「ははーん、読めたぞ!宝イノスを畑の侵入口で待ち伏せするってわけか!たしかに闇雲に探し回るより手っ取り早そうだね!」
フォレスタと話した後、近くの植え込みの陰に身を隠す。
1時間ほど経ったところで…宝イノスの群れが姿を現した!
そのまま、掘り返した跡のある侵入口をもう一度掘り返し侵入しようとしてる!ビンゴだ!
「待ってたぜ!一頭も逃さないぞ!『アクセル255』発動!」
ザザザザザザザー!
風を切りながら超高速で突撃する!不意を突かれた宝イノスは慌てて逃げだそうとするが侵入口は大渋滞だ!そこを狙って刃をふるう!小さめのを三頭ほど仕留めた!
中くらいの大きさの宝イノスはパニックになりながらも柵を思いっきり飛び越えて逃げようとする!
「跳んだな!思うつぼだ!」
跳んだ宝イノスの脚を狙って攻撃する!腱を切った!すると、切られた宝イノスは何かに引っ張られるような不自然な体勢でバランスを崩し…地面に叩きつけられた!そのまま悶絶する宝イノスに素早くトドメをさす!
「よし!四頭目!次は…!」
…しかし残念ながら、残りの三頭ほどの中サイズの宝イノスは大慌てで逃げて行ってしまった…。
「全部仕留めたかったな…仲間にも注意喚起するだろうし、もう警戒してここからは侵入しないだろうな…良い手だと思ったんだけど…ん⁈」
ズドォン!
轟音と共に、逃してしまっていた三頭の宝イノスが吹き飛ばされてきた!何事かと思い、轟音のした所を見てみると…
「シリウスさん!」
シリウスさんが悠然とそこに立っていた。どうやら剣を使って薙ぎ払ったらしい。
「おお、イチくんか!畑を荒らす害獣がいたら仕留めてくれと言われていたのだが…良く見たらこれは君たちが追っていた宝イノスかな⁈ならサービスだ!これは君が仕留めた事にしておいてくれたまえ!」
さすがシリウスさんだ!一瞬で三頭も仕留めた!でも驚くのはそこじゃなかった。
「シリウスさん…その剣技…!」
「『薙ぎ払い』の事か?良ければ教えるが…難しいぞこれは⁈」
シリウスさんが繰り出した『薙ぎ払い』の構え…!夢の中で銀髪のイケオジが何度も見せてくれた剣技だ!間違いない!
「実は…その剣技…俺もさっき夢の中で教えて貰ったんです!銀髪で長髪の背の高いイケオジに!」
「…!イチくんも夢の中であの方に会っていたのか!なら使えるかも知れないな!」
やはりシリウスさんもあの人に出会っていたのか!しかし…
「あの人何者なんでしょう⁈リコのお父さんの剣を使っていたので、自分はてっきり亡くなったリコのお父さんだと思っていたのですけど…」
そう言うと、シリウスさんが意外そうな顔をして
「彼とは話をしなかったのか⁈」
「何も喋ってくれなかったので…剣技は見せてくれたんですけど…」
そう話すと、シリウスさんは少し考え込んだ後
「君には資格があると言う事だな…話そう」
そう言って、周りを念入りに見回し、自分とフォレスタしかいないのを確認してから
「彼は勇者オリオン。100年前に竜人皇たちを追い詰めた最初の勇者だ」
ゆっくりと語りだした。