20-宝イノス狩り
「イチにやって貰いたいのは『宝イノス』狩りだよ!」
フォレスタがニッコリ笑いながら話す。
何ですか?…その宝イノスって⁈
「ついてくれば分かるよ♡」
フォレスタにそう言われて森の中をついていく、するとフォレスタは急に高い木に登りだし、何かを探すように周りを見回し始めた。
「この辺りにいると思うんだけどな…いた!」
そう言われてフォレスタの視線の先の方を見ると…50センチくらいの大きさをしたシマウマのような模様の、イノシシによく似た動物がいた。
「見えたかい?あれがボクが探していた宝イノスさ!あれをイチに狩ってもらおうと思ってね!そうだね…まずはお手本を見せようか!この距離なら…」
木の上から息を潜めつつ、弓矢を構えるフォレスタ。完全に狩人の目だ。
「今だ!」
ビシッ!
見事、宝イノスの眉間に命中!「キエエエエエ」と叫び、力尽きて倒れこむ宝イノス。
「凄い!一発で仕留めた!さすがだねえ!」
「当然さ!この距離なら絶対に外さないよ!ボクは狙ったモノは全て手に入れるのが信条だからね!」
思わず感嘆の声を捧げるも「当然」と言う反応のフォレスタ。そして彼女は仕留めた宝イノスに駆け寄ると、慣れた手つきで素早く解体し始めた。
「宝イノスは、畑を荒らす害獣なんだ。でも肉は美味しいし、皮は上質!森の民にとっては衣食住に関わる大事な生活の糧でもあるんだ!イチ!コイツを仕留めたら…一頭につき白金貨1枚出すよ!」
「なるほど!害獣退治の仕事か!それで金を稼げって事ね!」
そう言った後で、冷静に頭の中で計算してみた。…一頭につき白金貨1枚⁈
「って事は、白金貨10000枚用意しなきゃいけないから…10000頭も狩るの⁈俺が⁈無理だよ!」
フォレスタの持ってきた仕事に、思わず無理だと言ってしまう。しかしフォレスタは「まだ話は終わってないよ?」と言わんばかりの瞳で悪戯っぽく微笑む。
「慌てないでイチ!『とーっても簡単に稼げる宝探し』だって言ったでしょ?ここからが宝イノス狩りの楽しみなのさ!ほら…今、解体した宝イノスの腹の中に紫色の袋があるのが見えるでしょ⁈ナイフで開いてごらんよ!」
言われて、改めて仕留めた宝イノスの腹を見てみると、腹の中にたしかに紫色の袋がある!これか!
…って待ってくれ、開くの?俺が⁈まだ生暖かい内臓を⁈
そう思いながらフォレスタ見ると、悪戯っぽい目で「まさか、勇者様ともあろうものが…出来ないなんて言わないよね⁈♡」と言う目でこちらを見ている。
「ウエーン!チクショー!やってやらあ!」
半泣きになりながら、風切りのナイフで紫色の袋を解体する。
「…うわ⁈このナイフめちゃくちゃ解体しやすいな!」
包丁で肉を切った事はあるけど、このナイフは比較にならないほど凄い。肉が豆腐みたいに切れるのだ。このナイフ貸してもらって良かった!
切れ味に感激しながら、紫色の袋を裂くと…中から白金貨やちょっとしたアクセサリーのような物が出てきた!
「これは…!」
思わず声を上げる。それを見てフォレスタがドヤ顔で解説をしてくれる。
「これが『宝』イノスの名前の由来さ!こいつらは何故かは分からないけど、光る物とか魔法のかかった小物とかを食べて体内の宝袋に貯めこむ習性があるんだよ。大抵はガラクタが出てくることが多いのだけど、たまに凄いお宝を体内に貯めこんでる事があるんだ!」
「おお!」
「ちなみにコイツは…行き倒れになった冒険者の荷物でも食べたかな?白金貨13枚に宝石の指輪…ほほう!これは中レベルの水魔法耐性のアクセサリーだね!これなら売れば白金貨80枚は下らないな!うん!この一頭で白金貨100枚くらいの稼ぎだね!当たりだね!」
「おおおおおおおおおお!」
「ちなみに宝イノスの過去最高の大当たりは、宝袋の中に総額で白金貨12000枚分の価値がある宝飾品を抱えていたやつかな?ね⁈白金貨10000枚が見えてきたでしょ⁈」
ウィンクしてニッコリと笑うフォレスタ。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
思わず叫んでしまった!でもこれならイケる!白金貨10000枚に現実味が出て来た!
