18-グミルの森
「まるでビル街みたいな森だ…」
思わずそんな声が出た。
フォレスタに案内されて辿り着いたグミルの森は…50m超えの大木がずらりと並んでいるかと思ったら、鬱蒼と茂るシダ植物みたいな、丈の小さな木の群れがあったり、蔓を使って人を襲う人面樹が大量に生えている湿地帯もある、南米のジャングルと、日本や北欧の山林をごちゃ混ぜにしてファンタジー風味を振りかけたようなインパクトのある森だった。
「虫や生き物も多いな!原始の森ってこんな感じだったのかな⁈」
思わずそんな感想を呟いてしまう。それにしても…暑い!
「湿気が凄いでゲス…」
「酒じゃなくて水が欲しいさあ~」
「アタシも~酒じゃなくて水~」
ゲス郎やどぶろくさん、エルマさんが次々と弱音を吐く。
サバイバル慣れしてる社長だけがスイスイ進んでいる。
そんな我々を見たフォレスタが笑いながら言った。
「ははは!こんな所でへばっていては、森の集落には辿り着けないぞ!休んでも良いんだが…その場合はベラーに襲われてしまうぞ!さあ!歩く!」
「ベラーってなんなのさあ~」
「あれさ」
フォレスタが指さした方向に、体長5mくらいのクマと虎をミックスさせたような生き物がのっしのっし歩いていくのが見えた。
「あ…歩くさあ~!」
慌てて走り出すどぶろくさん。それを見てフォレスタが
「心配ない。道中は我々森の民が警護している!このグミルの森は本来は森の民以外は立ち入り禁止なんだが、キミたちはお客様だ!ちゃんと安全に集落まで案内してあげるから安心したまえ!ハハハ!」
大笑いしながら解説をしてくれた。
たしかに言われてみれば、ここまでの道中、疲労はあったけど、野生動物や竜人たちの襲撃が一切なかったような⁈
もしやと思って見上げたら、高い木の上に、小屋の様な物と弓矢を持って立っている人間たちが見えた。
「グミルの森自体が天然の砦なんだ。竜人たちも簡単には手出しは出来ないさ!おお、そう言っている間に着いたぞ!ようこそ我がグミル族の集落へ!」
フォレスタが意気揚々と指をさす。その方向を見ると森が切れていて、そこには開けた土地があった。
多数の集落だけでなく、綺麗に整備された大きな池や畑があり、家畜なども放たれていた。そして集落の真ん中には一際大きな木があり、その上には白壁の建物が据え付けられている。
白壁の建物は、よく見ると金色の装飾が入っているため、まるで城のような佇まいを見せており、森の中なのに小さな王国が存在するかのようにも見えた。
「ここがフォレスタの住む森の集落か!…凄い…ちょっとした都だ!」
「何日が滞在した事がありますけど、とても過ごしやすい所でしたよ!」
思わず唸っていたら、リコが嬉しそうに解説してくれる。
すると、その解説にかぶせるかのように、フォレスタが話しかけてきた。
「着いて早々悪いが…長であるボクの父に会ってもらうよ。客人としての礼儀だからね!君たちが来ることは長には伝えてある。あの大樹の上の建物の中で我々を待っているはずだ!さあ行こうか!」
そうだ、滞在させて貰うんだ、まずは挨拶しなきゃ!と思って、すぐにでも向かおうとしたら…前から見覚えのある人たちが歩いてくるのが見えた…あれは!
「シリウスさん!マムリ姐さんにジルコンさんも!」
「イチくんたちか!勇者狩りから逃れられたみたいだね!良かったよ!あとは…社長に、どぶろくさんにエルマさんか…ワーミ領の姫様方もいるようだね!カセーツくんがいないようだが?」
「カセーツさんは…」
シリウスさんたちドラフト1~3位の人達に、今までの事を話した。
ワーミ領の今期の税金はもう大丈夫そうだと言う事、カセーツさんが行方不明になってしまった事、そして、エリトの裏切り。最後のは可能な限り冷静に、なるべく客観的に話そうとしたけど、つい怒りの感情が入ってしまい支離滅裂になりかけて、何度も社長に補足して貰うことになってしまった。
全てを聞いたシリウスさんは難しい顔をしながら声を漏らした。
「エリトくんは…強い野心を持っているのは分かってはいたのだが…ここまでやるとは…」
「同じ世界から来た勇者だし、殺したくはなかったから改心の機会くらいはあげようと思って手心を加えたのですが…裏切られて危うく全滅する所でした…ここにいるフォレスタに助けて貰ったんです。」
「そうか…フォレスタさんありがとう。実は我々も森の民の協力が欲しくて、ここに来たんだ。さっき長にこちらの要望を届けたら…いやあ、吹っ掛けられたよ。手持ちの路銀の半分を取られてしまった。散々だと思っていたが…君たちと合流できたのならラッキーだったかな。よし!エリトの件は任せてくれたまえ。裏切り者として、勇者仲間の支援対象から外す!」
よし!上出来だ!
不安はあるけど、これでエリトは動きにくくなるはず!
対竜人に特化できる!
そして、エリトの残した手紙を念のためシリウスさんに確認してもらったら…やはり噓八百の内容だった。
手紙にあった、勇者たちの集合場所に指定されたドラゴニアの街は現在、勇者狩りに選抜された竜人の部隊が駐留しているらしい。本当に性格の悪い奴だ。
しかし、気になる事がある。シリウスさんたちは森の民の協力が欲しくてここに来たと言ったけど何の用だったのだろう?あと路銀を半分も取られたと言うのは幾らなんでも尋常じゃない。大丈夫だろうか?
「いや…森の民は優れた鍛冶工房を持っていると聞いていたのでね、戦うための武器を作ろうと思っていたんだ。しかし…まあなんと言うか、森の民は金にうるさいとは聞いていたが想像以上だったよ」
「アタシたち結構お金はため込んでいたんだけどネ…いや、本当にガメついワ!まけてもらおうとしたら、建物が揺れるんじゃないかと思うような大声で怒鳴るし!相当な頑固者よ!アレ!」
「でも工房の武器は想像以上だったぞ!その価値はある!ガハハ!」
シリウスさん、マムリ姐さん、ジルコンさんが口々に森の民の長について語る。
森の民って言うくらいだから、なんとなくファンタジー世界のエルフみたいなものを想像していたけど、ドワーフみたいな職人気質もあるのかも知れないな。
…って、もし、森の集落に招いて貰った見返りに大金を吹っ掛けられたら⁈払うお金ないよ!ヤバい!どうしよう!
そんな顔をしていたら、フォレスタが優しく声をかけてきた。
「心配いらないよ、イチ、君なら大丈夫さ…たぶんね」
「え⁈どういう事なの⁈」
「まあ会えばわかるよ…」
そんな話をしながら歩いていたら、先ほど遠くから見えていた…一際大きな木の上に据え付けられた建物の前に辿り着いた。
そして建物を間近で見て驚いた。野球場みたいな広さの大樹で、据え付けられた建物も体育館みたいなサイズだったのだ。
遠目には木の上の秘密基地だったのに。
フォレスタが建物の扉の前に立った。そして中に向かって叫ぶ。
「フォレスタです!ただいま戻りました!ワーミ領の勇者をお連れしました!」
「入れ」
ドスの効いた低い声が中から聞こえた。