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1-ドラフト指名はされたけどさ

「初めまして勇者様!私はワーミ領の姫で、リコリス=スターキャスラと言います!リコとお呼び下さい!」


どうやら俺を指名したらしいお嬢さんはそう名乗った。


第一印象は「小さくてかわいい」

金色でふわふわの長い髪、翠玉(エメラルド)色の綺麗な瞳、華奢な体つきだが姿勢は良くて品がある。

身長は…140cmも無い感じで、見た感じは13歳くらいだろうか⁈


(育ちが良さそうな雰囲気を纏っていたのは、お姫様だったからか)


しかしその割には地味な格好だ。

白地が多いレースの入ったブラウスに、緑色の前開きで襟ぐりの深い短い袖なしの胴衣とスカート。

スーパーの同僚の先輩に見せて貰った、ドイツとかオーストリアの写真集に載っていた民族衣装に似ている。

とても似合っているのだが…周りが漫画に出てくるヨーロッパの貴族様みたいなヒラヒラしたドレスを纏っているので、とにかく地味に見えるのだ。

子ウサギみたいに、時々ぴょこたんぴょこたん跳ねているのが可愛い。


「名乗ってくれてありがとう。俺の名前は北田順一だ、よろしく」


「ズ…ジュン…ズンイチ…?」


どうも彼女たちには、この名前は発音が難しいらしい。


「イチで良いよ、勇者様ってのはなんか、こそばゆいからね、それで頼む」


「分かりました!イチ様!」


「様」は要らないんだけどな…と思いながら気づいた。

明らかに外国と言うか異世界なのに、言葉が通じている!


「召喚者は、この世界に来る時に祝福をいただいています。祝福の内容は人によりますけど、大抵、この世界の言葉や文字が分かる祝福は受けていますね!イチ様の世界にしかない物の名前とかは分からない事が多いですけど、大抵の生活会話は通じますよ!」


嬉しそうに笑うリコ、それにしても至れり尽くせりだな…。

勇者候補を47人も召喚するくらいだ、召喚者へのインフラが結構整っているのかも知れない。


そう思いながら窓の外を見た。

青い空に二つの月、そして空を竜のような生き物が飛んでいるのが見える。


だが窓には自分のいた世界と同じようなガラスが嵌っているのだ。


この世界に元々あったのか、召喚された先人が伝えたのか、それは分からない。

異世界と言っているが、その割に見覚えのあるような物も多く見られる。

本当は、自分の世界の他の国なんじゃないかと思えるくらいだ。


しかし空気の味が違う…何か旨味のようなものが混じってる気がする。


この世界は間違いなく異世界なんだろう、そして自分はここで何かを成さねばならないようだ。

…しかし自分はこの娘さんに言わなきゃいけない事がある。


「状況は大体わかった…俺はアンタたちの危機を救うための勇者として召喚されたんだな…だが…」


俺…北田順一は重苦しい目をしながら、リコに言った。


「悪いが、元の世界に帰してくれ。姉がお産で子供が亡くなっている上に、父や義理の兄も大変な事になっているんだ、とてもアンタたちを助ける余裕はない、今すぐ戻って家族を助けないと…」


そう言いかけて、ふと思い出した。召喚される直前に問われた、ある言葉を。


「召喚された時に…!一発逆転の手があるって言われた気がする!もしかして…君たちを助けたら、何か俺の状況が好転するような凄い報酬が貰えたりするのか?」


思わず、食い入るようにリコに問う、すると彼女は待ってましたとばかりに報酬の話をしだした。


「実は召喚者への報酬として、この世界を救ってくださった方には、この世界の宝物を3つまで持ち帰る権利があるんです!『屋根の高さまで飛べる羽』や『一生しわ取りをしなくて良い服』!『無限に水の出る水筒』!他にも!他にも!凄いものが一杯あるんですよ!」


嬉しそうに語るリコとは裏腹に、明らかにテンションが下がっていく俺。

それを見てリコは自信たっぷりに切り札を出してきた。


「あとは…死者を一人だけ蘇らせる『魂の蘇生結晶(レイヤール)』とか!」


「そんなものがあるの⁈」


思わず身を乗り出して聞き返してしまった。

それがあれば…姉ちゃんの子供を生き返らせる事が出来るかも知れない!

勇者を引き受ける価値はある!


…が、確かめねばならない事もある。


「その…『魂の蘇生結晶(レイヤール)』ってものが本当にあるかどうか確認しても良いかな⁈」


明らかに焦った顔をするリコ。

そして…申し訳なさそうにこう言った。


魂の蘇生結晶(レイヤール)は確かに私たちの宝なのですが…この世界を支配している竜人皇りゅうじんおうに取り上げられてしまって…でも!竜人皇を倒して取り返した暁には、必ずお渡ししますので!」


「現物は無いんかーい!」


思わずそうツッコんでしまった。


「でも!サクッと竜人皇を倒せば!イチ様ならやれますよ!たぶん!」


必死で説得するリコ。


「そんな事言われても…そう言えば竜人皇ってどのくらい強いの?」


そう尋ねると、リコは必死で検算して


「イチ様の強さを100とすれば…竜人皇は53万くらいでしょうか…あと竜人皇を守る竜人の兵士が10000名います…」


「無理やないかーい!」


帰り支度を始めるイチと裾を引っ張って引き止めようとするリコ。

それを見て、スッと音もたてずに先ほどの怪しい小男が声をかけてきた。


「それについては、アッシの方から説明をさせていただきますぜ」


「そ…そうです!彼から是非この世界の事や、先の事とかの説明を受けて下さい!彼は私を支えてくれる従者で頼りになるのですよ?」


頼りになる従者⁈この男が?

その頼りになる従者とやらは、耳の尖った小男で下卑た顔をしている。

ファンタジーの世界におけるゴブリンとノームの間みたいな容姿をしていて

オーバーオールみたいな服に蝶ネクタイ、でも服はヨレヨレでとてもお姫様の従者には見えない。

おまけに従者なのにさっきまで飲んでいたのか、酒臭い。

見るからに怪しいのだが…。


いや、人は見かけではない、もしかしたらこんな見た目でも切れ者かも知れない。

それによく考えたらこの世界の事は何も知らないし、よく考えたら帰り方も分からないのだ。

話くらいは聞いても良いのかも知れない。


「アッシの名前はゲス山ゲス郎、好きなものはエロい女と蔑むような視線と不労所得でさ。勇者様についていけば甘い汁が吸えると思ってますンで、全力でしがみついて離れないんでよろしく!ゲヒヒヒヒ!」


「見た目通りやないかーい!」


全力で帰り支度をする自分と泣きながら縋りつくリコ、そして俺の脚にしがみついて離れないゲス郎。

気がついたら、にぎやかなドラフト会場の中でも一段と目立つ存在になっていた。





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