そうだ!ついでにもっと沢山仕留めて、軍資金の足しにしよう!害獣ならいくら仕留めても構わないだろうからね!
「よーし!やるぞー!」
「お!やる気が出て来たね!元気な君は好きだよ!じゃあ特別サービスだ!ボクたち森の民で、仕留めた宝イノスの運搬と解体をやってあげるよ!君は宝イノスを見つけて狩ってくれるだけで良いからね!うーん!ボクって優しいなあ!」
「おうさあ!よーし!宝イノスのやつめ!狩りつくしてやるぞ!うおおおお!」
希望にあふれた雄叫びをあげる俺と
「うん!本当に期待してるよ!ボ ク の イ チ さ ま♡」
小悪魔っぽい笑顔で応援してくるフォレスタ。本当に顔が良いから絵になる。
そして2時間後…典型的なブラックバイトの勧誘の手口だったんじゃないかと気付く。
探してもいないのだ、宝イノスが。
そりゃそうだ、野生動物だもんな…狩る者が近づいたら逃げるし、ゲームの世界ですら稼げる雑魚モンスターは遭遇率が低い。ゲームと違うのは、喉は乾くし、腹も減る。脚に疲労が溜まっていく事だ。キツイ!
それからさらに30分後。
やっと一頭見つけた!
けど…よく考えたら俺、弓矢使えないぞ!どうやって仕留めれば良いんだろう⁈
そんな顔をしながらフォレスタの方を見ると…
「はっはっは!イチ!キミは祝福持ち勇者サマでしょ?」
そう笑いながら言われた。
「あ、そうか『アクセル255』で加速して近付けば良いのか…って、あんな大物相手に接近戦やるの⁈手伝ってよ!」
「良いよー!その場合、お手伝い賃は貰うからね!稼ぎの2割は貰うけど良い⁈」
「森の民がめついいいいいい!くそ!一人でやるしかないか!『アクセル255』発動!」
と口ずさんだ瞬間に
目の前に、1メートルくらいの大きさの、見た目が大猪な塊がミサイルみたいに突撃してくるのが見えた。
「ぬわあああああああああああ⁈」
全力で横方向に回避する!ほんの0.1秒前までいた所に、相撲取りのタックルみたいな圧が通過する!
そのタックルは自分の後ろにあった大木をへし折り、そしてそのまま、そのさらに後方にあった大岩に頭から激突した!
ドゴン!と言う鈍い音がして、岩が揺れる
おそるおそる振り返って見てみると…宝イノスは脳震盪を起こしてノビていた!
今だ!風切りのナイフを全力で振り下ろす!トドメを刺した!
「や…やったー…一頭…仕留めたぞ…!」
汗だくになりながらその場で解体。宝袋を開く!
さてさて中身は…?
「では確認するよー。ふむふむ…白金貨2枚と…ちょっと綺麗な石ころかな~これはお金にならないね~残念!でも一頭仕留めたから白金貨1枚の報酬だよ!…合わせて白金貨3枚の稼ぎだね!今回はハズレだね!」
「ぐわあああああああ!」
「はっはっは!こんな日もあるさ!さあ!めげずに宝イノスを仕留めよう!ボクは汗水たらして頑張るイチが本当に大好きなんだ!頑張ってね!ボクの勇者サマ!」
本日一番の上目使いの超絶美少女スマイルととろけるアイスクリームのような甘い声で、自分をたらしこむフォレスタ。くう!顔が!声が!良いいいいいいい!この笑顔の為なら頑張れ…
「頑張れるわけあるかああああああああああ!割に合わないわああああああああああ!」
森の中に俺の叫びが木霊した。